重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 64』もう一つの月

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【R18】

「翠 ちょっと待ってろ」

 流が一旦パウダールームへ消え、手に何か小さな瓶を持って戻って来た。それが何を意味するのかよく分からなくて、ぼんやりと火照った躰のまま見つめてしまった。

「翠……この先に進んでも?」

「先って?」

「翠ともっと繋がりたいんだ。翠のここに俺を挿れたい。駄目か」

 流に駄目かと聞かれて駄目と言えない自分がいた。男同士が交わるということ、頭ではどういう方法をとるかは知っていたが、いざ自分の尻を触られて問われるのとでは訳が違う。

「うっ」

 瓶の中身は、ボディオイルだ。それが何の役目をするのか思い当たってドキッとしてしまった。尻の間をおもむろに触られてびくっとしてしまった。

『駄目か』

 それは、いつもの僕の台詞だ。
 そう言って、流にいつも無理を言っていたのは、この僕だった。
 流は僕が望むこと、して欲しいことを何でも叶えてくれた。
 その間一度も、流の方が僕に何かをして欲しいと言って来たことはなかったのに……

 そんな流が今日はさっきから『駄目か』を連発してくる。
 参ったな……僕も断れないことを知っているくせに。

 小さかった流の姿を思い出した。僕が育てたようなものだった。おむつだって替えたし、ミルクだって飲ませてあげたのに……可愛いあどけない弟だったのに、いつからか僕の背をはるかに越して、背だけじゃなく体格だって何もかも追い越された。いつまで経っても筋肉が付かない僕の躰と違って、流の躰はみるみるうちに逞しくなっていた。

 そして今その弟の躰が、僕の上に覆い被さっている。

 いつの間にか流は、僕を求める一人の男になっていた。
 弟であって、弟ではない不確かな存在になっていた。

 過去の切なる願いに突き動かされるように、僕たちは今日躰を繋げる。
 その覚悟は僕にも出来ていた。

「いいよ、流に任せる」

「ありがとう翠。じゃあうつ伏せになって腰を少し浮かせるか」

「あ……あぁ、分かった」

 流によって躰を裏返され腰を持ち上げられた。
 流の逞しい手がぐっと腰を掴んでくる。

 信じられない程恥ずかしい姿勢を取らされ、羞恥で躰のどこもかも真っ赤になった。
 これは……まるで流に向かって尻を突き出すような姿勢だ。

 男性同士のセックスでは、急には躰を繋げられない。そのために事前に準備が必要で……これはそのためのことだと分かっているので必死に我慢した。

 流の手によって温められたオイルが、未だ人に見せたことがない部分へとたっぷりと蜜を垂らすようにたっぷりと塗られた。

「んっ」

 トロリとした感触に太腿がわなわなと震えた。流の手がそのまま剥き出しの僕の尻を撫でまわし、そのまま間へと割り入って来た。

「くうっ……」

 なんとも表現できない感覚に眉根を寄せて必死に耐えた。流も僕が慣れない行為を受け入れていることを理解しているから、焦らずに根気よく指の腹で擦って来る。

 入り口周辺を撫でて、じっと中の様子を伺っているようだ。熱い視線が注がれているので感じてしまう。ややあって指がつぷっと挿し込まれたのを感じだ。

「……っ」

 痛みというより違和感の方が勝り、冷や汗が出た。

「翠、大丈夫か」

「う……」

オイルによって、それはツルっとした動きで上下に動き出す。

「くっ……っ……んっ…」

 やがて時間をかけ馴染んで来たのを見計らうように、指は二本に増やされた。僕はホテルの真っ白なシーツをぎゅっと鷲掴みにして違和感に耐えていた。

「翠……もう少し力抜いてくれよ。怖くないから、なっ」

「だが……」

 怖いとは言えなかった。
 怖いけれども、怖くないから。

 だってこの指は流のものだから。

 躰の奥を流の指が蠢いている。まるで何かを探しているようだ。やがてある一点に辿り着いたようで、躰にスイッチが入ったようにじんと痺れた。

「な……に…」

「ここだな」

「んっ……ん…」

 流がまるで宝物を見つけた子どものように意気揚々と、そこを集中的に刺激してくる。

「やめろ……そこは、なんか変だ」

「翠の気持ちいいところ見つけたよ。ずっと探したかった場所だ」

 躰の奥が疼く。こんな快楽は知らない。どうしたらいいのだ。僕がこんな快楽の渦に巻き込まれるなんて……

「流……流……」

 恐らく涙目になっていたと思う。もう頭の中がごちゃ混ぜで、僕は必死に僕を抱く流のことを呼び続けていた。

「翠、大丈夫だ。怖くない。すべては俺が被るから。翠は僕に躰を開くだけでいい」

「何……言って……流だけにこの罪を預けることは出来ない、僕も一緒だ。共に堕ちるまでだ。どこまでも……」

「翠、大丈夫だ。翠は穢れない。何があっても翠は翠のままだ。俺の大事な翠」

 流が囁く間もずっとある一点を刺激されまくったせいで、疼きが最高潮に達した。

「あうっ……駄目だ。出てしまう……っ……また」

「そろそろ大丈夫そうだ。翠……いいか」

 そう囁かれるや否や、躰をひっくり返され仰向けの姿勢に戻されたかと思うと、膝裏を掴まれ、脚を左右に大きく開かれてしまった。

「えっ……あっ」

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