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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 73』明けゆく想い
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「洋くんに、こんなこと聞いたら、引かれてしまうかもしれないが……」
乗馬場へ行く道すがら、改まった様子の翠さんに話しかけられた。実はさっきの大風呂でも何度も何かを聞きたそうな顔をしては口を噤んでいたことを、気が付いていた。
ちらっと振り返れば、流さんも丈も随分後ろの方にいて、何か熱心に笑顔を交えながら話し込んでいるようだった。
「翠さんになら、何でも答えます。思い切って話してください。さっきからずっと、俺に何か聞きたそうだったから…」
「あ……ごめん」
「さぁ……どうぞ」
しかし促して出て来た言葉に驚いた。
「洋くんは、その……女のように抱かれることに抵抗はない?」
「えっ……」
慎ましやかで品のある翠さんから、まさかそんな言葉が零れ落ちるとは正直思っていなくて、絶句してしまった。
「なっなんで、急に……」
「あ……いや、ごめん。不躾なことを聞いた。忘れてくれ」
翠さんも自分の口から零れ落ちたものに、動揺しているようだった。でも、先ほどの翠さんの若かりし頃に起きたことを聞いたばかりだったし、翠さんに何か大きな越えたいものがあるのかもしれないと悟った。
らしくない行動には、必ず理由があるはずだ。
「……それは……全く抵抗がないと言ったら、正直嘘になるかもしれないです。でも後悔はないです。それは丈だからなのかな。丈にだけは許せたんです。他はただ気持ち悪く吐き気がするだけの行為も……違っていました」
「丈にだけか……それはきっと、丈のことを想い、信じているからなんだろうね」
「でも、こう思います。確かにその……丈の愛をカタチとして受け止める行為として、どちらかが受け入れる方になりますが、気持ちは受け身じゃないんです。俺だって男です。確かに精神的に追い詰められていた頃は、ただ守られるだけの時期もありましたが、今は守られるだけでなくて、ちゃんと自立して、丈のことを支えられる人間になりたいと思っています」
「洋くん……」
「俺は、もっともっと強くなりたいんです。それは力じゃなくて、心を鍛えたいということであって」
翠さんに聞かれたことを答えたつもりだったが、自分自身を見つめ直すきっかけにもなったようだ。
丈に抱かれる日々の意味。
丈を受け止めた分だけ、俺は強くなる。
丈を信じ愛する心がしっかりと固まっていくのを感じる。
抱かれ繋がることにより、離れ難い縁を重ね、絆を深め合っていく。
「洋くんありがとう。お陰で吹っ切れそうだ」
なにを?そう問ことも、やはりやめておいた。
翠さんは何かを受け入れ、何かを吹っ切って進んで行くつもりなのだから。
きっと──
****
乗馬倶楽部では俺と丈は乗馬の経験があるので、『外乗シービューコース』というものを選んだ。
「二人で行っておいでよ。僕たちはここで休んでいるから」
見学しているという翠兄さんに付き合って、流さんも見学席で待っているという。
「じゃあ行ってきます」
馬の上から二人の和やかな様子を見下ろすと、まだ俺が小学性の頃の思い出がふわっと蘇ってきた。
軽井沢の乗馬倶楽部に母と通った懐かしい日々。目が合うと優しく微笑んでくれた母の眼差しに、ほっとしたものだ。
後に松本さんのお姉さんから、当時のエピソードを聞き驚いたが、母は馬上の俺を見上げながら、俺が成長した姿を思い浮かべていたそうだ。
今俺は……生涯の伴侶として選んだ人と並足(なみあし)で、海岸へ向かう。
今現在の俺の姿、天国にいる母さんにも見えている?
母の望んだ俺の姿ではないかもしれないが、母が望んだ「俺の幸せな日々」は手に入れたよ。
これからは自分で手綱を握って歩んで行く。
強くしなやかに。
爽やかな黒松林の中を抜け、潮風か心地よい海岸線をどこまでも……
丈と共に──
乗馬場へ行く道すがら、改まった様子の翠さんに話しかけられた。実はさっきの大風呂でも何度も何かを聞きたそうな顔をしては口を噤んでいたことを、気が付いていた。
ちらっと振り返れば、流さんも丈も随分後ろの方にいて、何か熱心に笑顔を交えながら話し込んでいるようだった。
「翠さんになら、何でも答えます。思い切って話してください。さっきからずっと、俺に何か聞きたそうだったから…」
「あ……ごめん」
「さぁ……どうぞ」
しかし促して出て来た言葉に驚いた。
「洋くんは、その……女のように抱かれることに抵抗はない?」
「えっ……」
慎ましやかで品のある翠さんから、まさかそんな言葉が零れ落ちるとは正直思っていなくて、絶句してしまった。
「なっなんで、急に……」
「あ……いや、ごめん。不躾なことを聞いた。忘れてくれ」
翠さんも自分の口から零れ落ちたものに、動揺しているようだった。でも、先ほどの翠さんの若かりし頃に起きたことを聞いたばかりだったし、翠さんに何か大きな越えたいものがあるのかもしれないと悟った。
らしくない行動には、必ず理由があるはずだ。
「……それは……全く抵抗がないと言ったら、正直嘘になるかもしれないです。でも後悔はないです。それは丈だからなのかな。丈にだけは許せたんです。他はただ気持ち悪く吐き気がするだけの行為も……違っていました」
「丈にだけか……それはきっと、丈のことを想い、信じているからなんだろうね」
「でも、こう思います。確かにその……丈の愛をカタチとして受け止める行為として、どちらかが受け入れる方になりますが、気持ちは受け身じゃないんです。俺だって男です。確かに精神的に追い詰められていた頃は、ただ守られるだけの時期もありましたが、今は守られるだけでなくて、ちゃんと自立して、丈のことを支えられる人間になりたいと思っています」
「洋くん……」
「俺は、もっともっと強くなりたいんです。それは力じゃなくて、心を鍛えたいということであって」
翠さんに聞かれたことを答えたつもりだったが、自分自身を見つめ直すきっかけにもなったようだ。
丈に抱かれる日々の意味。
丈を受け止めた分だけ、俺は強くなる。
丈を信じ愛する心がしっかりと固まっていくのを感じる。
抱かれ繋がることにより、離れ難い縁を重ね、絆を深め合っていく。
「洋くんありがとう。お陰で吹っ切れそうだ」
なにを?そう問ことも、やはりやめておいた。
翠さんは何かを受け入れ、何かを吹っ切って進んで行くつもりなのだから。
きっと──
****
乗馬倶楽部では俺と丈は乗馬の経験があるので、『外乗シービューコース』というものを選んだ。
「二人で行っておいでよ。僕たちはここで休んでいるから」
見学しているという翠兄さんに付き合って、流さんも見学席で待っているという。
「じゃあ行ってきます」
馬の上から二人の和やかな様子を見下ろすと、まだ俺が小学性の頃の思い出がふわっと蘇ってきた。
軽井沢の乗馬倶楽部に母と通った懐かしい日々。目が合うと優しく微笑んでくれた母の眼差しに、ほっとしたものだ。
後に松本さんのお姉さんから、当時のエピソードを聞き驚いたが、母は馬上の俺を見上げながら、俺が成長した姿を思い浮かべていたそうだ。
今俺は……生涯の伴侶として選んだ人と並足(なみあし)で、海岸へ向かう。
今現在の俺の姿、天国にいる母さんにも見えている?
母の望んだ俺の姿ではないかもしれないが、母が望んだ「俺の幸せな日々」は手に入れたよ。
これからは自分で手綱を握って歩んで行く。
強くしなやかに。
爽やかな黒松林の中を抜け、潮風か心地よい海岸線をどこまでも……
丈と共に──
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