重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 94』終わりは始まり

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 宮崎の海は、足元が透けて見えるほど透明感がある。ザブンッと大きな音を立て、俺は潜水し泳いだ。

 やがて丈と洋くんの脚が見えて来た。この俺に似て逞しい脚が丈で、隣のすらりとした真っすぐな脚が洋くんだな。

 なるほど、洋くんは顔も抜群に綺麗だが、スタイルもいいんだな。

 ほっそりとバランスのよい体躯、すらりと伸びた長い脚。そしてプリっと小ぶりだが形のよいヒップ……んっ?

「あれ?」

 泳ぎながらそこまで確認したのだが、意外なものが目に入ってゴボッと水を飲んでしまった。

 慌てて海面に出た。

「ゴホッゴホ」

「わっ!びっくりした。流さん泳ぎ早いですね。海水飲んじゃったんですか」

 心配そうに洋くんが聞いて来れたが、俺は目をゴシゴシ擦って、海中の洋くんの水着をもう一度まじまじと見つめた。

 えっ、あんなデザインだったか。まさか、もとからじゃなかったよなぁ。丈のことを伺い見ると、気まずそうな顔を浮かべた。

「兄さん、余計なことは言わないように」

「ははん、なるほど」

 それもそうだろう。たしか一昨日は洋くんの水着を水に流し、洋くんの股間を手で押さえるという痴態を仕出かし、今日は洋くんの尻を押さえなんてことになったら、新婚旅行も流石に険悪になるよな。

「知らぬが仏、言わぬが花とはこのことか」

「流?何難しいこと言っているんだ?」

「あ……いやなんでもないです」

 翠兄さんにつぶやきを拾われて、慌ててしまった。まぁあの程度の穴なら、俺が真後ろに立ってやれば、誰にも気が付かれず部屋に戻れるだろう。

 洋くんにこれ以上恥をかかすのは忍びない。そう思って黙っておくことにした。

「丈、俺はいい兄だろう」

「……ええ、まぁ助かりますよ」

 丈も助かったというように苦笑していた。浜に上がると、俺はすぐに洋くんの真後ろに立った。洋くんは不思議そうに振り返ったが、まだ気付いていないようだ。

「急いでシャワーを浴びて、部屋に戻ろう」

「あっはい」

 外に設置されているシャワーを手早く浴び、バスタオルで水滴を落とし、Tシャツやパーカーを着込んだ。俺が急かしたので、洋くんはバタバタと着替え、まさか自分の水着の尻部分が小さくハート型に破れているとは、気が付かないようだ。

 ホテルのプール専用の出入り口から部屋に戻る時も、俺は真後ろに立ってやった。

 何組かのカップルや家族連れが追い抜かしていったが、誰も気が付かない。

 しめしめとほくそ笑んでいると、隣を歩く翠が不思議そうに俺のTシャツの裾を引っ張った。

「なぁ流…」

「なんです?兄さん。今俺は忙しいんです」

「あのね、洋くんの水着ってもしかして、やぶ……」

 そこまで口に出した、翠の口を慌てて塞いだ。翠は突然人前で口を塞がれて目を丸くしていた。

「あっもしかして……さっきの言わぬが花って」

 俺は無言でブンブンっと頷いた。

「可愛いね。洋くんのお尻、美尻っていうのか?形自体がハート型なのに、さらに水着にまで」

 小さい声でブツブツ呟く翠が可愛かった。そして俺も水着が破けるくらい、翠のこと揺すりたかったと少し後悔した。二人にきりになったら、翠の可愛い尻を沢山見せてもらいたい。そんな変態チックな妄想がつい羽ばたいてしまった。

「あの……何か言いましたか?尻ってなんのことですか」

 洋くんが不思議そうに振り返ったので、俺と翠はブンブンっと頭を左右に振った。

「なんでもないよ」

「洋、何をしゃべってる。早く行くぞ」

 丈はさり気なくエスコートするように、洋くんの細い腰に手をまわした。

 更に丈の大きな手は洋くんの尻のハートを隠そうと、もぞもぞと下へと動いていった。

「ちょっと丈、こんなところで、変な風に触るなよっ!」

「うっ」

 洋くんの肘鉄を食らった丈が、うっと呻き声をあげたのが、妙に小気味よかった!

 たまにはいいんじゃないか。嫁さんの尻には敷かれるもんだぜ。丈っ!


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