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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 72』明けゆく想い
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乗馬場へ歩く道すがら、俺は丈と並んで歩いた。
翠兄さんと洋くんも、俺達の前を楽しそうに歩いている。
洋くんは、翠兄さんにすっかり懐いたな。
翠兄さんと洋くんは美しい外見もそうだが、どうやら内面的に共鳴するところがあるようだ。こうやって仲睦まじく話している後姿を見ていても、二人の波長がよく合っていることが分かる。
兄さん……良かったな。何しろ昔から、俺も丈も兄さんとは外見も中身も何もかも似ていなかったからな。兄さんは似ても似つかない俺達の兄として、本当にいつも見本となるように頑張っていたからな。
縁あって洋くんのような可愛い弟が出来たことは、俺も嬉しいが、もしかしたら兄さんが一番嬉しいんじゃないか。
「ところで流兄さん、翠兄さんと何かあったのですか」
「えっ?」
いつも人に無関心の丈が、そんなことを言い出したので驚いた!
「なんでそう思う?」
「なんとなく朝から翠兄さんに様子が少し変なような。あっ深い意味はないのですが……」
俺の顔を見た丈が、余計なことを言ったかのように気まずい表情を浮かべていた。
昨夜のこと、俺が翠兄さんを抱いたこと、まさか気が付いたわけではないだろうが。信頼する弟であろうと、知られてはいけないことだから、気を引き締めていかないと。隠し通さないといけない。
翠兄さんもそう思っているようだ。俺の方もこの件に関しては同意する。ここではともかく、北鎌倉に戻ったら様々な弊害を生むことだ。そこでふと昨夜……一番会いたくない奴とすれ違ったことを思い出した。
忌々しい奴……俺のかつての友人。
「丈、翠兄さんのことさ、お前も気を付けてやってくれ」
「やはり何かあったんですか」
「お前はもう家を出ていたから知らないことだが、翠兄さんの親友の達哉さんのことは分かるか」
「あぁ、兄さんの結婚式にも来ていた朗らかな方ですよね。今は同じ鎌倉の寺の若住職だと認識していますが、彼が何か」
「いや、その達哉さんの弟の方だ。克哉という男が兄さんに近づかないように、お前も充分気をつけてやってくれ。どうも嫌な予感がしてならない」
「その男が……兄さんに何かしたとでも?」
途端に丈の表情も険しくなった。あぁ、こいつは思い出してしまったんだな。かつて洋くんに起きた悲劇を……
「いや、俺にもはっきりと分からないんだ。真相は……だが、何ががあったのは確かだ。どこまでだか分からないが……あいつ、今、宮崎に来ているんだ。昨日ホテルのロビーで見かけて、兄さんと話していた。兄さんの嫌そうな怯えるような表情が、やはり気になってしょうがない」
「分かりました。何か翠兄さんからは話せないようなことかもしれませんね。私も充分注意します」
「あぁ頼んだぞ。しかしお前頼もしくなったな。正直俺さ、お前とこんなに気が合うとは思わなかったよ」
「はぁ、またそれですか」
「丈、真面目な話、お前が戻って来てくれて嬉しかった。頼もしく思っている」
「……流兄さん」
無口で、ポーカーフェイスで気取った弟と思っていた丈が、いつにまにこんなによく喋り、人間味のある深い男になっていたのか。
過ぎ去った年月が勿体ないと思えるほど、今の俺は丈のことを信頼し頼っている。お互いの心のひだに入り込むような穏やかな時を、今俺たちは共有している。
翠兄さんと洋くんも、俺達の前を楽しそうに歩いている。
洋くんは、翠兄さんにすっかり懐いたな。
翠兄さんと洋くんは美しい外見もそうだが、どうやら内面的に共鳴するところがあるようだ。こうやって仲睦まじく話している後姿を見ていても、二人の波長がよく合っていることが分かる。
兄さん……良かったな。何しろ昔から、俺も丈も兄さんとは外見も中身も何もかも似ていなかったからな。兄さんは似ても似つかない俺達の兄として、本当にいつも見本となるように頑張っていたからな。
縁あって洋くんのような可愛い弟が出来たことは、俺も嬉しいが、もしかしたら兄さんが一番嬉しいんじゃないか。
「ところで流兄さん、翠兄さんと何かあったのですか」
「えっ?」
いつも人に無関心の丈が、そんなことを言い出したので驚いた!
「なんでそう思う?」
「なんとなく朝から翠兄さんに様子が少し変なような。あっ深い意味はないのですが……」
俺の顔を見た丈が、余計なことを言ったかのように気まずい表情を浮かべていた。
昨夜のこと、俺が翠兄さんを抱いたこと、まさか気が付いたわけではないだろうが。信頼する弟であろうと、知られてはいけないことだから、気を引き締めていかないと。隠し通さないといけない。
翠兄さんもそう思っているようだ。俺の方もこの件に関しては同意する。ここではともかく、北鎌倉に戻ったら様々な弊害を生むことだ。そこでふと昨夜……一番会いたくない奴とすれ違ったことを思い出した。
忌々しい奴……俺のかつての友人。
「丈、翠兄さんのことさ、お前も気を付けてやってくれ」
「やはり何かあったんですか」
「お前はもう家を出ていたから知らないことだが、翠兄さんの親友の達哉さんのことは分かるか」
「あぁ、兄さんの結婚式にも来ていた朗らかな方ですよね。今は同じ鎌倉の寺の若住職だと認識していますが、彼が何か」
「いや、その達哉さんの弟の方だ。克哉という男が兄さんに近づかないように、お前も充分気をつけてやってくれ。どうも嫌な予感がしてならない」
「その男が……兄さんに何かしたとでも?」
途端に丈の表情も険しくなった。あぁ、こいつは思い出してしまったんだな。かつて洋くんに起きた悲劇を……
「いや、俺にもはっきりと分からないんだ。真相は……だが、何ががあったのは確かだ。どこまでだか分からないが……あいつ、今、宮崎に来ているんだ。昨日ホテルのロビーで見かけて、兄さんと話していた。兄さんの嫌そうな怯えるような表情が、やはり気になってしょうがない」
「分かりました。何か翠兄さんからは話せないようなことかもしれませんね。私も充分注意します」
「あぁ頼んだぞ。しかしお前頼もしくなったな。正直俺さ、お前とこんなに気が合うとは思わなかったよ」
「はぁ、またそれですか」
「丈、真面目な話、お前が戻って来てくれて嬉しかった。頼もしく思っている」
「……流兄さん」
無口で、ポーカーフェイスで気取った弟と思っていた丈が、いつにまにこんなによく喋り、人間味のある深い男になっていたのか。
過ぎ去った年月が勿体ないと思えるほど、今の俺は丈のことを信頼し頼っている。お互いの心のひだに入り込むような穏やかな時を、今俺たちは共有している。
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