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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 84』終わりは始まり
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最後の子ガメの旅立ちを見送った俺達はツアーコンダクターに案内され、海からほど近いペンションで朝食を取ることになった。
炊きたての白米。焼きたてのクロワッサン。色濃いカラフルな野菜。ソーセージ―やハムに卵料理と、ずらりと並ぶ健康的な朝食に舌鼓を打った。
ビッフェ形式なので、ウミガミツアーの客二十人ほどが列をなす。早起きしたせいで、皆お腹が空いているようだ。小学生位の小さな子供もすっかり目が覚め元気一杯、賑やかにはしゃいでいる。
俺は翠兄さんにトレーを持たせ、その上に皿も乗せてやり、トングを持って振り返った。
「兄さん、ご飯にします?それともパンがいいですか。野菜は何にします?」
何度もいつものように聞いていると、兄さんが突然赤面した。
んっなんでだ?
「流……そういうのは、ここではいいから……僕は自分で取れるから」
小さな静かな声で諭されて、初めて気づく。
まずいな。今は旅行先で周りにはいろんな人がいるのに、ついいつもの癖で翠兄さんのことを手取り足取り世話したくなってしまった!
「ねーママぁ~あのおじさんさぁ……大きいのに、おかしいねぇ」
「こらっ静かにしなさい!」
無邪気な子供の声がしっかり聴こえてきた。
そうか……俺は、兄さんに恥をかかせてしまったのか。
っていうか「あのオジサン」って誰のことだ?
あぁ?まさか翠のことじゃねーよな。
思わず坊主の頭を、ゲンコツで叩いてやりたくなった。
だが翠にはこんな感情全部お見通しのようで、眼で静かに制され、お互い手早く食事をトレーに乗せ、その場を離れた。
「流は喧嘩っ早くて……困るよ。いちいちそんなことで腹を立てるんじゃない。さぁ行くぞ」
「あっああ」
海が見えるテラスで食事を取るのは、気持ち良いものだった。
大海原に旅立った子ガメたちは、今頃どこを泳いでいるだろうか。
なぁ……海は広くて気持ちがいいだろう?
あー俺もはいりたい。海の中に潜りたくなる。
海を見ていたら、無性に泳ぎたくなってきた。
こんな青空の下、何も気にせず泳げる機会は滅多にない。
次はいつになるか分からないからな。
「流さん、ここの食事おいしいですね。すっかり目覚めましたよ。帰ったら何をします?今日はどこへ行きましょうか」
可愛い弟の洋くんがニコニコと話かけてくれた。
うん、実にいいタイミングだ。
「帰ったらすぐに海だ」
「え……また海ですか」
ちょっと表情が曇る。いやそれ位の色気があっていいけどな。丈が好きそうな表情をするよな。洋くんは。
「ん?何かまずいか」
「ほら、水着がなくて。一昨日流されて……もうっ全部丈のせいですよ!全くっ」
「はははっ!あー可笑しい!」
一昨日の洋くんの慌てた姿を思い出して、豪快に盛大に笑ってしまった。すると、翠兄さんと丈と洋くんの冷ややかな視線を感じた。
「あ……悪ぃ……な」
「流、今のは笑うところではないだろう」
「うっすいません、翠兄さん」
「罰として」
「なっ何ですか」
「ホテルの売店で僕と洋くんの水着を買うこと。分かった?」
「なんで二人だけ?丈と俺の分は」
「くくっお前たちはまた褌でいいじゃないか。気に入ったみたいだし、すごく似合ていたぞ。洋くんもそう思うだろう?」
「ええ!とってもお似合いで!」
澄ました顔で微笑む翠兄さんは、まるで北鎌倉にいる時のようだ。旅の終わりも近づき、兄さんも徐々にいつものペースを取り戻しつつあるんだと、少し寂しく感じた。
いやいや、そうじゃないだろう。待てよ。
まだだ。残り一日は兄さんの許可もおりたし、存分に俺主導でやらせてもらうつもりだ。やらす……犯す……今晩は挿入してもいいというお許しを思い出すと、また頭に血がのぼってしまう。
「ほらっ流、もう行くよ。変なことばかり考えて……また鼻血が出るよ」
翠兄さんが、更に冷たい目で見ていた。
炊きたての白米。焼きたてのクロワッサン。色濃いカラフルな野菜。ソーセージ―やハムに卵料理と、ずらりと並ぶ健康的な朝食に舌鼓を打った。
ビッフェ形式なので、ウミガミツアーの客二十人ほどが列をなす。早起きしたせいで、皆お腹が空いているようだ。小学生位の小さな子供もすっかり目が覚め元気一杯、賑やかにはしゃいでいる。
俺は翠兄さんにトレーを持たせ、その上に皿も乗せてやり、トングを持って振り返った。
「兄さん、ご飯にします?それともパンがいいですか。野菜は何にします?」
何度もいつものように聞いていると、兄さんが突然赤面した。
んっなんでだ?
「流……そういうのは、ここではいいから……僕は自分で取れるから」
小さな静かな声で諭されて、初めて気づく。
まずいな。今は旅行先で周りにはいろんな人がいるのに、ついいつもの癖で翠兄さんのことを手取り足取り世話したくなってしまった!
「ねーママぁ~あのおじさんさぁ……大きいのに、おかしいねぇ」
「こらっ静かにしなさい!」
無邪気な子供の声がしっかり聴こえてきた。
そうか……俺は、兄さんに恥をかかせてしまったのか。
っていうか「あのオジサン」って誰のことだ?
あぁ?まさか翠のことじゃねーよな。
思わず坊主の頭を、ゲンコツで叩いてやりたくなった。
だが翠にはこんな感情全部お見通しのようで、眼で静かに制され、お互い手早く食事をトレーに乗せ、その場を離れた。
「流は喧嘩っ早くて……困るよ。いちいちそんなことで腹を立てるんじゃない。さぁ行くぞ」
「あっああ」
海が見えるテラスで食事を取るのは、気持ち良いものだった。
大海原に旅立った子ガメたちは、今頃どこを泳いでいるだろうか。
なぁ……海は広くて気持ちがいいだろう?
あー俺もはいりたい。海の中に潜りたくなる。
海を見ていたら、無性に泳ぎたくなってきた。
こんな青空の下、何も気にせず泳げる機会は滅多にない。
次はいつになるか分からないからな。
「流さん、ここの食事おいしいですね。すっかり目覚めましたよ。帰ったら何をします?今日はどこへ行きましょうか」
可愛い弟の洋くんがニコニコと話かけてくれた。
うん、実にいいタイミングだ。
「帰ったらすぐに海だ」
「え……また海ですか」
ちょっと表情が曇る。いやそれ位の色気があっていいけどな。丈が好きそうな表情をするよな。洋くんは。
「ん?何かまずいか」
「ほら、水着がなくて。一昨日流されて……もうっ全部丈のせいですよ!全くっ」
「はははっ!あー可笑しい!」
一昨日の洋くんの慌てた姿を思い出して、豪快に盛大に笑ってしまった。すると、翠兄さんと丈と洋くんの冷ややかな視線を感じた。
「あ……悪ぃ……な」
「流、今のは笑うところではないだろう」
「うっすいません、翠兄さん」
「罰として」
「なっ何ですか」
「ホテルの売店で僕と洋くんの水着を買うこと。分かった?」
「なんで二人だけ?丈と俺の分は」
「くくっお前たちはまた褌でいいじゃないか。気に入ったみたいだし、すごく似合ていたぞ。洋くんもそう思うだろう?」
「ええ!とってもお似合いで!」
澄ました顔で微笑む翠兄さんは、まるで北鎌倉にいる時のようだ。旅の終わりも近づき、兄さんも徐々にいつものペースを取り戻しつつあるんだと、少し寂しく感じた。
いやいや、そうじゃないだろう。待てよ。
まだだ。残り一日は兄さんの許可もおりたし、存分に俺主導でやらせてもらうつもりだ。やらす……犯す……今晩は挿入してもいいというお許しを思い出すと、また頭に血がのぼってしまう。
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翠兄さんが、更に冷たい目で見ていた。
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