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完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『蜜月旅行 33』
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目覚めると夜のとばりが降りていた。部屋の電気は消されており、大きな窓の向こうには、船の灯りが星のように瞬いていた。
「……綺麗だ」
ぼんやりと窓の景色を眺め、布団の中で身じろぎすると、上半身が裸なことに気が付いた。
「えっなんで」
慌てて下半身を確かめると、そちらはちゃんと着用していたのでほっとした。
海から戻り躰がべとついて気持ち悪かったので、風呂に行きたいと流に頼んだのは覚えているが、どうやら仕度を待つ間に眠ってしまったようだ。
裸で寝るような癖はないはずなのに……まさか寝惚けてシャツを脱いだのか。あ……でも上半身がさっぱりしているということは、流が脱がして拭いてくれたのかもしれない。
僕は夢を見ていた。
僕を必死に求めてくれる存在を感じ……それによって次第に甘く疼く感覚で満ちて。
あれは……とても人には言えない内容だった。
だが、その夢は妙に現実的で、躰が疼き熱くなるものだった。それ以上見てはいけない内容だったので、起きてすぐ脳内から消し去った。
そんな時突然、部屋に洋くんがやってきた。慌てて起き上がると、彼が僕の上半身を不審そうにじっと見つめているのに気が付いた。
何か不都合なことでも?そう思い、ぱっと自身の躰を確かめるが分からなかった。もしかして……僕の心臓の下にうっすら残る火傷の痕が気になったのだろうかと軽く考えた。
だがバスルームの鏡に僕の全身を映すと、ちょうど乳首の下辺りにうっすらと火傷のケロイドではなく、赤い鬱血があることに気が付いた。
「何?これ」
そっと指先で触れてみる。
うっすらとした赤い痕だ。
これは、まさか……
だが、さっき押し込んだ夢の記憶は、もう遥か彼方。
いつだって僕は煩悩を押し殺して生きて来た。だからこれでいい。
世の中には、知らない方がいいこともある。
寝ている間に何があったのか。あれは夢か現実か。
今、それを追求するのはやめておこう。
そう必死に思うようにした。何故なら丈と洋くんにとって大切な旅行中だから。
シャワーを浴び、流の用意してくれた薄鼠色の浴衣を着て身支度を整えた。
「はぁ……やはり和装は落ち着くな」
普段は一日中袈裟を着ている躰なので、これでやっといつもの調子を取り戻せそうだ。
「ふぅ、しっかりしろ翠。今日の僕は少しおかしいぞ」
そう自分を叱咤し、鏡に映る頬をペシっと軽く叩いた。
****
洋くんの顔は、休養を充分取ったお陰で血色も良く、それでいて昼間激しく丈に求められたせいか妖しいほど艶めいてみえた。
そんな匂い立つような色気を振りまく美貌に、ロビーに集まる人がどよめき出したので、僕は彼を誘ってテラスへ出た。
海風は優しく僕を包み、心を落ち着かせてくれた。
隣に立つ洋くんも気持ち良さそうに目を閉じていた。
心穏やかに、この先は過ごせそうだ。
そうほっとしたのもつかの間……もっと驚くことが起きるなんて!
迷子の少年の父親の顔を見て驚いた。
父親の方も、僕の顔を見て固まっている。
「すっ翠さんじゃないか!」
「まさか……君は……」
「そうです。克哉ですよ」
先ほどまでの息子に憤怒する雰囲気は消え、ただただ僕の顔を見て驚いているようだった。
「うわっ参ったな。こんなところで翠さんと会えるなんて、翠さんは少しも変わっていなくて相変わらずすごい美人だ」
克哉くんとは…僕の中学からの親友、達哉の弟で、流の同級生だった子だ。
彼とは人に言いたくない思い出があるので、かなり気まずかった。
それにしても何年ぶりだろうか。
こうやって面と向かって話すのは……
達哉が『建海寺』の住職となり跡目を継いだので、確か克哉くんは、都内でサラリーマンをしているはずだ。もう縁も切ったはずなのに、何故こんなタイミングで逢ってしまったのか。最悪の事態だ。
「パパ、どうしたの?このお兄ちゃんとお友達?」
「あっ?ああ、こちらは達哉おじちゃんの同級生でパパの先輩だよ」
「えっ!お兄ちゃんがおじちゃんと同い年?」
「そうだよ。なぁお前はちょっとママのところで待っていてくれないか。翠さん、こんな所で再会できたのも何かの縁ですし、少しそこのラウンジでお茶でもしましょう」
とにかく洋くんは無関係だ。
関わってはいけない。巻き込んではいけない。
克哉くんは危険だ。
だから克哉くんとお茶を飲むことに、従うしかなかった。
「……そうだね。洋くん悪いけど…そうしてもいいか」
「あっはい。じゃあ僕がこの子を部屋に送ってあげます」
洋くんが答えるや否や、克哉くんが洋くんの肩を掴んだ。
「あんたさ、誰?まさか……」
「えっ……あ…あの?」
洋くんは状況が呑み込めず、戸惑っていた。
****
この達哉、克哉兄弟は『忍ぶれど…』という物語に登場しています。
今日から別途に連載スタートしますね。翠さんの過去はそちらでじっくり書いています。
「……綺麗だ」
ぼんやりと窓の景色を眺め、布団の中で身じろぎすると、上半身が裸なことに気が付いた。
「えっなんで」
慌てて下半身を確かめると、そちらはちゃんと着用していたのでほっとした。
海から戻り躰がべとついて気持ち悪かったので、風呂に行きたいと流に頼んだのは覚えているが、どうやら仕度を待つ間に眠ってしまったようだ。
裸で寝るような癖はないはずなのに……まさか寝惚けてシャツを脱いだのか。あ……でも上半身がさっぱりしているということは、流が脱がして拭いてくれたのかもしれない。
僕は夢を見ていた。
僕を必死に求めてくれる存在を感じ……それによって次第に甘く疼く感覚で満ちて。
あれは……とても人には言えない内容だった。
だが、その夢は妙に現実的で、躰が疼き熱くなるものだった。それ以上見てはいけない内容だったので、起きてすぐ脳内から消し去った。
そんな時突然、部屋に洋くんがやってきた。慌てて起き上がると、彼が僕の上半身を不審そうにじっと見つめているのに気が付いた。
何か不都合なことでも?そう思い、ぱっと自身の躰を確かめるが分からなかった。もしかして……僕の心臓の下にうっすら残る火傷の痕が気になったのだろうかと軽く考えた。
だがバスルームの鏡に僕の全身を映すと、ちょうど乳首の下辺りにうっすらと火傷のケロイドではなく、赤い鬱血があることに気が付いた。
「何?これ」
そっと指先で触れてみる。
うっすらとした赤い痕だ。
これは、まさか……
だが、さっき押し込んだ夢の記憶は、もう遥か彼方。
いつだって僕は煩悩を押し殺して生きて来た。だからこれでいい。
世の中には、知らない方がいいこともある。
寝ている間に何があったのか。あれは夢か現実か。
今、それを追求するのはやめておこう。
そう必死に思うようにした。何故なら丈と洋くんにとって大切な旅行中だから。
シャワーを浴び、流の用意してくれた薄鼠色の浴衣を着て身支度を整えた。
「はぁ……やはり和装は落ち着くな」
普段は一日中袈裟を着ている躰なので、これでやっといつもの調子を取り戻せそうだ。
「ふぅ、しっかりしろ翠。今日の僕は少しおかしいぞ」
そう自分を叱咤し、鏡に映る頬をペシっと軽く叩いた。
****
洋くんの顔は、休養を充分取ったお陰で血色も良く、それでいて昼間激しく丈に求められたせいか妖しいほど艶めいてみえた。
そんな匂い立つような色気を振りまく美貌に、ロビーに集まる人がどよめき出したので、僕は彼を誘ってテラスへ出た。
海風は優しく僕を包み、心を落ち着かせてくれた。
隣に立つ洋くんも気持ち良さそうに目を閉じていた。
心穏やかに、この先は過ごせそうだ。
そうほっとしたのもつかの間……もっと驚くことが起きるなんて!
迷子の少年の父親の顔を見て驚いた。
父親の方も、僕の顔を見て固まっている。
「すっ翠さんじゃないか!」
「まさか……君は……」
「そうです。克哉ですよ」
先ほどまでの息子に憤怒する雰囲気は消え、ただただ僕の顔を見て驚いているようだった。
「うわっ参ったな。こんなところで翠さんと会えるなんて、翠さんは少しも変わっていなくて相変わらずすごい美人だ」
克哉くんとは…僕の中学からの親友、達哉の弟で、流の同級生だった子だ。
彼とは人に言いたくない思い出があるので、かなり気まずかった。
それにしても何年ぶりだろうか。
こうやって面と向かって話すのは……
達哉が『建海寺』の住職となり跡目を継いだので、確か克哉くんは、都内でサラリーマンをしているはずだ。もう縁も切ったはずなのに、何故こんなタイミングで逢ってしまったのか。最悪の事態だ。
「パパ、どうしたの?このお兄ちゃんとお友達?」
「あっ?ああ、こちらは達哉おじちゃんの同級生でパパの先輩だよ」
「えっ!お兄ちゃんがおじちゃんと同い年?」
「そうだよ。なぁお前はちょっとママのところで待っていてくれないか。翠さん、こんな所で再会できたのも何かの縁ですし、少しそこのラウンジでお茶でもしましょう」
とにかく洋くんは無関係だ。
関わってはいけない。巻き込んではいけない。
克哉くんは危険だ。
だから克哉くんとお茶を飲むことに、従うしかなかった。
「……そうだね。洋くん悪いけど…そうしてもいいか」
「あっはい。じゃあ僕がこの子を部屋に送ってあげます」
洋くんが答えるや否や、克哉くんが洋くんの肩を掴んだ。
「あんたさ、誰?まさか……」
「えっ……あ…あの?」
洋くんは状況が呑み込めず、戸惑っていた。
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この達哉、克哉兄弟は『忍ぶれど…』という物語に登場しています。
今日から別途に連載スタートしますね。翠さんの過去はそちらでじっくり書いています。
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