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完結後の甘い話の章
『蜜月旅行 51』もう一つの月
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翠……やっとだ。
やっと俺の所まで降りて来てくれた。
この機会を逃したくない。
兄さんのことだから、北鎌倉に戻ったら、またいつものようにガードが固くなってしまうだろう。それに息子を引き取ったりしたら、ますますハードルが高くなる。
このまま、俺のものにしてしまいたい。
さっき兄さんもそのつもりで俺に躰を許してくれたんだろう?兄さんからの告白……最後まで聞けなかったが、確かに俺を求めてくれていた。
そう思えたから、止まらなかった。
あんな風に窓ガラスに兄さんを張り付けて、感じさせてしまうなんて。
兄さん、俺の愛撫に確かに感じていた。
戸惑いながら抵抗もせずに受け入れてくれた。
その事実に身震いした。
しかし、さっきは焦り過ぎた。
この部屋が丈と洋くんと共有だってことを失念していた。
初めてだ。
やっとだ。
兄さんのこと……ずっと「翠」と呼びたかった。
それが叶っただけでも夢のようなのに、貪欲な俺はすぐにその先も欲しくなる。
兄さん……口付けよりももっと深いもの、すべてを俺に明け渡してくれないか。
遠い昔の夢が本当ならば、俺達はずっと探して求め合っていたのかもしれない。
だから俺はこんなにも長い年月、この日が来るのを待つことが出来たのか。
長い試練だった。
長い道のりだった。
この機会、絶対逃したくない。
窓ガラスの向こうに浮かぶ涼し気な月を見据えながら、心に誓った。
「流さん、これでいいですか」
洋くんに背後から声をかけられ、我に返った。
振り返れば、ルームサービスも届きテーブルセッティングも終わっていた。広すぎる部屋だと思ったが、部屋飲みをするには丁度良い。すっかりパーティールームのような雰囲気だ。
洋くんはこういうことに慣れているのか。手際よく準備してくれていた。 甲斐甲斐しく働く姿が可愛かった。
「あの、そろそろ翠さん起こしてきましょうか」
「そうだな、やっぱり兄さんがいないと変な感じだ」
「じゃあ俺が行ってきますね」
「いや、俺が起こしてくるよ」
「ええ、お願いします」
「揃ったら乾杯しましょう」
****
俺達の部屋に入り部屋の灯りをつけると、規則正しい寝息が耳に届いた。
どうやら兄さんは、まだベッドで熟睡しているようだった。
このまま覆いかぶさってすべてをもらいたくなる。
だが……ふぅ…今はまだ駄目だ。
深呼吸してから、俺は兄さんの肩を揺すった。
「翠……翠……」
「ん……」
いつもは必ず俺より先に起きている兄さん。:転寝(うたたね)をしている所なんて、物心ついてから見たこともないのに。
こんなに疲れた顔をして、二度も眠ってしまうなんて……俺が兄さんを追い詰めているようで、居たたまれない。
ようやくぼんやりとした表情で目を開けた兄さんと、至近距離で目が合った。
「わっ!」
兄さんが俺の顔を捉えたのと同時に慌てて上半身を起こしたので、おでこ同士がぶつかってしまった。
「あっ!」
「痛っ!」
途端に兄さんの顔が真っ赤に染まった。
「りゅ……流、ごめんっ」
焦ったその顔に、思わず嬉しさが込み上げる。
どうやら眠る前のことを何もかも覚えているようだ。
忘れられなくて良かった。
夢にされなくてよかった。
もう俺は我慢しない。
二人の時はどんどん求めていく。押していく。
兄さん……そうしてもいいか。
「みんな待っているから、さぁ行こう」
そう言いながら兄さんの薄く開いた唇に軽いキスを落とした。「ちゅっ」というリップ音に、兄さんの顔が更に赤く染まった。
「流……何故……」
この人は全くこんな表情をして……俺を惑わせる。
どうしたらいいのか戸惑う苦悩の表情すら艶めいてみえるのだから……俺は相当な重症だ。
やっと俺の所まで降りて来てくれた。
この機会を逃したくない。
兄さんのことだから、北鎌倉に戻ったら、またいつものようにガードが固くなってしまうだろう。それに息子を引き取ったりしたら、ますますハードルが高くなる。
このまま、俺のものにしてしまいたい。
さっき兄さんもそのつもりで俺に躰を許してくれたんだろう?兄さんからの告白……最後まで聞けなかったが、確かに俺を求めてくれていた。
そう思えたから、止まらなかった。
あんな風に窓ガラスに兄さんを張り付けて、感じさせてしまうなんて。
兄さん、俺の愛撫に確かに感じていた。
戸惑いながら抵抗もせずに受け入れてくれた。
その事実に身震いした。
しかし、さっきは焦り過ぎた。
この部屋が丈と洋くんと共有だってことを失念していた。
初めてだ。
やっとだ。
兄さんのこと……ずっと「翠」と呼びたかった。
それが叶っただけでも夢のようなのに、貪欲な俺はすぐにその先も欲しくなる。
兄さん……口付けよりももっと深いもの、すべてを俺に明け渡してくれないか。
遠い昔の夢が本当ならば、俺達はずっと探して求め合っていたのかもしれない。
だから俺はこんなにも長い年月、この日が来るのを待つことが出来たのか。
長い試練だった。
長い道のりだった。
この機会、絶対逃したくない。
窓ガラスの向こうに浮かぶ涼し気な月を見据えながら、心に誓った。
「流さん、これでいいですか」
洋くんに背後から声をかけられ、我に返った。
振り返れば、ルームサービスも届きテーブルセッティングも終わっていた。広すぎる部屋だと思ったが、部屋飲みをするには丁度良い。すっかりパーティールームのような雰囲気だ。
洋くんはこういうことに慣れているのか。手際よく準備してくれていた。 甲斐甲斐しく働く姿が可愛かった。
「あの、そろそろ翠さん起こしてきましょうか」
「そうだな、やっぱり兄さんがいないと変な感じだ」
「じゃあ俺が行ってきますね」
「いや、俺が起こしてくるよ」
「ええ、お願いします」
「揃ったら乾杯しましょう」
****
俺達の部屋に入り部屋の灯りをつけると、規則正しい寝息が耳に届いた。
どうやら兄さんは、まだベッドで熟睡しているようだった。
このまま覆いかぶさってすべてをもらいたくなる。
だが……ふぅ…今はまだ駄目だ。
深呼吸してから、俺は兄さんの肩を揺すった。
「翠……翠……」
「ん……」
いつもは必ず俺より先に起きている兄さん。:転寝(うたたね)をしている所なんて、物心ついてから見たこともないのに。
こんなに疲れた顔をして、二度も眠ってしまうなんて……俺が兄さんを追い詰めているようで、居たたまれない。
ようやくぼんやりとした表情で目を開けた兄さんと、至近距離で目が合った。
「わっ!」
兄さんが俺の顔を捉えたのと同時に慌てて上半身を起こしたので、おでこ同士がぶつかってしまった。
「あっ!」
「痛っ!」
途端に兄さんの顔が真っ赤に染まった。
「りゅ……流、ごめんっ」
焦ったその顔に、思わず嬉しさが込み上げる。
どうやら眠る前のことを何もかも覚えているようだ。
忘れられなくて良かった。
夢にされなくてよかった。
もう俺は我慢しない。
二人の時はどんどん求めていく。押していく。
兄さん……そうしてもいいか。
「みんな待っているから、さぁ行こう」
そう言いながら兄さんの薄く開いた唇に軽いキスを落とした。「ちゅっ」というリップ音に、兄さんの顔が更に赤く染まった。
「流……何故……」
この人は全くこんな表情をして……俺を惑わせる。
どうしたらいいのか戸惑う苦悩の表情すら艶めいてみえるのだから……俺は相当な重症だ。
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