重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『蜜月旅行 29』

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「流…いないのか…」

 そう夢の中で問うが、返事はなかった。

 やはり夢なのか……

 誰かが僕の肌に優しく触れたかと思うと……次の瞬間激しく扱われた。誰にも触れられたことのない場所を触れられて、驚いた。だがとても真剣に熱心に求められているような気がして、身を預けたくなった。

 とても温かいものだったから、怖くなかった。それよりも僕なんかを、そんなにも必死に求めてくれるのが嬉しくなった。

 次第に甘く疼く感覚が芽生え、刺激的な吸引が気持ちよく感じ出してしまった。

 冷静に考えれば、僕の躰のどこを吸われているのか分かったのに、どこか一枚薄いベールがかかったような、あやふやな世界だった。

 喉から……声を絞り出した。

「……んっ…流……なのか」

 僕に触れる人……それは、ただ一人の人しか思いつかなかった。

 だが返事はなく、やがて気配すらも消えた。

 やはり夢だったのか。いや……夢に決まっているとは思いながら、どこかで期待したいたのだろうか。

 もしかしたら……さっきの岩場での自慰が尾を引いて、僕はまたこんな欲望の塊のような夢を見たのだろうか。

 最悪だ。


****

 遠い昔、僕がまだ僕ではない時、とても近い人に恋をしていた。

 ある日、月光の降りた庭先で、切羽詰まった僕は、その人のことを抱きしめた。
 抱きしめてみると、それは実態のない光のようなものだった。

「いくなっ……僕を置いて…」

 竹林のざわめきが厳かに鳴り響く中、その人は強い風に躰を委ねながら……悲し気に微笑んだ。

「次の世で……もしも『重なる月』と出逢えた時には、成就させましょう。たとえ……またこのような境遇で出逢っても、今度こそ、あなたのものに、俺のものに」

 そんな言葉を残して、僕の前から消えてしまった。

 眠っているはずなのに、潰されるような胸の痛みを覚え、熱い涙が溢れた。

 こんな夢は見たことがない……はずだった。

 これは誰の夢だ?
 僕が僕でない時のもの。
 それは一体いつのことだ。

 再び闇が迫り、深い睡魔に襲われた。

 そうだ眠った方がいい。悲しすぎる夢を見るくらいなら……忘れた方がいい。

 だが一つだけ希望に満ちた言葉を夢は僕に託した。


『重なる月』


 この言葉だけは、しっかりと覚えておきたい。
 僕の未来を切り開き、変えていく言葉かもしれないから。





……

『夕凪の空 京の香り』第4章「残された日々」とリンクしています。

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