重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
677 / 1,657
完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 59』もう一つの月

しおりを挟む
 信じられない光景だ。

 俺の腕の中に翠がいるなんて……
 翠が俺に抱かれるのを待っていてくれるなんて。

 やっとだ。

 ずっと憧れていた兄さんの躰に触れることを許されたのだ。あまりに長い年月を待ったので、興奮して戸惑って手が震えてしまう。

 そっと帯を解いて、上半身を剥いた。

 綺麗な形の唇。
 この唇が薄く開いて、流と発音する時の動きが好きだ。
 いつもそう呼んでもらいたくて仕方がなかった。

 そしてほっそりとした首と小さな喉仏。
 こんな頼りないのに、翠が読経する声は痺れるほどの美声なんだよな。

 そして肩から腕にかけての清楚なラインも好きだ。
 滑らかに滑り落ちていく袈裟の袂を、俺はいつも見つめていた。

 胸元を開いていく。
 この先は……ごくっと喉が鳴る。

 翠が恥ずかしそうに身じろぐたびに、俺は一刻も早く奪い取ってしまいたい衝動に駆られる。

 今、翠の何もかもを、手中に収めているのは俺だ。

 一刻も早く繋がりたいと逸る気持ちを押さえるために、翠の片手を絡めとりシーツに押し付けた。そして空いた方の手で翠の薄い胸に触れてみた。

 さっきここに触れた時、翠は寝ていたが、今は俺のことを不安げに見上げている。小さな果実があまりにも美味しそうだったので指で摘まみ上げると、翠は苦痛に顔を歪めた。

 しまった。こんな場所を他人に触れられたことなんてないはずだ。痛いと感じるのが普通だ。

「あうっ」

「痛かったか、悪い」

「……」

 痛かったようで申し訳ない気持ちになった。
 違う、こうじゃない。
 もっと翠のことを感じさせて、気持ち良くさせて、トロトロに溶かしてやりたいんだ。

「ずっとこうやって触れてみたかった。翠の躰に」

「あ……」

 今度は乳輪を舌先で優しく撫でるように触れてみると、気持ち良さそうな声が小さくあがったのでほっとした。さっき寝ている翠にしたことを思い出してしまったようで、指摘され気まずかった。

 でも翠は優しく許してくれた。もう何もかも受け入れる覚悟が翠には出来ているようで、俺の方も胸が高鳴るばかりだ。

 そしてずっと確認したかったことを、とうとう聞くことが出来た。

「翠、男は俺が初めてか」

「っ……当たり前だよ。なんで、そんなことを」

「嬉しいよ。翠……ありがとう」

 翠の答え、泣くほど嬉しかった。

 あの日の思い出したくもない過去が蘇る。
 あの場所で翠を発見した時の俺の衝撃。

 何が起きたのか。何をされたのか。
 最後まで翠は、ちゃんと話してくれなかった。

 でも翠は無事だったのだ。

『翠のはじめては俺がいつかもらう』

 青い時代……確かにそう誓った。
 もうこんな歳になってしまったが、ようやく叶う時がきたのだ。

 翠の胸元には、丈と洋くんから受け継いだばかりの月輪が白く輝いて見えた。

「重なる月」のお陰だ。

 俺達がこんなにも重たい一歩を、ようやく踏み出せたのは。

 丈が洋くんを連れて月影寺に戻って来た時から、俺と翠の運命も変わってきていたのだ。

 それにしても翠の肌は、本当に綺麗だ。月明りに照らされた白い裸体をまじまじと見下ろすと、興奮が更に高まった。

 落ち着け、流。
 流れに乗りすぎるな。
 上手く操れ!

 自分自身を操縦しないと翠を傷つけてしまうぞ!
 そう必死に自分を諫めるが、それよりも興奮の方が勝ってしまう。

 俺は一気に翠の浴衣をはぎ取り、唯一つけていた下着も脱がして一糸纏わぬ姿にさせた。

「んっ」

 翠は恥ずかしさが溢れたようで、腕で顔を隠し表情を見えないようにしてしまった。

「翠の顔を見せてくれ」

 その手をずらしながら翠の潤んだ目元、頬、唇に口づけをしていく。

「そんなに緊張するな。俺にも移ってしまう」

「だが……こんな姿を見られるのはやはり」

「小さい時から一緒に風呂に入った仲だろう。着替えだっていつも手伝っていたのに、何を恥ずかしがるんだ」

「いや……その……だって」

「ふっ、往生際が悪いな」

「もう流れ始めているんだ……俺達は」

「うん……知っている。でも僕たちはどこへ流れ着くのか分からない。……怖くないのか、流は」

「怖くない。翠と一緒なら怖くない。翠が行く所ならどこまでも付いていくだけだ」

 初めて……とうとう……触れられた。

 俺は翠の屹立を手中に収めた。

 幻じゃない、生身の翠の躰の一部。

 温かい──
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...