重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『蜜月旅行 3』

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 『張矢様御一行』

 そんなプラカードを持った中年の運転手が、空港の到着ロビーで待っていた。

「お!来てるな、荷物多いしワゴンタクシーを手配しておいたんだ、行くぞ」

 流兄さんの掛け声で、ぞろぞろと移動する。まったくいつの間にか流兄さんが添乗員のような勢いだ。

「いやーお客様、いい時期にお越しですね。今年は台風もなくベストシーズンですよ」

「そうか良かったよ。じゃあホテルに直行してもらえるかな」

「ええ、もちろんです」

 宿泊先は、空港からタクシーで三十分弱の所にある、日南海岸にそびえ立つリゾートホテルだ。ここは以前学会で利用したことがあるのだが、景色も雰囲気も良かったので、いつか洋を連れて来てやりたいと思っていた。

 空港からずっと広がる青い空。白い雲。南国らしいパームツリーが風に揺れていて、一気に開放的な気分になってくる。

「丈、すごく綺麗な所だね」

 洋が車の窓を少し開けて、風を入れてくれた。
 すると自由で自然な風に、車内が包まれていく。

 洋の髪の毛が光に透けて、キラキラして見えた。
 淡い菫色のリネンのシャツが風を招き入れて、まるで羽のようにはためいている。

 綺麗すぎて何処かに飛んで行ってしまいそうで、思わずその肩を抱いた。

「洋、楽しみか」

「あぁもちろんだ!」

 いつも禁欲的な生活を送っている翠兄さんも、寺の雑務に追われている流兄さんも……
医師として多忙な生活の私自身も……そして仕事熱心な洋も、ここでは何もかも忘れて楽しめたらいい。

「いらっしゃいませ、ようこそムーンライト・グランドリゾートホテルへ」

 ホテルの2階がチェックインカウンターだ。

 エネルギッシュに降り注ぐ宮崎の太陽をイメージしたマンゴーイエローをキーカラーに、赤いソファが配置されていて、とてもモダンな空間だった。やさしい光を放つセプションカウンターや、睡蓮をモチーフにしたラグなどエレガントで明るい空間は、これから始まるリゾートライフへの期待を高めてくれるのに十分だった。

「さぁ着いたぞ。お前達はここで荷物番をしていてくれ」

「あっ流兄さん、ちょっと待って下さいよ」

「なんだ?」

「部屋割りの件は大丈夫でしょうね?兄さんたちと同室なんて困りますから」

「同室?」

「その……ほら、4人部屋とかあるみたいだったので」

「まさか!そんな野暮なことするかよ。さぁ翠兄さん行きましょう」

「ははっ丈、そんな心配しなくても大丈夫だよ。君たちの邪魔はしない。これでも君たちが新婚旅行で来ていること位、ちゃんとわきまえているよ」

 翠兄さんも優しく微笑んでくれたが……そうは言っても一抹の不安が過るのは何故だ。

****

「失礼ですが……お客様は4名様で1グループでいらっしゃいますか」

「そうだけど?それが何か」

「実は本日から3泊ちょうど35階の高層階、ホテルの三角柱フォルムの頂点に位置する、広々とした170㎡のスイートルームが空いております。少しの追加料金でそちらにグレードアップすることも出来ますが、いかがでしょうか。こちらでしたら1室にグループの皆さまが全員ご滞在していただけますが」

「へぇそれはすごいな、流どう思う?」

「いいんじゃないですか、翠兄さんのお好きなように」

「うん」

 翠兄さんが興味を持ったようだ。こういう時俺は、長男である翠兄さんの判断に任せるようにしている。

「その部屋にはベッドルームはいくつある?」

「はい、2つございます」

「ふぅん、扉はある?」

「?…ええ、ございますが」

「なら、そこにしよう」

 やっぱり翠兄さんは、そう言うと思った。

 どうやら真ん中に大きなリビングがあって、その両端にツインルームがあるらしい。トイレは二ヵ所。ミニキッチンもありなかなかの設備だ。バスルームが一つというのが気になるが、それは丈達に譲ればいいだろう。

 丈の不服そうな顔が目に浮かぶが、致し方ない。
 俺は翠兄さんの判断に従うまでさ。

 それに丈と洋くんの新婚の夜にも、少し興味があったりして。
 俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
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