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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 81』明けゆく想い
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「翠……翠…」
うわごとのように流に呼ばれた。そのまま屹立を口に含まれて、思わず零れそうになる声を漏らすまいと、自分の口を手の甲で塞いだ。
流の巧みな舌の動きに攻められ、あっという間に硬くなっていくのが信じられなかった。
あ……どうしよう。気持ちいい……こんな悦び……知らない。
この数年というもの特に性欲というものが沸かず、ただ修行に明け暮れる日々だったことに改めて気づかされる。
住職だった父が、熱海や伊豆のリゾートマンションに籠る母の元で過ごすことが多くなり、徐々に寺の重要な法要を任されるようになって多忙だったのもあるが。
僕は元来、性欲は少ない人間だと思っていた。
なのに、これは一体どういうことだ。
これではまるで……僕の方から求めているようじゃないか。
もっと触れて欲しくて強請るような腰が、僕のものだなんて信じ難い。
「翠、流石に二晩続けて挿れるのはまだ辛いだろう。今日はこうしよう」
「え……何を?」
おもむろに流の股間に硬く屹立しているものと、僕のものをぴったりと重ねられてしまった。
「えっ」
男同士だと実感するものが密着すると、ぶるっと腰が震える。そのまま流の大きな手のひらで一纏めに包まれて、上下に扱かれていく。
「えっ……うっ……あぁいやだ!流っ!」
一瞬何が起こったのか、理解できなかった。
だが強烈な快楽がすぐに追いかけて来た。
同じ器官を持つ男同士だから、何処をどう触れば感じるのか知り過ぎている。
「あっ……んっ…ん」
小刻みに擦られ、流の手のひらの熱と流の屹立の熱に挟まれ、ぷるんと心許なく揺れる僕のもの。
「翠のここ、すごく可愛いな。色も綺麗で、こんなにぬるぬるに濡れて」
言葉でも手でも追い詰められ、不慣れな僕が堕ちゆくのは本当に呆気ないほどだった。
「流、もう駄目だ!もう」
涙目になって訴えても、流の手の動きは止まらない。
「大丈夫だ。一緒にいこう」
「くっ……くうっ…」
気持ち良すぎて怖くなり、片手は声を堪えるため口を押さえ、もう片方の手は、流の背中に必死にしがみ付いていた。
共に果てるまで、それは続いた。
挿入を伴ったわけではないのに、僕の胸は、はぁはぁと全速力て走り抜けた後のように喘ぎ、上下していた。
「翠……翠…」
優しい子守唄のように僕を呼ぶ声が遠くに聴こえた。
流と僕の二日目の夜は、やがて暗闇へと吸い込まれていく。
「翠……今日は気持ちよかったか。今日は翠の涙を見るのが辛くてな」
僕の躰を清めながらつぶやく弟の声は、もう届かなかった。
****
スマホのアラームで飛び起き、急いで部屋のカーテンを開けると、まだ夜更け前だった。
真っ暗な空は、真夜中みたいだ。
「洋……おはよう、もう起きたのか」
「丈おはよう!まだ外は真っ暗だな」
「はぁ洋は朝から元気だな。いつも寝坊しているくせに」
「それはだな、丈が昨日俺に手を出さなかったからだ」
「何だって?」
「ははっ」
昨日は翌日朝四時起きということもあり、部屋に別れた後は一緒にテレビを観て、月影寺の離れのリフォームの進捗状況を聞いたりして、そのままそれぞれのベッドで眠った。
俺達はいつの間にか、こんな風に心と躰のゆとりを持てるようになっていた。
「翠さんたちも起きているかな」
「あぁ起きているだろうが、勝手に覗くなよ」
「え?あっあぁそうだよね。プライベートだもんな」
特に翠さんは、昨日いろんなことがあって疲れているだろう。実は翠さんにちょっかいを出した克哉さんという人のことを、丈には話すべきか迷っている。丈なら冷静な判断を下してくれそうだ。とにかくあのままでは済まないような気がして不安なんだ。
出発まであと十五分。
俺はコーヒーを淹れて、翠さんと流さんを待っていた。
やがて部屋のドアが開いて、二人が出て来た。
「おはよう。丈、洋くん」
ビーチサンダル―にハーフパンツ姿のラフな格好の流さんと、白いチノパンに薄いブルーの七分袖のリネンシャツの爽やかな翠さん。
対照的な二人だが、甲乙つけがたいほどカッコいい。
それに翠さんはこの旅行に来てから、なんというか男性に使う言葉ではないが色っぽくなった気がして、何故か目のやり場に困ってしまう。こんな風に感じるなんて、俺が変なのかな。翠さんの胸元に咲いた花弁が忘れられない。
「洋、なに兄さんたちに見惚れてんだ」
丈がぶすっとしているので、慌てて丈の姿を見つめる。
うん、翠さんも流さんもかっこいいけど、丈が一番だ。
アイコンタクトが伝わったのか、丈も頬を緩めた。
「丈の分のコーヒーだよ」
「ありがとう」
****
ホテルのロビーからウミガメを観察できる海岸まで、二十名ほどのツアーで、マイクロバスで出発した。俺も家族連れに交じって、バスへと乗り込んだ。
なんだか気恥ずかしい。
ふわふわとした気分だった。
こんな風に、家族連れに紛れ込んで普通に観光するなんて、俺はそういうことに不慣れだから。
「洋、どうした?」
「なんか気恥ずかしいな。こんな風に皆と観光したり、普通に旅行するのって」
「そうか…これからはきっとこれが当たり前のことになるだろう」
「そうだね」
まだ夜は明けきらず、外は真っ暗だ。
でも夜明けは近い。もう間近まで迫っている。
特別な何かはいらない。
ありふれた毎日が愛おしい。
うわごとのように流に呼ばれた。そのまま屹立を口に含まれて、思わず零れそうになる声を漏らすまいと、自分の口を手の甲で塞いだ。
流の巧みな舌の動きに攻められ、あっという間に硬くなっていくのが信じられなかった。
あ……どうしよう。気持ちいい……こんな悦び……知らない。
この数年というもの特に性欲というものが沸かず、ただ修行に明け暮れる日々だったことに改めて気づかされる。
住職だった父が、熱海や伊豆のリゾートマンションに籠る母の元で過ごすことが多くなり、徐々に寺の重要な法要を任されるようになって多忙だったのもあるが。
僕は元来、性欲は少ない人間だと思っていた。
なのに、これは一体どういうことだ。
これではまるで……僕の方から求めているようじゃないか。
もっと触れて欲しくて強請るような腰が、僕のものだなんて信じ難い。
「翠、流石に二晩続けて挿れるのはまだ辛いだろう。今日はこうしよう」
「え……何を?」
おもむろに流の股間に硬く屹立しているものと、僕のものをぴったりと重ねられてしまった。
「えっ」
男同士だと実感するものが密着すると、ぶるっと腰が震える。そのまま流の大きな手のひらで一纏めに包まれて、上下に扱かれていく。
「えっ……うっ……あぁいやだ!流っ!」
一瞬何が起こったのか、理解できなかった。
だが強烈な快楽がすぐに追いかけて来た。
同じ器官を持つ男同士だから、何処をどう触れば感じるのか知り過ぎている。
「あっ……んっ…ん」
小刻みに擦られ、流の手のひらの熱と流の屹立の熱に挟まれ、ぷるんと心許なく揺れる僕のもの。
「翠のここ、すごく可愛いな。色も綺麗で、こんなにぬるぬるに濡れて」
言葉でも手でも追い詰められ、不慣れな僕が堕ちゆくのは本当に呆気ないほどだった。
「流、もう駄目だ!もう」
涙目になって訴えても、流の手の動きは止まらない。
「大丈夫だ。一緒にいこう」
「くっ……くうっ…」
気持ち良すぎて怖くなり、片手は声を堪えるため口を押さえ、もう片方の手は、流の背中に必死にしがみ付いていた。
共に果てるまで、それは続いた。
挿入を伴ったわけではないのに、僕の胸は、はぁはぁと全速力て走り抜けた後のように喘ぎ、上下していた。
「翠……翠…」
優しい子守唄のように僕を呼ぶ声が遠くに聴こえた。
流と僕の二日目の夜は、やがて暗闇へと吸い込まれていく。
「翠……今日は気持ちよかったか。今日は翠の涙を見るのが辛くてな」
僕の躰を清めながらつぶやく弟の声は、もう届かなかった。
****
スマホのアラームで飛び起き、急いで部屋のカーテンを開けると、まだ夜更け前だった。
真っ暗な空は、真夜中みたいだ。
「洋……おはよう、もう起きたのか」
「丈おはよう!まだ外は真っ暗だな」
「はぁ洋は朝から元気だな。いつも寝坊しているくせに」
「それはだな、丈が昨日俺に手を出さなかったからだ」
「何だって?」
「ははっ」
昨日は翌日朝四時起きということもあり、部屋に別れた後は一緒にテレビを観て、月影寺の離れのリフォームの進捗状況を聞いたりして、そのままそれぞれのベッドで眠った。
俺達はいつの間にか、こんな風に心と躰のゆとりを持てるようになっていた。
「翠さんたちも起きているかな」
「あぁ起きているだろうが、勝手に覗くなよ」
「え?あっあぁそうだよね。プライベートだもんな」
特に翠さんは、昨日いろんなことがあって疲れているだろう。実は翠さんにちょっかいを出した克哉さんという人のことを、丈には話すべきか迷っている。丈なら冷静な判断を下してくれそうだ。とにかくあのままでは済まないような気がして不安なんだ。
出発まであと十五分。
俺はコーヒーを淹れて、翠さんと流さんを待っていた。
やがて部屋のドアが開いて、二人が出て来た。
「おはよう。丈、洋くん」
ビーチサンダル―にハーフパンツ姿のラフな格好の流さんと、白いチノパンに薄いブルーの七分袖のリネンシャツの爽やかな翠さん。
対照的な二人だが、甲乙つけがたいほどカッコいい。
それに翠さんはこの旅行に来てから、なんというか男性に使う言葉ではないが色っぽくなった気がして、何故か目のやり場に困ってしまう。こんな風に感じるなんて、俺が変なのかな。翠さんの胸元に咲いた花弁が忘れられない。
「洋、なに兄さんたちに見惚れてんだ」
丈がぶすっとしているので、慌てて丈の姿を見つめる。
うん、翠さんも流さんもかっこいいけど、丈が一番だ。
アイコンタクトが伝わったのか、丈も頬を緩めた。
「丈の分のコーヒーだよ」
「ありがとう」
****
ホテルのロビーからウミガメを観察できる海岸まで、二十名ほどのツアーで、マイクロバスで出発した。俺も家族連れに交じって、バスへと乗り込んだ。
なんだか気恥ずかしい。
ふわふわとした気分だった。
こんな風に、家族連れに紛れ込んで普通に観光するなんて、俺はそういうことに不慣れだから。
「洋、どうした?」
「なんか気恥ずかしいな。こんな風に皆と観光したり、普通に旅行するのって」
「そうか…これからはきっとこれが当たり前のことになるだろう」
「そうだね」
まだ夜は明けきらず、外は真っ暗だ。
でも夜明けは近い。もう間近まで迫っている。
特別な何かはいらない。
ありふれた毎日が愛おしい。
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