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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 93』終わりは始まり
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いくらプライベートビーチの空間を貸し切っているとはいえ、翠のことを白昼堂々デッキチェアへと押し倒せるなんて、こんな風に俺が主導で翠の躰に触れることが許される日がくるなんて。
俺達の過去を振り返ると、これは奇跡的な出来事だ。
ずっと翠は俺を大事に守ってくれた。
母親や父親の代わりに幼い頃は手をつなぎ、小学校では勉強もよく教えてくれ、よき相談相手で尊敬する兄だった。そして俺の気持ちが変化しだした中学でも高校でも……翠はいつでも俺のことを真っ先に心配してくれていた。
高一のあの冬の日、あの日が境目だったのか。あろうことか克哉に襲われそうなっていた翠を助けたのに、翠は被害を訴えるどころか、克哉の母親に土下座してしまった。
あの時、俺は悟った。
翠はいつだって兄として、自分のことを蔑ろにしてでも、全力で俺を守ろうとしてしまう。
これじゃあ駄目だ。俺は兄の重石じゃないか。兄を助けたつもりが、兄に助けられてしまった。
やりどころのない悲しみ怒りに、当時の俺は途方に暮れていた。
(『忍ぶれど』42話 届かない距離 5参照 )
俺はあれから、どうやったら翠を守れる男になれるのか。そればかり考えて生きて来た。
だから今こうやって翠のことを、この腕の中に閉じ込めることが出来るのは夢のようだ。
ずっと守ってもらっていた翠を抱く。それは俺の人生の目標でもあったのだから。
しかしその後、翠の結婚間際に起きたもう一つの事件。あれは俺の中で、未だに何も解決していない。
翠は真実を真相を話さないだろう。墓場まで持って行く覚悟で周囲に黙っているのだろう。
だけど悔しいよ。翠の躰はもらうことが出来ても、心のすべてはもらえないような気分になってしまう。
俺は、翠の躰に触れつつ、俺達の過去を思い出してしまっていた。勘のよい翠は俺の様子が変なことに気が付いたようで、俺の手を優しく制止した。
「流、何を考えている?心ここに有らずだな」
「悪い……なぁ翠……翠の心は全部俺のものか」
翠の頬を優しく撫でながら、意地悪な聴き方をしてしまった。俺の質問に、翠がはっと息を呑む。
「何故……」
悲し気な表情になる翠。追い詰めるつもりじゃなかった。せっかく躰を開いてくれていたのに。
「そんな顔しないでくれ。翠の心は全部俺のものにはならない。それは分かっているのにすまない」
「流……確かに僕は寺の住職でもあり、薙の父親でもある。それは変えられないことだ。だが僕の欲しいものが何か知っているか。ずっと自分でもこの気持ちに名前を付けることが出来なかったんだ。それは……」
「それは……?」
言葉を促してやる。
「うん……僕はどうやら流のことが好きでたまらないらしい。兄としてじゃなくて弟としてじゃなくて……つまりね、僕が好きな人なんだよ。お前は」
兄としてじゃない。
弟としてじゃない。
ずっと俺を縛って来た言葉を、翠自身が解いてくれるのか。
「だからお願いがあるんだ。なぁ聞いてくれるか」
「当たり前だ。翠の言うことならなんでも」
「ここじゃやっぱり無理そうだ。声を堪えることが出来ない」
そう来たか。
ガックシと肩を落としていると、翠が話を続けてくれた。
「あ……違うんだ。そうじゃなくて。なぁ流、今夜は丈と洋くんの新婚旅行最後の夜だろう。最後くらい、あの二人にスイートルームを貸し切りにさせてあげたらどうだろうか」
「翠!それは実にいい案だ!」
「僕と流は違う部屋で二人になれたらいいと思って……そこでなら……その」
なんていいアイデアなんだ。
翠からそんなことを提案してくれるなんて、嬉しくて涙が零れそうだ。
「翠ありがとう!そうと決まったら早く帰ろう。一刻も早くツインルームで翠を抱きたい」
「うわっ性急だなっ!あっでも……」
お互いの股間を見て、思わず苦笑してしまった。何しろお互い立派に膨らんでいたのだから。
「取り急ぎ、抜いてやるから」
「取り急ぎって……あぁ…やっ」
なんだかおかしなくらい性急に、翠の水着の中に手を突っ込んで、屹立を擦って抜いてやった。
翠は潤んだ目で、肩で息をしている。やがて正気に戻った翠が、俺の股間を凝視する。
「あ……僕も、流のを」
「あーいいわ。翠がやると長くなりそうだし、俺とまらなくなるから、ちょっと待ってろ。すぐ抜いて来る」
俺は翠におしぼりとバスタオルを渡し、自分は速攻トイレで抜いた。
実に手慣れた作業だ。
翠の裸体をこの目で見た今となっては、本当にあっという間に処理できてしまう。
昨日もやった行為を、ここでもやる羽目になるとは思わなかったが。
まぁ長年培った能力だからな。翠の裸を妄想して抜き始めてから、一体何年経ったのだか。
「さぁ戻ろう」
「え……もう?」
翠の手を引いて再び泳ぎ出すと、ちょうど前方に丈と洋くんを見つけた。
きっと丈たちも、すっきりした表情だろうな。丈にはこの朗報早く知らせてやろう!
全く俺はいつのまに、随分弟が可愛くなってしまったようだ。
「おーい丈!洋くん!」
「あっ流さん!翠さん!」
先に気が付いた洋くんが、可愛い笑顔で手を振ってくれた。
さぁ早く戻ろう、部屋へ!
そう思って、洋くんのもとへ一気に近づくために海に潜った。
俺達の過去を振り返ると、これは奇跡的な出来事だ。
ずっと翠は俺を大事に守ってくれた。
母親や父親の代わりに幼い頃は手をつなぎ、小学校では勉強もよく教えてくれ、よき相談相手で尊敬する兄だった。そして俺の気持ちが変化しだした中学でも高校でも……翠はいつでも俺のことを真っ先に心配してくれていた。
高一のあの冬の日、あの日が境目だったのか。あろうことか克哉に襲われそうなっていた翠を助けたのに、翠は被害を訴えるどころか、克哉の母親に土下座してしまった。
あの時、俺は悟った。
翠はいつだって兄として、自分のことを蔑ろにしてでも、全力で俺を守ろうとしてしまう。
これじゃあ駄目だ。俺は兄の重石じゃないか。兄を助けたつもりが、兄に助けられてしまった。
やりどころのない悲しみ怒りに、当時の俺は途方に暮れていた。
(『忍ぶれど』42話 届かない距離 5参照 )
俺はあれから、どうやったら翠を守れる男になれるのか。そればかり考えて生きて来た。
だから今こうやって翠のことを、この腕の中に閉じ込めることが出来るのは夢のようだ。
ずっと守ってもらっていた翠を抱く。それは俺の人生の目標でもあったのだから。
しかしその後、翠の結婚間際に起きたもう一つの事件。あれは俺の中で、未だに何も解決していない。
翠は真実を真相を話さないだろう。墓場まで持って行く覚悟で周囲に黙っているのだろう。
だけど悔しいよ。翠の躰はもらうことが出来ても、心のすべてはもらえないような気分になってしまう。
俺は、翠の躰に触れつつ、俺達の過去を思い出してしまっていた。勘のよい翠は俺の様子が変なことに気が付いたようで、俺の手を優しく制止した。
「流、何を考えている?心ここに有らずだな」
「悪い……なぁ翠……翠の心は全部俺のものか」
翠の頬を優しく撫でながら、意地悪な聴き方をしてしまった。俺の質問に、翠がはっと息を呑む。
「何故……」
悲し気な表情になる翠。追い詰めるつもりじゃなかった。せっかく躰を開いてくれていたのに。
「そんな顔しないでくれ。翠の心は全部俺のものにはならない。それは分かっているのにすまない」
「流……確かに僕は寺の住職でもあり、薙の父親でもある。それは変えられないことだ。だが僕の欲しいものが何か知っているか。ずっと自分でもこの気持ちに名前を付けることが出来なかったんだ。それは……」
「それは……?」
言葉を促してやる。
「うん……僕はどうやら流のことが好きでたまらないらしい。兄としてじゃなくて弟としてじゃなくて……つまりね、僕が好きな人なんだよ。お前は」
兄としてじゃない。
弟としてじゃない。
ずっと俺を縛って来た言葉を、翠自身が解いてくれるのか。
「だからお願いがあるんだ。なぁ聞いてくれるか」
「当たり前だ。翠の言うことならなんでも」
「ここじゃやっぱり無理そうだ。声を堪えることが出来ない」
そう来たか。
ガックシと肩を落としていると、翠が話を続けてくれた。
「あ……違うんだ。そうじゃなくて。なぁ流、今夜は丈と洋くんの新婚旅行最後の夜だろう。最後くらい、あの二人にスイートルームを貸し切りにさせてあげたらどうだろうか」
「翠!それは実にいい案だ!」
「僕と流は違う部屋で二人になれたらいいと思って……そこでなら……その」
なんていいアイデアなんだ。
翠からそんなことを提案してくれるなんて、嬉しくて涙が零れそうだ。
「翠ありがとう!そうと決まったら早く帰ろう。一刻も早くツインルームで翠を抱きたい」
「うわっ性急だなっ!あっでも……」
お互いの股間を見て、思わず苦笑してしまった。何しろお互い立派に膨らんでいたのだから。
「取り急ぎ、抜いてやるから」
「取り急ぎって……あぁ…やっ」
なんだかおかしなくらい性急に、翠の水着の中に手を突っ込んで、屹立を擦って抜いてやった。
翠は潤んだ目で、肩で息をしている。やがて正気に戻った翠が、俺の股間を凝視する。
「あ……僕も、流のを」
「あーいいわ。翠がやると長くなりそうだし、俺とまらなくなるから、ちょっと待ってろ。すぐ抜いて来る」
俺は翠におしぼりとバスタオルを渡し、自分は速攻トイレで抜いた。
実に手慣れた作業だ。
翠の裸体をこの目で見た今となっては、本当にあっという間に処理できてしまう。
昨日もやった行為を、ここでもやる羽目になるとは思わなかったが。
まぁ長年培った能力だからな。翠の裸を妄想して抜き始めてから、一体何年経ったのだか。
「さぁ戻ろう」
「え……もう?」
翠の手を引いて再び泳ぎ出すと、ちょうど前方に丈と洋くんを見つけた。
きっと丈たちも、すっきりした表情だろうな。丈にはこの朗報早く知らせてやろう!
全く俺はいつのまに、随分弟が可愛くなってしまったようだ。
「おーい丈!洋くん!」
「あっ流さん!翠さん!」
先に気が付いた洋くんが、可愛い笑顔で手を振ってくれた。
さぁ早く戻ろう、部屋へ!
そう思って、洋くんのもとへ一気に近づくために海に潜った。
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