重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
698 / 1,657
完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 80』明けゆく想い

しおりを挟む
 流の指がスイッチに触れた途端、ベッドボードの上の照明が光を真っすぐに放った。それはまるで暗闇に光る稲光のように衝撃的だった。

 はっとして流のことを見上げると、天井から僕の躰をスポットライトのように照らす光を認めた。

「流……これじゃ」

 そう……これでは躰の隅々まで暴かれてしまう。
 流の視線を痛い位に感じてしまう。

「翠、見せてくれよ。翠の躰の隅々まで見たかった」

 うっと言葉に詰まる。

 昨日躰を繋げた時も死にたくなるほど恥ずかしいと思ったが、また違った意味で羞恥で動悸が激しくなり、震えてしまう。

「なぁいいだろう?俺がどんなに翠の躰を見たかったか知っているだろう」

「なっ……流と同じ男の躰だ。でも……その……流みたいに逞しくはないが……」

「可愛いこと言うなよ、翠。翠の躰だから見たいんだ」

 あぁ……困った。弟の頼みはいつだって断れない。
 こんな不埒な頼みだって、僕は言うがままだ。

 流の手が帯を緩め袷から肩を剥かれば、待っていたとばかりに胸元に冷房の冷気がすっと降りて来る。そのまま裾も割られ、浴衣を左右に開かれる形になる。

「あっ……」

 流は…僕にすぐに触れなかった。

 視線だけが僕の躰を隈なく撫でるように辿っていくのを感じ、一際恥ずかしさが募り、ぎゅっと眼を瞑った。

「翠の躰……こうやってゆっくり見たかった」

僕の顔。
僕の胸。
僕の腹。

下腹部……太腿……足先まで、流の熱い視線はどんどん下がって来る。

「流……もう…もういいだろう。これは心許なくて、いやだ」

 いやだと言いながらも、流にこの躰を渡したくなるのは何故だろう。昨夜初めて流に抱かれてから、僕の中の何かがせき止められなくなっている。

 やがて流の手が僕の躰に優しく触れてきた。撫でるように触れたかと思うと、所々で動きが停止するのは何故だ。

「ここと…ここ…あっここにもある」

「……っ……何がだ?」

 もどかしい動きに、じれったくなる。

「翠のホクロの場所だ。ふぅん……こんな所にもあるんだな」

 しみじみと感慨深く囁かれれば、「そんな場所いちいち見るな!」と叫びたくなっていた抗う気持ちも、途端に消沈してしまう。

 スポットライトのように自分の裸体が照らされる中、流が艶めいた表情で見下ろして来るなんて堪らない。

「流……もう満足しただろう?もう浴衣を着せてくれないか」

「まだだ」

 今度は流の手が足を掴み、そのまま膝を胸元まで折り曲げられ左右に開かれてしまった。

「あっ!やめろっ!そんな部分までは駄目だっ」

 流の逞しくて大きな手、長い指が内股をつーっと辿っていく。そんな敏感な部分を撫でられたら、力が入らない。

「やっぱり此処にもあったな」

 そんな際どい行き止まり付近に、ホクロなんてあったのか。自分では普段見ない部分まで暴かれる。

「此処にあるような気がしていた」

「馬鹿!もういいだろう?気が済んだだろう?」

「しっ……翠、そんなに声を出しては駄目だ」

「うっ……」

 そうだった。リビングを挟んで向こうの部屋からは、まだテレビの音と時折話声が聴こえていたのだ。

「翠から……このベッドにやって来たんだ。我慢しろ」

 覆い被さるように天井の照明を遮っていた流の躰が、ふっとずれると、眩しい光に包まれてしまう。

 そして何もかも、僕からも丸見えになってしまう。

 流の姿を探し、僕の下腹部を見下ろすとその光景に唖然とした。

 何もかも見えすぎて、あからさますぎて、居たたまれなかった。

 僕は流に見られ触れられただけで、こんなになっていたのか。

 性欲というものは少なく淡白な方だと思っていたのに、そんなもの煩悩だと思っていたのに……昨日の今日でこの有様なんて、そのことに呆然としてしまった。


「翠のここ、気持ち良くなっているな。まだほんの少し触れただけなのに」

「それは……言うな」


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

処理中です...