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完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『蜜月旅行 8』
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プライベートビーチはホテルの海側の出口を出てすぐの所にあった。
受付でルームキーを見せると、更衣室の鍵とスカイブルーとホワイトのストライプの洒落たパラソルと真っ白なタオルを貸してくれた。
ホテル以外では、ボートで海からしかアクセスできないという宿泊者限定のプライベートビーチだそうで、確かに丈の言った通り安心感はあった。
ここならのびのびと一目を気にせず泳げそうだな。
水着の件は別として……だな。
翠さんの機転のお陰で、あの変態チックな紐パンは履かないで済んだが、俺の水着を丈が家に置いて来てしまったので、丈のショートパンツタイプの黒い水着を奪い取ってやった。
でも実は、腰部分のサイズが合わなくて緩かった。脱げそうで本当に心もとないが、悔しいから絶対口には出さない。
同じ男なのに……なんで丈と俺は、こうも体格が違うのだろう。俺も鍛えたら丈みたいな筋肉質な躰になれるのか。あんな風に胸板も厚くなるだろうか。
いや……昔から運動しても筋肉が付きにくかったから無理か。体質や骨格自体が細いのは、どう頑張っても変えられないものな。
水着の紐をしっかり縛って、丈の紺地にアッシュグレイの刷毛で描いたような模様が入ったラッシュガードを着て更衣室から出ると、翠さんが壁にもたれて待っていた。
長めのライムグリーンのサーフパンツに白地のラッシュガードと完全防備していた。
袈裟や和装姿じゃない翠さんを見るのは初めてで、なんだか興奮してしまった。
すごくいい。とても爽やかだ。
翠さんは、どうしてこうも流さんと丈と系統が違うのか。本当に一人だけ楚々とした澄んだそよ風のような美しさを、醸し出している。
「洋くん、仕度早かったね」
「翠さんは、日焼け対策ばっちりですね」
「うん、僕は日焼けすると真っ赤になってしまうからね。それに泳ぎはあまり得意じゃないから」
少し恥ずかしそうに目を伏せる翠さん。長い睫毛が濃い影を作って、実際の歳からは想像できない程、可愛らしく見えてしまった。
翠さんは書物を読んだり書道をしている姿が落ち着いていて似合う。でも、こんな姿の翠さんも、なんだか不謹慎な言い方かもしれないが可愛らしかった。
「丈と流さん、本当にあの水着で出てくると思います?」
「あぁ流は必ずね。約束を守る男だから。きっと褌姿だろう」
「ええ?本気で」
「流は……いつも僕の望みを叶えてくれるからね」
「みたいですね。流さんも翠さんには敵わないみたいです」
「そうかな。そんな意地悪なつもりはないけど」
「充分、意地悪かと」
「ははっ」
二人で笑いながら、宮崎のどこまでもクリアに晴れ渡った青空を見上げた。
青空の下には入道雲、そして青い海には何層ものグラデーションが描かれ、その海面は太陽の光が沈んだ宝箱のようにキラキラと輝いている。本当に、これぞ夏といった絵に描いたような景色。
こんな風に平和に楽しく過ごしていることに、俺はまだ少しだけ夢見心地だ。
幸せだ。
そう素直に思えることの幸せさ。
本当にありがたい時間をもらっている。
****
「兄さん、やっぱり無理ですよ。こんな露出度の高い水着なんて」
「丈、照れんなよ。照れると恥ずかしさ倍増だぜ。それに自分で選んだんだろう?」
「いや、だからそれはっ」
この水着は腰回りが華奢な洋だから似合うと思って選んだはずなのに、なんだってこんなことになったのだ。更衣室で腰紐がちゃんとしっかり結ばれているか、何度も何度も確かめてしまった。
「全く翠兄さんには私達は敵いませんね」
暫く離れていたから忘れていたが、翠兄さんのここぞという権限を思い出していた。翠兄さんの一言は、まさに鶴の一声だ。柔和な顔で結構厳しいことを平気で言うんだった。
「昔からだろう。お前がいない間もこんな調子だったよ。のらりくらりと……頼りなくて危なっかしい癖に、質が悪い」
「はぁ」
「ほら、もう溜息つくな。お前の躰もかなり立派だぜ。くくくっ何も知らない女性陣がきっと虜になるだろう。それで洋くんに焼きもち妬いてもらえたら本望じゃないか」
「あぁそうですね!なるほど、それは悪くないかもしれませんね」
「だろう?俺もそのつもりだ」
「兄さんは誰に?まさか……翠兄さんにですか」
「あ……いや……」
「反応が楽しみですね」
「そっそうか」
翠兄さんがこの逞しい流兄さんの褌姿を見て、どんな反応をするのか見物だと思ってしまった。開放的な旅のお陰で、今までの兄弟のわだかまりが解けていくような気がする。
それって翠兄さんと洋というチームと、私と流兄さんという感じで、立場が分かれているからなのか。あ、いや待てよ。それは兄さん達に失礼か。二人は実の兄弟なのだから。
だが、実際はどうなのだろう。
この二人の仲の良さ……昔から不思議に感じることも多かった。
「さぁ行くぜ」
「ええ」
こうなったら確かに流兄さんの言う通り、恥ずかしがっている方が恥ずかしい。
肉体的には鍛えているから問題はないはずだ。
自分で選んだこの水着を存分に着こなしてやろう。
洋が焼きもちをやいて、心配になるほどにな。
覚悟を決めて、一気に更衣室から飛び出した。
受付でルームキーを見せると、更衣室の鍵とスカイブルーとホワイトのストライプの洒落たパラソルと真っ白なタオルを貸してくれた。
ホテル以外では、ボートで海からしかアクセスできないという宿泊者限定のプライベートビーチだそうで、確かに丈の言った通り安心感はあった。
ここならのびのびと一目を気にせず泳げそうだな。
水着の件は別として……だな。
翠さんの機転のお陰で、あの変態チックな紐パンは履かないで済んだが、俺の水着を丈が家に置いて来てしまったので、丈のショートパンツタイプの黒い水着を奪い取ってやった。
でも実は、腰部分のサイズが合わなくて緩かった。脱げそうで本当に心もとないが、悔しいから絶対口には出さない。
同じ男なのに……なんで丈と俺は、こうも体格が違うのだろう。俺も鍛えたら丈みたいな筋肉質な躰になれるのか。あんな風に胸板も厚くなるだろうか。
いや……昔から運動しても筋肉が付きにくかったから無理か。体質や骨格自体が細いのは、どう頑張っても変えられないものな。
水着の紐をしっかり縛って、丈の紺地にアッシュグレイの刷毛で描いたような模様が入ったラッシュガードを着て更衣室から出ると、翠さんが壁にもたれて待っていた。
長めのライムグリーンのサーフパンツに白地のラッシュガードと完全防備していた。
袈裟や和装姿じゃない翠さんを見るのは初めてで、なんだか興奮してしまった。
すごくいい。とても爽やかだ。
翠さんは、どうしてこうも流さんと丈と系統が違うのか。本当に一人だけ楚々とした澄んだそよ風のような美しさを、醸し出している。
「洋くん、仕度早かったね」
「翠さんは、日焼け対策ばっちりですね」
「うん、僕は日焼けすると真っ赤になってしまうからね。それに泳ぎはあまり得意じゃないから」
少し恥ずかしそうに目を伏せる翠さん。長い睫毛が濃い影を作って、実際の歳からは想像できない程、可愛らしく見えてしまった。
翠さんは書物を読んだり書道をしている姿が落ち着いていて似合う。でも、こんな姿の翠さんも、なんだか不謹慎な言い方かもしれないが可愛らしかった。
「丈と流さん、本当にあの水着で出てくると思います?」
「あぁ流は必ずね。約束を守る男だから。きっと褌姿だろう」
「ええ?本気で」
「流は……いつも僕の望みを叶えてくれるからね」
「みたいですね。流さんも翠さんには敵わないみたいです」
「そうかな。そんな意地悪なつもりはないけど」
「充分、意地悪かと」
「ははっ」
二人で笑いながら、宮崎のどこまでもクリアに晴れ渡った青空を見上げた。
青空の下には入道雲、そして青い海には何層ものグラデーションが描かれ、その海面は太陽の光が沈んだ宝箱のようにキラキラと輝いている。本当に、これぞ夏といった絵に描いたような景色。
こんな風に平和に楽しく過ごしていることに、俺はまだ少しだけ夢見心地だ。
幸せだ。
そう素直に思えることの幸せさ。
本当にありがたい時間をもらっている。
****
「兄さん、やっぱり無理ですよ。こんな露出度の高い水着なんて」
「丈、照れんなよ。照れると恥ずかしさ倍増だぜ。それに自分で選んだんだろう?」
「いや、だからそれはっ」
この水着は腰回りが華奢な洋だから似合うと思って選んだはずなのに、なんだってこんなことになったのだ。更衣室で腰紐がちゃんとしっかり結ばれているか、何度も何度も確かめてしまった。
「全く翠兄さんには私達は敵いませんね」
暫く離れていたから忘れていたが、翠兄さんのここぞという権限を思い出していた。翠兄さんの一言は、まさに鶴の一声だ。柔和な顔で結構厳しいことを平気で言うんだった。
「昔からだろう。お前がいない間もこんな調子だったよ。のらりくらりと……頼りなくて危なっかしい癖に、質が悪い」
「はぁ」
「ほら、もう溜息つくな。お前の躰もかなり立派だぜ。くくくっ何も知らない女性陣がきっと虜になるだろう。それで洋くんに焼きもち妬いてもらえたら本望じゃないか」
「あぁそうですね!なるほど、それは悪くないかもしれませんね」
「だろう?俺もそのつもりだ」
「兄さんは誰に?まさか……翠兄さんにですか」
「あ……いや……」
「反応が楽しみですね」
「そっそうか」
翠兄さんがこの逞しい流兄さんの褌姿を見て、どんな反応をするのか見物だと思ってしまった。開放的な旅のお陰で、今までの兄弟のわだかまりが解けていくような気がする。
それって翠兄さんと洋というチームと、私と流兄さんという感じで、立場が分かれているからなのか。あ、いや待てよ。それは兄さん達に失礼か。二人は実の兄弟なのだから。
だが、実際はどうなのだろう。
この二人の仲の良さ……昔から不思議に感じることも多かった。
「さぁ行くぜ」
「ええ」
こうなったら確かに流兄さんの言う通り、恥ずかしがっている方が恥ずかしい。
肉体的には鍛えているから問題はないはずだ。
自分で選んだこの水着を存分に着こなしてやろう。
洋が焼きもちをやいて、心配になるほどにな。
覚悟を決めて、一気に更衣室から飛び出した。
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