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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 100』終わりは始まり
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翌朝チェックアウトぎりぎりに、ようやく翠さんと流さんがロビーに降りて来た。明らかに二人共寝不足の顔で、翠さんに至っては、歩き方がおかしいような。
「おー!待たせて悪かったな」
しかし流さんはとても元気そうで、大きな声で溌剌としている。兄になった二人の個性の違いが、本当に面白い。
そういう俺の方も、散々昨夜は丈に抱かれまくって、疲労困憊だ。今日は幸いこのままハイヤーで空港に直行して帰るだけなので、助かった。
「結局あまり観光に行けなかったね」
この四日間、海で遊んだり乗馬をしたり部屋でゆっくりしたりと、せっかく宮崎まで来というのに市内の観光にすら行かなかったことが、少し残念だった。
「ん?洋、また来ればいいだろう。先は長い。それにいかにも新婚旅行らしい過ごし方で、私は満足しているが」
「ははっ」
うん、確かに丈らしい答えだ。丈はいつもぶれないな。でも楽しかった。何もかもリフレッシュされ、充電されたような気持で満ちている。
最後に四人並んで、ホテルの前で写真を撮ってもらった。
俺を囲んで、三人の兄が出来た。
更に、そのうちの一人は俺の恋人だ。
丈の家に入籍させてもらい形ばかりの兄弟になったが、この旅行に来て分かったことがある。カタチだけでなく、本当に血がつながった兄弟のように俺達は馴染み合えたのだ。
男と男は、当たり前だがどんなに躰を繋げても子供が出来たりはしない。
これから先の未来、二人で何を育てて行くのか。
それは二人の愛と絆を、どこまでも深めていけばいいのだ。
夫婦が子どもを育て成長させていくように、俺と丈の愛というものを、二人で育て成長させていきたいと思った。
****
飛行機の座席に座ると、後ろの席の女の子が荷物を棚に上げるのに苦労していた。
「あのぉ~すいません。あげるの手伝ってもらえませんか」
声がかかったので、快諾した。
受け取れば確かに重い荷物だった。女の子の細腕では無理だろう。
「いいですよ。これですね」
「翠、俺がやるよ」
「これ位大丈夫だよ」
ところが躰を伸ばした途端、腰に激痛が走った。
「あっ……っ……」
噛み殺したはずの小さな呻き声に、流が気づいて、すっと横から手を添えて荷物をあげてくれた。
「ありがとうございます!助かりました。あの、すいません腰痛そうなのに、大丈夫でしたか」
若い十代の女の子にそんなことを気遣われて、一人赤面した。
溜息交じりに座席に座ると、流が心配そうに覗き込んで来た。
「大丈夫なのか」
「……うるさい」
あぁもう、恥ずかしくて消えたくなるよ。
赤面して俯く僕に、流がシートベルトを締め、毛布も掛けてくれた。
そして毛布の下からそっと手を忍ばせて腰を擦ってくれた。
そんなことされると恥ずかしいのに……とても温かく、その手によって痛みが解れていくような心地だった。
****
やがて飛行機が離陸した。
俺は窓際で隣には丈が座り、その後ろに流さんと翠さんが座っている。
小さくなっていく宮崎空港。やがて雲の中に飛行機は潜り込み、青空の上に出た。
そこで俺は何とも不思議な光景を見た。
飛行機の窓の外に丸い虹の輪が見えて、その輪の中に飛行機の影が小さく映り、俺と一緒に同じ速度で移動しているように見えるという、とても神秘的な体験だ。
「丈、窓の外に虹が見える。まん丸の虹……あれはなんだ?」
「あぁ虹の輪か。あれは『ブロッケン現象』と呼ばれるもので、飛行機に太陽の光が当たると、その光が機体を回り込んで反対側に進んで雲のスクリーンに影を映し出しているんだよ。周囲に色のついた光の輪が出現するのは、空気中の水滴によって光が屈折するからだ」
「へぇ詳しいな。さすが理系だ」
ちょうどコーヒーを配膳していた客室乗務員の女性にも、俺達の話が聞こえたらしく、「虹の輪に出会うと幸せになれるそうですよ」と付け加えてくれた。
遠い昔、俺はこんな虹を見たような気がする。
隣には優しく微笑む丈がいてくれたのか。
そんな懐かしい気持ちが、潮騒のように満ちて来た。
俺が今幸せだということを、空も海も喜んでくれているような、そんな光景と共に、『蜜月旅行』は静かに終わっていく。
一生心に残る……深い意味を持った旅だった。
南国の風は俺達を包み、俺も丈も、二人の兄も優しい気持ちになれた。
海も凪ぎ、心も凪いでいた。
旅して良かった。
来てよかった。
虹の輪と共に、俺は駆け抜けていくよ。
この先も前へ前へと進んでいく。
『蜜月旅行』了
****
こんにちは!今日で蜜月旅行完結です。
全100話!我ながら頑張って書き終えることが出来、ほっとしました。
根気よく最後までお付き合いくださってありがとうございます。
『重なる月』の更新は、もう私の日課のようになっていまして…
この先は一人でも読んで下さる方がいるなら、続けてみようと思っています。
リアクションも沢山押して下さって、ありがとうございました。
嬉しかったです。10章でもまたお会い出来たら嬉しいです。
「おー!待たせて悪かったな」
しかし流さんはとても元気そうで、大きな声で溌剌としている。兄になった二人の個性の違いが、本当に面白い。
そういう俺の方も、散々昨夜は丈に抱かれまくって、疲労困憊だ。今日は幸いこのままハイヤーで空港に直行して帰るだけなので、助かった。
「結局あまり観光に行けなかったね」
この四日間、海で遊んだり乗馬をしたり部屋でゆっくりしたりと、せっかく宮崎まで来というのに市内の観光にすら行かなかったことが、少し残念だった。
「ん?洋、また来ればいいだろう。先は長い。それにいかにも新婚旅行らしい過ごし方で、私は満足しているが」
「ははっ」
うん、確かに丈らしい答えだ。丈はいつもぶれないな。でも楽しかった。何もかもリフレッシュされ、充電されたような気持で満ちている。
最後に四人並んで、ホテルの前で写真を撮ってもらった。
俺を囲んで、三人の兄が出来た。
更に、そのうちの一人は俺の恋人だ。
丈の家に入籍させてもらい形ばかりの兄弟になったが、この旅行に来て分かったことがある。カタチだけでなく、本当に血がつながった兄弟のように俺達は馴染み合えたのだ。
男と男は、当たり前だがどんなに躰を繋げても子供が出来たりはしない。
これから先の未来、二人で何を育てて行くのか。
それは二人の愛と絆を、どこまでも深めていけばいいのだ。
夫婦が子どもを育て成長させていくように、俺と丈の愛というものを、二人で育て成長させていきたいと思った。
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飛行機の座席に座ると、後ろの席の女の子が荷物を棚に上げるのに苦労していた。
「あのぉ~すいません。あげるの手伝ってもらえませんか」
声がかかったので、快諾した。
受け取れば確かに重い荷物だった。女の子の細腕では無理だろう。
「いいですよ。これですね」
「翠、俺がやるよ」
「これ位大丈夫だよ」
ところが躰を伸ばした途端、腰に激痛が走った。
「あっ……っ……」
噛み殺したはずの小さな呻き声に、流が気づいて、すっと横から手を添えて荷物をあげてくれた。
「ありがとうございます!助かりました。あの、すいません腰痛そうなのに、大丈夫でしたか」
若い十代の女の子にそんなことを気遣われて、一人赤面した。
溜息交じりに座席に座ると、流が心配そうに覗き込んで来た。
「大丈夫なのか」
「……うるさい」
あぁもう、恥ずかしくて消えたくなるよ。
赤面して俯く僕に、流がシートベルトを締め、毛布も掛けてくれた。
そして毛布の下からそっと手を忍ばせて腰を擦ってくれた。
そんなことされると恥ずかしいのに……とても温かく、その手によって痛みが解れていくような心地だった。
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やがて飛行機が離陸した。
俺は窓際で隣には丈が座り、その後ろに流さんと翠さんが座っている。
小さくなっていく宮崎空港。やがて雲の中に飛行機は潜り込み、青空の上に出た。
そこで俺は何とも不思議な光景を見た。
飛行機の窓の外に丸い虹の輪が見えて、その輪の中に飛行機の影が小さく映り、俺と一緒に同じ速度で移動しているように見えるという、とても神秘的な体験だ。
「丈、窓の外に虹が見える。まん丸の虹……あれはなんだ?」
「あぁ虹の輪か。あれは『ブロッケン現象』と呼ばれるもので、飛行機に太陽の光が当たると、その光が機体を回り込んで反対側に進んで雲のスクリーンに影を映し出しているんだよ。周囲に色のついた光の輪が出現するのは、空気中の水滴によって光が屈折するからだ」
「へぇ詳しいな。さすが理系だ」
ちょうどコーヒーを配膳していた客室乗務員の女性にも、俺達の話が聞こえたらしく、「虹の輪に出会うと幸せになれるそうですよ」と付け加えてくれた。
遠い昔、俺はこんな虹を見たような気がする。
隣には優しく微笑む丈がいてくれたのか。
そんな懐かしい気持ちが、潮騒のように満ちて来た。
俺が今幸せだということを、空も海も喜んでくれているような、そんな光景と共に、『蜜月旅行』は静かに終わっていく。
一生心に残る……深い意味を持った旅だった。
南国の風は俺達を包み、俺も丈も、二人の兄も優しい気持ちになれた。
海も凪ぎ、心も凪いでいた。
旅して良かった。
来てよかった。
虹の輪と共に、俺は駆け抜けていくよ。
この先も前へ前へと進んでいく。
『蜜月旅行』了
****
こんにちは!今日で蜜月旅行完結です。
全100話!我ながら頑張って書き終えることが出来、ほっとしました。
根気よく最後までお付き合いくださってありがとうございます。
『重なる月』の更新は、もう私の日課のようになっていまして…
この先は一人でも読んで下さる方がいるなら、続けてみようと思っています。
リアクションも沢山押して下さって、ありがとうございました。
嬉しかったです。10章でもまたお会い出来たら嬉しいです。
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