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第2部 10章
引き継ぐということ 23
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こうやって喋っているとツンツンしているが、まだ中学生だよなぁと思ってしまった。それに手際よく器用に洗濯物を取り入れてくれる。
薙くんのお母さんと翠さんとは、薙くんがまだ5歳の時に別れたと聞いている。それからはずっとお母さんと二人で頑張ってきたのだろう。俺も母と二人で暮らした時期が長かったので、その気持ちを少しだけ理解できた。
「これで終わり? ねぇ下着類は?」
「あぁそれは、こっちに干しているよ」
案内したのは寺の表立った庭ではなく、離れの一階の軒下。塀に囲まれていて、ここは住んでいるものしか入れないガードされた場所。
「なんでこんなに離れた場所に干すんだよ、めんどくさっ」
「えっと、それは……」
上着やズボンだけでも男四人分の洗濯物を干すのはかなりの場所を取るし、以前、翠さんの下着を狙う変質者が出たとかなんとかで……下着だけは誰も侵入出来ない別の場所に干すようにと、流さんからきつく言われていた。
寺の表の庭は……確かに寺に来る人なら入り込めてしまう場所だった。
それにしても翠さんの下着って男が取ったのか。それとも女性か。ツッコミたかったけれども、墓穴を掘る気がしてやめておいた。
翠さんの人気は檀家の女性陣からすごいらしく、未亡人に狙われるとか流さんが冗談交じりにぼやいていたが、そういう流さんだって同じくらいモテモテだってこと知っている。
「まぁいいよ、早く取り入れよう。夕立がくるかも」
「本当だ」
いつの間にか空には雨雲が立ち込めていた。
「……これ何?」
「あっそれは……えっと……その、流さんの褌」
「ふんどしーー? 時代劇じゃあるまいし、この家どーなってんの」
「それ旅行に持って行ったの洗ってなかったからって、今頃出してきて」
くそぉ~っと流さんを恨んだ。なんで今日に限って褌なんて洗わせるんだよ。
「洋さんって面白いな。さっきから顔を赤くしたり青くしたり、28歳になんて、やっぱ見えないな、同レベル。いや俺以下か」
「えっ? ちょっとそれはないだろう」
薙くんに不敵に笑われてしまった。
参ったなと思いながらも、丈のボクサーパンツだけは、俺がさっさと取り入れた。
その間……薙くんは褌と格闘していた。
****
「兄さん、そろそろ夕立が来そうですよ」
流に促され空を見上げると、黒い雲が木立の間に広がっていた。
「本当だ。早く戻らないと」
「だから車に乗ろうといったのに」
「ごめん、流」
葬儀の後、雨が降りそうだからタクシーに乗ろうと言われたのに、断ったのは僕だ。
タクシーに乗ったら十分足らずで着いてしまう。でも歩けば二十分以上はかかる帰り道。僕は少しでも流と二人きりでいたかった。
そんな気持ちを察してくれたのか、流は無言で歩き出してくれた。
見上げた空がピカッと光り雷鳴が広がる。僕は轟く音に肩がビクッと震えてしまうのを必死に押し隠した。
こんな歳になっても雷が本当は怖いなんて笑われる。雨が一滴二滴と……乾いた地面を濡らした。そしてザァァと一瞬で土砂降りになった。
「うわっひどいな、兄さん、こっちへ」
流が突然僕の手を引いて走り出した。
雨で足元が悪く袈裟が雨を含み身体が重たいのに、心はどんどん軽くなっていった。
薙くんのお母さんと翠さんとは、薙くんがまだ5歳の時に別れたと聞いている。それからはずっとお母さんと二人で頑張ってきたのだろう。俺も母と二人で暮らした時期が長かったので、その気持ちを少しだけ理解できた。
「これで終わり? ねぇ下着類は?」
「あぁそれは、こっちに干しているよ」
案内したのは寺の表立った庭ではなく、離れの一階の軒下。塀に囲まれていて、ここは住んでいるものしか入れないガードされた場所。
「なんでこんなに離れた場所に干すんだよ、めんどくさっ」
「えっと、それは……」
上着やズボンだけでも男四人分の洗濯物を干すのはかなりの場所を取るし、以前、翠さんの下着を狙う変質者が出たとかなんとかで……下着だけは誰も侵入出来ない別の場所に干すようにと、流さんからきつく言われていた。
寺の表の庭は……確かに寺に来る人なら入り込めてしまう場所だった。
それにしても翠さんの下着って男が取ったのか。それとも女性か。ツッコミたかったけれども、墓穴を掘る気がしてやめておいた。
翠さんの人気は檀家の女性陣からすごいらしく、未亡人に狙われるとか流さんが冗談交じりにぼやいていたが、そういう流さんだって同じくらいモテモテだってこと知っている。
「まぁいいよ、早く取り入れよう。夕立がくるかも」
「本当だ」
いつの間にか空には雨雲が立ち込めていた。
「……これ何?」
「あっそれは……えっと……その、流さんの褌」
「ふんどしーー? 時代劇じゃあるまいし、この家どーなってんの」
「それ旅行に持って行ったの洗ってなかったからって、今頃出してきて」
くそぉ~っと流さんを恨んだ。なんで今日に限って褌なんて洗わせるんだよ。
「洋さんって面白いな。さっきから顔を赤くしたり青くしたり、28歳になんて、やっぱ見えないな、同レベル。いや俺以下か」
「えっ? ちょっとそれはないだろう」
薙くんに不敵に笑われてしまった。
参ったなと思いながらも、丈のボクサーパンツだけは、俺がさっさと取り入れた。
その間……薙くんは褌と格闘していた。
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「兄さん、そろそろ夕立が来そうですよ」
流に促され空を見上げると、黒い雲が木立の間に広がっていた。
「本当だ。早く戻らないと」
「だから車に乗ろうといったのに」
「ごめん、流」
葬儀の後、雨が降りそうだからタクシーに乗ろうと言われたのに、断ったのは僕だ。
タクシーに乗ったら十分足らずで着いてしまう。でも歩けば二十分以上はかかる帰り道。僕は少しでも流と二人きりでいたかった。
そんな気持ちを察してくれたのか、流は無言で歩き出してくれた。
見上げた空がピカッと光り雷鳴が広がる。僕は轟く音に肩がビクッと震えてしまうのを必死に押し隠した。
こんな歳になっても雷が本当は怖いなんて笑われる。雨が一滴二滴と……乾いた地面を濡らした。そしてザァァと一瞬で土砂降りになった。
「うわっひどいな、兄さん、こっちへ」
流が突然僕の手を引いて走り出した。
雨で足元が悪く袈裟が雨を含み身体が重たいのに、心はどんどん軽くなっていった。
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