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第2部 10章
引き継ぐということ 7
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「えっ……この写真って」
「わっ翠やめろっ返せ!」
「あっ駄目だ!」
慌てた流が、僕の手から写真を取り上げようとした。僕も渡さないもんだから、まるで小さな子供のように揉み合ってしまった。
もう一度まじまじと日の光に透かして写真を眺めると、それは高校の遠泳教室時に同級生と並んで撮影したものだった。
これって褌姿だよな。
まぁ……ほぼ全裸の若い僕が屈託なく笑っていた。
「翠……ごっごめん」
高校時代に机の前に飾った写真が、忽然と消えてしまったのを思い出した。なんだ……そうか、流が持っていたのか。
「これどこに行ったのかと思っていたら、なんで……」
「だから、ごめんっ!」
気まずそうな流の真っ赤な顔を見上げて、流石に鈍い僕でもピンと来た。
「あ……や……もしかして、これで?」
「わぁ!!!翠の口から言うな」
「だが……」
「あぁこれで抜いたよっ! 何百回もな!」
あまりに堂々と言われて、恥ずかしいやら呆気にとられるやらで、僕はポカンとしてしまった。と同時に、なんだかおかしくなって笑いも込み上げて来た。
「くくっそうかそうだったのか」
「なんだよ笑いごとじゃないぞ、当時は真剣だったんだから」
「ん、そうだな。えっと……その、ありがとう」
ありがとう? って自分で言って、なんだか変だとは思った。でもそんなに昔から僕のことを一途に思ってくれていたのが嬉しくて、細かいことはどうでもよくなった。
「もうこんな写真いらないだろ。それにしても高校時代の僕は随分貧弱だな」
「そんなことない!すごく綺麗な写真だった!」
真顔でそんなこと言われても……思わず赤面してしまった。と同時に至近距離に立っている、流に触れてもらいたい衝動にかられた。
「流……なぁ触れてくれないか。少しだけ……」
思わずその逞しい腕を掴んで懇願してしまう。自分の口からこんな言葉が出るなんて、夢にも思わなかった。
「……っ」
流は堪えるような表情の後、僕の顎を掴んでクイッと上を向かせ、唇を合わせてくれた。
そのまま物置部屋のカーテンの影で、僕たちはそっと抱き合った。流の手が僕の腰を抱き、僕は逞ましい流の背中に手をまわした。
途端にふわっと陽だまりのような温もりに包まれたようだった。それは、あの宮崎での熱い日々が夢ではなかったと実感する瞬間だった。流の唇はしっとりと濡れていて、宮崎で僕に降り続けた雨と同じだった。
「翠はひどい奴だ。一度触れたらもっと触れたくなるのを知っていて煽るのだから」
「ごめん……でも、触れてもらえないと寂しいものだな」
「あぁもう! そんな可愛いこと言って煽らないでくれよ。理性がぶっ飛びそうなの我慢しているのに!」
流は僕よりもずっと忍耐強かった。長年想ってくれた分この恋を大切に続けていきたいと願ってくれるのが、ひしひしと伝わってきた。
僕もしっかりしないと。
流の真剣な想いに応えてやりたい。
「流、無理させたな」
「違うっそうじゃない。翠の方からこんなに積極的に求めてもらえるなんて思わなかったから、どう対処していいのか戸惑っている。ずっとずっと俺の片想いだったから」
肩を小さく震わせる流のことを、心から愛おしいと思った。いつだって僕を見守ってくれた君のこと、僕はどんどん好きになっていく。弟としての好きをはるかに上回る熱に冒されているのは、僕の方だよ。
「今は両想いだろう。僕は流が好きだよ」
そんな言葉が自然と零れ落ちた。
砂糖のように甘い言葉が、僕たちをどんどん蕩けさせていく。
禁断でもいい。
どんな制約があってもいい。
僕はもう自分の想いが、堰き止められないものになっていることに気が付いてしまった。
秘められた場所で、限られた逢瀬でもいい。
また僕は流に抱かれたい。
そんなことを願ってしまう、不埒な衝動に駆られる昼下がりだった。
「わっ翠やめろっ返せ!」
「あっ駄目だ!」
慌てた流が、僕の手から写真を取り上げようとした。僕も渡さないもんだから、まるで小さな子供のように揉み合ってしまった。
もう一度まじまじと日の光に透かして写真を眺めると、それは高校の遠泳教室時に同級生と並んで撮影したものだった。
これって褌姿だよな。
まぁ……ほぼ全裸の若い僕が屈託なく笑っていた。
「翠……ごっごめん」
高校時代に机の前に飾った写真が、忽然と消えてしまったのを思い出した。なんだ……そうか、流が持っていたのか。
「これどこに行ったのかと思っていたら、なんで……」
「だから、ごめんっ!」
気まずそうな流の真っ赤な顔を見上げて、流石に鈍い僕でもピンと来た。
「あ……や……もしかして、これで?」
「わぁ!!!翠の口から言うな」
「だが……」
「あぁこれで抜いたよっ! 何百回もな!」
あまりに堂々と言われて、恥ずかしいやら呆気にとられるやらで、僕はポカンとしてしまった。と同時に、なんだかおかしくなって笑いも込み上げて来た。
「くくっそうかそうだったのか」
「なんだよ笑いごとじゃないぞ、当時は真剣だったんだから」
「ん、そうだな。えっと……その、ありがとう」
ありがとう? って自分で言って、なんだか変だとは思った。でもそんなに昔から僕のことを一途に思ってくれていたのが嬉しくて、細かいことはどうでもよくなった。
「もうこんな写真いらないだろ。それにしても高校時代の僕は随分貧弱だな」
「そんなことない!すごく綺麗な写真だった!」
真顔でそんなこと言われても……思わず赤面してしまった。と同時に至近距離に立っている、流に触れてもらいたい衝動にかられた。
「流……なぁ触れてくれないか。少しだけ……」
思わずその逞しい腕を掴んで懇願してしまう。自分の口からこんな言葉が出るなんて、夢にも思わなかった。
「……っ」
流は堪えるような表情の後、僕の顎を掴んでクイッと上を向かせ、唇を合わせてくれた。
そのまま物置部屋のカーテンの影で、僕たちはそっと抱き合った。流の手が僕の腰を抱き、僕は逞ましい流の背中に手をまわした。
途端にふわっと陽だまりのような温もりに包まれたようだった。それは、あの宮崎での熱い日々が夢ではなかったと実感する瞬間だった。流の唇はしっとりと濡れていて、宮崎で僕に降り続けた雨と同じだった。
「翠はひどい奴だ。一度触れたらもっと触れたくなるのを知っていて煽るのだから」
「ごめん……でも、触れてもらえないと寂しいものだな」
「あぁもう! そんな可愛いこと言って煽らないでくれよ。理性がぶっ飛びそうなの我慢しているのに!」
流は僕よりもずっと忍耐強かった。長年想ってくれた分この恋を大切に続けていきたいと願ってくれるのが、ひしひしと伝わってきた。
僕もしっかりしないと。
流の真剣な想いに応えてやりたい。
「流、無理させたな」
「違うっそうじゃない。翠の方からこんなに積極的に求めてもらえるなんて思わなかったから、どう対処していいのか戸惑っている。ずっとずっと俺の片想いだったから」
肩を小さく震わせる流のことを、心から愛おしいと思った。いつだって僕を見守ってくれた君のこと、僕はどんどん好きになっていく。弟としての好きをはるかに上回る熱に冒されているのは、僕の方だよ。
「今は両想いだろう。僕は流が好きだよ」
そんな言葉が自然と零れ落ちた。
砂糖のように甘い言葉が、僕たちをどんどん蕩けさせていく。
禁断でもいい。
どんな制約があってもいい。
僕はもう自分の想いが、堰き止められないものになっていることに気が付いてしまった。
秘められた場所で、限られた逢瀬でもいい。
また僕は流に抱かれたい。
そんなことを願ってしまう、不埒な衝動に駆られる昼下がりだった。
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