708 / 1,657
完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 89』終わりは始まり
しおりを挟む
「流、よせ!こんな場所でっ」
Tシャツ越しに、それまで意識したこともなかった僕の乳首がツンと尖っていくのが分かり、唖然とした。ましてそれを布越しに流の手できゅっと摘まれると、電流が走ったかのように下腹部が震えた。
そんな……違う。こんなの僕じゃない。
知らない……こんな躰。
自分の躰の反応に怖くなり思わず躰を捩って、流の腕の中からすり抜けてしまった。
そのままパシャッと水音を立て泳ぎ出すと、すぐに流が僕が追いかけるのを背後に感じた。
まるで僕たちは二匹の魚のようだ。
一度泳ぎ出せば、躰が覚えている。僕は自由に伸びやかにクロールで進めた。
はぁはぁと短い間隔で息継ぎをする度に、南国の高い青空が見える。
ああ僕は昔……海で泳ぐのが怖かったんだ。高校生の時、授業で遠泳をしていると、海の中が暗くて何も見えないことがいつも不安だった。でも息継ぎをする度に見上げる空が、どこまでも澄んで美しく、そこへ神経を注ぐと急に楽になれた。
何事も暗くネガティブな部分ばかりにとらわれず、明るくポジティブな部分を見ることが大事だ。
世界はそれだけで色を持つ。
そのことを身をもって感じた。
それから泳いでいると、鼻に水が入ったり海水を飲んだり呼吸が苦しかったりと、いろんなことが起こり、焦ったこともあった。でもフォームを整えれば自然と呼吸も整い、楽になれることも知った。
そうだ。最初から小さなことばかりを気にしてはいけない。
やってみなければ分からないし、変われない。
僕と流の……この旅行で始まった兄弟を飛び越えた新しい関係。
さっきは弟の愛撫に素直に反応する自分の躰に驚いて、真っ直ぐに進んで行くことが怖くなってしまった。だがこうやって波に身を任せ、正しいフォームでぶれずにいれば、ちゃんと泳げるのと一緒で、誰にも迷惑をかけずに続けられる道があるのではと思えた。
つまり……希望を持てた。
「翠、置いて行くな」
流に追いつかれて、再び背後から抱きしめられた。僕を水中で優しく抱きしめ、ほっと溜息をつく流の熱い息が首筋にかかり、ぞくっとする。
「流、ごめん」
「翠、焦った。急にすり抜けないでくれ」
「分かった……もう逃げない」
二人で抱き合うような形で流されていくと、ちょうど小さな島のような岩場が見えて来た。
そこへ……僕は連れて行かれるのか。
そこで……僕は抱かれるのか。
「翠……寺に戻ったら、もうこんな風に抱けない。青空の下で堂々と抱けない!」
流が苦しげに、吐き捨てるように呟いた。
Tシャツ越しに、それまで意識したこともなかった僕の乳首がツンと尖っていくのが分かり、唖然とした。ましてそれを布越しに流の手できゅっと摘まれると、電流が走ったかのように下腹部が震えた。
そんな……違う。こんなの僕じゃない。
知らない……こんな躰。
自分の躰の反応に怖くなり思わず躰を捩って、流の腕の中からすり抜けてしまった。
そのままパシャッと水音を立て泳ぎ出すと、すぐに流が僕が追いかけるのを背後に感じた。
まるで僕たちは二匹の魚のようだ。
一度泳ぎ出せば、躰が覚えている。僕は自由に伸びやかにクロールで進めた。
はぁはぁと短い間隔で息継ぎをする度に、南国の高い青空が見える。
ああ僕は昔……海で泳ぐのが怖かったんだ。高校生の時、授業で遠泳をしていると、海の中が暗くて何も見えないことがいつも不安だった。でも息継ぎをする度に見上げる空が、どこまでも澄んで美しく、そこへ神経を注ぐと急に楽になれた。
何事も暗くネガティブな部分ばかりにとらわれず、明るくポジティブな部分を見ることが大事だ。
世界はそれだけで色を持つ。
そのことを身をもって感じた。
それから泳いでいると、鼻に水が入ったり海水を飲んだり呼吸が苦しかったりと、いろんなことが起こり、焦ったこともあった。でもフォームを整えれば自然と呼吸も整い、楽になれることも知った。
そうだ。最初から小さなことばかりを気にしてはいけない。
やってみなければ分からないし、変われない。
僕と流の……この旅行で始まった兄弟を飛び越えた新しい関係。
さっきは弟の愛撫に素直に反応する自分の躰に驚いて、真っ直ぐに進んで行くことが怖くなってしまった。だがこうやって波に身を任せ、正しいフォームでぶれずにいれば、ちゃんと泳げるのと一緒で、誰にも迷惑をかけずに続けられる道があるのではと思えた。
つまり……希望を持てた。
「翠、置いて行くな」
流に追いつかれて、再び背後から抱きしめられた。僕を水中で優しく抱きしめ、ほっと溜息をつく流の熱い息が首筋にかかり、ぞくっとする。
「流、ごめん」
「翠、焦った。急にすり抜けないでくれ」
「分かった……もう逃げない」
二人で抱き合うような形で流されていくと、ちょうど小さな島のような岩場が見えて来た。
そこへ……僕は連れて行かれるのか。
そこで……僕は抱かれるのか。
「翠……寺に戻ったら、もうこんな風に抱けない。青空の下で堂々と抱けない!」
流が苦しげに、吐き捨てるように呟いた。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる