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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 78』明けゆく想い
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「丈そう怒んなって」
「別に怒ってなんかない」
動物園の中を案内版に沿って練り歩きながら、丈と話した。背も高く大柄な丈の歩幅は大きく、暑さと疲れでバテ気味の俺は常に一歩遅れがちになってしまう。同じ男なのに悔しいな。
「そっか、じゃあ俺は?俺は動物に例えると何?例えば豹とか、うーん、鹿はどう?」
「いや全然違うな」
「うっ……だよな……豹は流さんって感じだし」
返事を聞かなくたって分かっていたさ。しなやかな躍動感のある男らしい流さんは、まさに豹だ。狙った獲物を逃さない凄味を感じる時もあるし…一方、翠さんは鹿だ。気高く楚々とした姿やすらりとした脚とかも翠さんを彷彿させるから。
「そうだな、洋に似た動物はここにはいないな」
「そっか……つまらないな」
そういえば生まれてこの方、何かに似ていると言われたことがないことに気が付いた。自分だけ仲間外れにされたかのように、寂しい気分になっていると、丈が何か思いついたように顔をあげた。
「そうだな、しいて言えば白馬……いやユニコーンってとこか」
「え?でもそれ動物園にいないよ」
「だから言ったろう?ここにはいないって。気高いところが似ているよ。でもユニコーンは気高いだけじゃなく、その角には水を浄化し、毒を中和するという不思議な特性があると言い伝えがあるんだぞ」
「ふぅん……」
「洋にも同じことを感じる。洋の存在が私を浄化させていくような気がするよ。二人の兄たちに対するわだかまりが、洋が間に入ってくれたおかげで、なくなって来ていて嬉しいよ」
「……そうなのか」
そう言われると、架空の動物ユニコーンも悪くないかな。
しかし丈がこんな風に言うのは珍しい。立派な兄を二人も持った丈の苦悩か……俺は丈のことをまだまだ知らないと悟ってしまった。
「これからはさ、もっと話してくれよ。丈のこと知りたい」
「私のことか?」
「俺のことばかりだった。ここまで来るのに必死で、だから今度は丈の番だ」
「ははっ、面白い話はないぞ。だが洋とはこれからはお互いのことを沢山話していけたらいいな。私たちは結婚したんだしな」
真顔で改まって言われると、やっぱりまだ恥ずかしい。
「丈、結婚、結婚って連呼するなよ。日本ではそう言わないのに」
「違うのか?帰ったら新居完成間近だぞ。そう思うと、そろそろ北鎌倉に戻りたくなってきたな」
「うん……明後日には、もういつもの生活だな」
****
乗馬で汗をかいたのでシャワーを浴び、午後はのんびりと部屋で過ごした。皆で洋画DVDを観たりトランプなんかもして、なんだか信じられない位ゆったりとした時間だった。
本当は宮崎市内へ観光にでも行こうと思っていたが、今日は皆疲れ気味だったし、部屋でゆっくり過ごすのがいいと判断した。
「じゃあ、おやすみなさい」
「明日寝坊しないようにな」
一通り遊び終わるとホテルのディナービッフェで夕食を取り、まだ二十時だというのにそれそれの部屋に別れた。
「翠兄さん、明日の夜は早起きしないといけないから、さぁもう寝ましょう」
旅行の三日目の朝は、宿泊者限定のウミガメの生態を学ぶツアーに参加する予定だ。ホテルから車で三十分程の新富町富田浜は、南北に長い砂浜が続き太平洋に面した海岸で日本有数のアカウミガメの上陸・産卵地だそうだ。
早朝の富田海岸でアカウミガメについて、生態を学び、実際に上陸したウミガメの足跡などを観察するツアーが開催されることを事前に旅行会社で聞いたので、申し込んでおいたのだ。
「えっもう寝るのか、いくら何でも早くないか」
顔を洗い歯磨きをして洗面所から出てきた翠兄さんにタオルを渡してやると、不服そうな声を漏らした。
「明日は四時半出発ですよ」
「ん……そんなに早く起きれるかな」
「何いってるんですか。寺では一番の早起きの翠兄さんが」
「それは寺での話だよ。はぁ……もう明後日には北鎌倉に戻るのか」
「そうですよ。だから早く寝ましょう」
「……」
翠兄さんをベッドに寝かし布団をかけてやると、頭を枕に埋めた翠兄さんが、じっと俺のことを見上げてきた。
「流……本当に…」
「何です?」
「……ん、その……今日は……いいのか」
翠兄さんの口からそんなことを言わせるなんて野暮だ。
「翠、今日はいいんだ。昨日の疲れが取れていないだろう。躰が大事なんだ。翠の躰が」
「流……」
何か言いたげな唇。
これ以上近くで見つめていたら駄目だ。
その唇を吸いたくなる。
吸ったらその次は……小さな喉仏のある首筋に舌を這わせたくなる。
そしたら胸の小さな突起を探したくなる。
直に触れたくなる。
粒を舐め弄りたくなる。
もう止まらなくなるんだ。
翠のこと求める気持ちが制御できなくなるんだ。
だから……
俺は顔を背け自分のベッドに潜り込み、頭まで布団を被ってから声を振り絞る
「翠兄さん、おやすみなさい」
「……うん…」
カチカチ……カチカチ。
時計の針の音がうるさい。
隣室の丈くんと洋くんはまだ起きているらしく微かな話声や物音が、静寂に包まれたこの部屋に届くと、あの岩場で丈に抱かれる洋くんのほっそりとした姿を思い出してしまった。
続いて、昨夜俺の腕の中にいた翠の裸体を、汗ばんだ皮膚に触れあい、吐息を分け合い、翠の躰の奥深くへ潜り込んだ俺の雄の熱も…
ううう……くそっ駄目だ。駄目だ!
節操もない。
もう早く寝よう!
そうしたら楽になる。
そう思って必死に目を瞑った。
****
洋がユニコーンのイメージというのは、Bloveさん連載時の感想コメント欄の会話から頂戴したアイデアです。素敵なイメージでぴったりだと思いました!ありがとうございます。
宮崎旅行もようやく終わりが見えて来たかな。あ…でも流さんが暴走すると終わらないかもです!(〃艸〃)
「別に怒ってなんかない」
動物園の中を案内版に沿って練り歩きながら、丈と話した。背も高く大柄な丈の歩幅は大きく、暑さと疲れでバテ気味の俺は常に一歩遅れがちになってしまう。同じ男なのに悔しいな。
「そっか、じゃあ俺は?俺は動物に例えると何?例えば豹とか、うーん、鹿はどう?」
「いや全然違うな」
「うっ……だよな……豹は流さんって感じだし」
返事を聞かなくたって分かっていたさ。しなやかな躍動感のある男らしい流さんは、まさに豹だ。狙った獲物を逃さない凄味を感じる時もあるし…一方、翠さんは鹿だ。気高く楚々とした姿やすらりとした脚とかも翠さんを彷彿させるから。
「そうだな、洋に似た動物はここにはいないな」
「そっか……つまらないな」
そういえば生まれてこの方、何かに似ていると言われたことがないことに気が付いた。自分だけ仲間外れにされたかのように、寂しい気分になっていると、丈が何か思いついたように顔をあげた。
「そうだな、しいて言えば白馬……いやユニコーンってとこか」
「え?でもそれ動物園にいないよ」
「だから言ったろう?ここにはいないって。気高いところが似ているよ。でもユニコーンは気高いだけじゃなく、その角には水を浄化し、毒を中和するという不思議な特性があると言い伝えがあるんだぞ」
「ふぅん……」
「洋にも同じことを感じる。洋の存在が私を浄化させていくような気がするよ。二人の兄たちに対するわだかまりが、洋が間に入ってくれたおかげで、なくなって来ていて嬉しいよ」
「……そうなのか」
そう言われると、架空の動物ユニコーンも悪くないかな。
しかし丈がこんな風に言うのは珍しい。立派な兄を二人も持った丈の苦悩か……俺は丈のことをまだまだ知らないと悟ってしまった。
「これからはさ、もっと話してくれよ。丈のこと知りたい」
「私のことか?」
「俺のことばかりだった。ここまで来るのに必死で、だから今度は丈の番だ」
「ははっ、面白い話はないぞ。だが洋とはこれからはお互いのことを沢山話していけたらいいな。私たちは結婚したんだしな」
真顔で改まって言われると、やっぱりまだ恥ずかしい。
「丈、結婚、結婚って連呼するなよ。日本ではそう言わないのに」
「違うのか?帰ったら新居完成間近だぞ。そう思うと、そろそろ北鎌倉に戻りたくなってきたな」
「うん……明後日には、もういつもの生活だな」
****
乗馬で汗をかいたのでシャワーを浴び、午後はのんびりと部屋で過ごした。皆で洋画DVDを観たりトランプなんかもして、なんだか信じられない位ゆったりとした時間だった。
本当は宮崎市内へ観光にでも行こうと思っていたが、今日は皆疲れ気味だったし、部屋でゆっくり過ごすのがいいと判断した。
「じゃあ、おやすみなさい」
「明日寝坊しないようにな」
一通り遊び終わるとホテルのディナービッフェで夕食を取り、まだ二十時だというのにそれそれの部屋に別れた。
「翠兄さん、明日の夜は早起きしないといけないから、さぁもう寝ましょう」
旅行の三日目の朝は、宿泊者限定のウミガメの生態を学ぶツアーに参加する予定だ。ホテルから車で三十分程の新富町富田浜は、南北に長い砂浜が続き太平洋に面した海岸で日本有数のアカウミガメの上陸・産卵地だそうだ。
早朝の富田海岸でアカウミガメについて、生態を学び、実際に上陸したウミガメの足跡などを観察するツアーが開催されることを事前に旅行会社で聞いたので、申し込んでおいたのだ。
「えっもう寝るのか、いくら何でも早くないか」
顔を洗い歯磨きをして洗面所から出てきた翠兄さんにタオルを渡してやると、不服そうな声を漏らした。
「明日は四時半出発ですよ」
「ん……そんなに早く起きれるかな」
「何いってるんですか。寺では一番の早起きの翠兄さんが」
「それは寺での話だよ。はぁ……もう明後日には北鎌倉に戻るのか」
「そうですよ。だから早く寝ましょう」
「……」
翠兄さんをベッドに寝かし布団をかけてやると、頭を枕に埋めた翠兄さんが、じっと俺のことを見上げてきた。
「流……本当に…」
「何です?」
「……ん、その……今日は……いいのか」
翠兄さんの口からそんなことを言わせるなんて野暮だ。
「翠、今日はいいんだ。昨日の疲れが取れていないだろう。躰が大事なんだ。翠の躰が」
「流……」
何か言いたげな唇。
これ以上近くで見つめていたら駄目だ。
その唇を吸いたくなる。
吸ったらその次は……小さな喉仏のある首筋に舌を這わせたくなる。
そしたら胸の小さな突起を探したくなる。
直に触れたくなる。
粒を舐め弄りたくなる。
もう止まらなくなるんだ。
翠のこと求める気持ちが制御できなくなるんだ。
だから……
俺は顔を背け自分のベッドに潜り込み、頭まで布団を被ってから声を振り絞る
「翠兄さん、おやすみなさい」
「……うん…」
カチカチ……カチカチ。
時計の針の音がうるさい。
隣室の丈くんと洋くんはまだ起きているらしく微かな話声や物音が、静寂に包まれたこの部屋に届くと、あの岩場で丈に抱かれる洋くんのほっそりとした姿を思い出してしまった。
続いて、昨夜俺の腕の中にいた翠の裸体を、汗ばんだ皮膚に触れあい、吐息を分け合い、翠の躰の奥深くへ潜り込んだ俺の雄の熱も…
ううう……くそっ駄目だ。駄目だ!
節操もない。
もう早く寝よう!
そうしたら楽になる。
そう思って必死に目を瞑った。
****
洋がユニコーンのイメージというのは、Bloveさん連載時の感想コメント欄の会話から頂戴したアイデアです。素敵なイメージでぴったりだと思いました!ありがとうございます。
宮崎旅行もようやく終わりが見えて来たかな。あ…でも流さんが暴走すると終わらないかもです!(〃艸〃)
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リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
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