737 / 1,657
第2部 10章
引き継ぐということ 17
しおりを挟む
丈はキスが上手い。
外科医として優秀だとキスまで上手いのか。そんなことを唇を吸われながら頭の中でぼんやりと考えていた。
「洋、よそ見するな」
「んっ」
その大きな手の平で俺の首の後ろを支えられ、腰をぎゅっと抱かれれば、下半身がぶつかり合う。
息継ぎも出来ない程巧みに舌を入れられ、かといって強引ではなく優しく俺の口腔内を駆け回る。やがて俺の腰を抱いていた手のひらは背中へ伸びて、薄いシャツ越しの背中にその温もりを熱く感じる。
優しい唇、優しいキスは、俺の震える舌先を誘い出し、ちゅっと吸ってくる。
「洋……可愛いな」
腰に響く低音に、いよいよ立っていられなくなる。
とその途端、躰をそっと離されてしまった。
腰が震えているので、ふらつきながら壁にもたれかかった。
「大丈夫か。あぁもう時間だ。それじゃ行ってくるよ」
「……丈は意地悪だ」
「キスが上手いと言って欲しいな」
クスッと大人の笑みを浮かべる丈が、憎たらしいよ。
毎朝これじゃ、たまらない。
朝から俺を欲求不満にしてくれるようなものだ。
部屋に残された自分の下半身を見れば、うっすらと半勃ちになっていて、恥ずかしさで死ねる。ふにゃふにゃとカチカチの間位の硬さとやわらかさを持った状態で……これを十分でない、足りていない状態と人は言うのだろう。
「もうっ……これどうしたらいいんだよ」
焦らされているような気がする。
俺から欲しくなるようにと。
****
躰が落ち着いてから、部屋をそっと出た。
翠さんから薙くんと一番歳が近いのは俺だから、よろしく頼むと気軽に言われたが、本当は少し不安だった。
俺は相変わらず人付き合いが上手い方ではないし、俺が薙くん位の年齢の頃の記憶はあまり良いものではないから、役に立つとは思えないのに。
それでも、翠さんの頼みならと引き受けた。
深呼吸してから薙くんの部屋をノックする。
「誰?」
「あの洋です。入ってもいいかな」
「……どうぞ」
部屋に入ると薙くんは窓際に立っていた。開けっ放しの窓から風が吹き込み、白いカーテンが羽ばたくように揺れていた。
天使のような光景だと思った。
若い少年らしい躰は折れそうに細く、横顔はお父さんの翠さんに似ていて儚げに見えた。
だが俺を睨むように見つめる眼は鋭く、きりっとした眉をひそめていた。
「何の用ですか」
「あ……足りないものはないかと思って。俺が君の部屋の家具とか用意したけど大丈夫だったかな。趣味に合ったかな」
すると少しだけ戸惑った表情で彼はそっぽを向いて、小さな声で呟いた。
「……悪くなかった」
へぇ、つっぱているのに、可愛いところもあるんだなと思ったのもつかの間。
「ねぇ誰かとキスしたばかりなの? 唇が濡れてるよ」
「ええっ?!」
思わず自分の唇を、手の甲でゴシゴシと拭ってしまった。
「はははっ! ひっかかってんの。冗談だよっ」
「ええっ……」
外科医として優秀だとキスまで上手いのか。そんなことを唇を吸われながら頭の中でぼんやりと考えていた。
「洋、よそ見するな」
「んっ」
その大きな手の平で俺の首の後ろを支えられ、腰をぎゅっと抱かれれば、下半身がぶつかり合う。
息継ぎも出来ない程巧みに舌を入れられ、かといって強引ではなく優しく俺の口腔内を駆け回る。やがて俺の腰を抱いていた手のひらは背中へ伸びて、薄いシャツ越しの背中にその温もりを熱く感じる。
優しい唇、優しいキスは、俺の震える舌先を誘い出し、ちゅっと吸ってくる。
「洋……可愛いな」
腰に響く低音に、いよいよ立っていられなくなる。
とその途端、躰をそっと離されてしまった。
腰が震えているので、ふらつきながら壁にもたれかかった。
「大丈夫か。あぁもう時間だ。それじゃ行ってくるよ」
「……丈は意地悪だ」
「キスが上手いと言って欲しいな」
クスッと大人の笑みを浮かべる丈が、憎たらしいよ。
毎朝これじゃ、たまらない。
朝から俺を欲求不満にしてくれるようなものだ。
部屋に残された自分の下半身を見れば、うっすらと半勃ちになっていて、恥ずかしさで死ねる。ふにゃふにゃとカチカチの間位の硬さとやわらかさを持った状態で……これを十分でない、足りていない状態と人は言うのだろう。
「もうっ……これどうしたらいいんだよ」
焦らされているような気がする。
俺から欲しくなるようにと。
****
躰が落ち着いてから、部屋をそっと出た。
翠さんから薙くんと一番歳が近いのは俺だから、よろしく頼むと気軽に言われたが、本当は少し不安だった。
俺は相変わらず人付き合いが上手い方ではないし、俺が薙くん位の年齢の頃の記憶はあまり良いものではないから、役に立つとは思えないのに。
それでも、翠さんの頼みならと引き受けた。
深呼吸してから薙くんの部屋をノックする。
「誰?」
「あの洋です。入ってもいいかな」
「……どうぞ」
部屋に入ると薙くんは窓際に立っていた。開けっ放しの窓から風が吹き込み、白いカーテンが羽ばたくように揺れていた。
天使のような光景だと思った。
若い少年らしい躰は折れそうに細く、横顔はお父さんの翠さんに似ていて儚げに見えた。
だが俺を睨むように見つめる眼は鋭く、きりっとした眉をひそめていた。
「何の用ですか」
「あ……足りないものはないかと思って。俺が君の部屋の家具とか用意したけど大丈夫だったかな。趣味に合ったかな」
すると少しだけ戸惑った表情で彼はそっぽを向いて、小さな声で呟いた。
「……悪くなかった」
へぇ、つっぱているのに、可愛いところもあるんだなと思ったのもつかの間。
「ねぇ誰かとキスしたばかりなの? 唇が濡れてるよ」
「ええっ?!」
思わず自分の唇を、手の甲でゴシゴシと拭ってしまった。
「はははっ! ひっかかってんの。冗談だよっ」
「ええっ……」
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる