重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
665 / 1,657
完結後の甘い話の章

『蜜月旅行 47』もう一つの月

しおりを挟む
 深まる口付けと共に、流の長年の想いが流れ込んでくる。それはまるで濁流のように、僕を呑み込んでいく。

 流の手が僕の浴衣の上を彷徨っている。いや違う。胸の小さな突起の在り:処(ありか)を…探している。

 やがて探り当てた指先は、布越しに小さな尖りをきゅっと摘まんだ。

「あっ……」

 変なところから声が出て、そんな自分に驚いてしまった。そんな所は、そんな所に触れてはいけない。もうこれ以上は駄目だ。

 そう思うのに、躰に力が入らないんだ。

 どうして……どうしよう。

「流っ……駄目…駄目だ」

「翠につけたんだ。俺、さっき付けてしまったよ!翠は俺の物だという印を」

「あっ」

 風呂場で見つけた赤い痕。
 あのことを言っているのだ。流は……

「もう一度見せてくれ」

「うっ……」

 浴衣の胸元から手を差しいれられ、片方の肩から抜かれ、胸元がはらりと露わになっていく。肌が露わになっていくことに、これほどまでの羞恥を抱いたことはあっただろうか。

 浮かび上がるのは、月下に咲く椿のように凍える花。冷房のよく効いた部屋で剥き出しにされた肌は、鳥肌を立て震えていた。

 そこを温かい舌先で舐められた。

「あぁ駄目だっ!もう離せっ……これ以上は僕に触れてはいけない」

「翠、翠……」

 熱にうなされたように流が僕を呼ぶ。

 あの世界でも、そう呼ばれてみたかった。
 どんなに望んでもその声は届かなかった。

 この世がそうなのか。

 僕と流が長く憧れ……待ち望んだ世の中なのか。だがこの世でも僕たちは血を分けた兄弟だ。

「月下に咲く花のようだ、翠……」

 そう囁かれた途端、躰が更にかっと熱く火照り、我慢出来ない程……疼き出してしまった。

 躰の奥に、知らなかったものが目覚めていく。

 窓ガラスに貼り付けられた僕の躰。胸元に流がまるで縋るように吸い付いて来る。舌先で乳輪をなぞられ、乳首を甘く含まれる。

「んっ……やめ…ろ…駄目だ…」

 嫌じゃない。本当は……気持ちがいい。

 待ち望んだものがすぐ近くにやってきた喜びすら感じている。

「あぁっ」

 この月夜は……この蜜月は……

 僕自身を…僕の人生を大きく変えてしまうのか。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

処理中です...