621 / 1,657
完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『蜜月旅行 3』
しおりを挟む
『張矢様御一行』
そんなプラカードを持った中年の運転手が、空港の到着ロビーで待っていた。
「お!来てるな、荷物多いしワゴンタクシーを手配しておいたんだ、行くぞ」
流兄さんの掛け声で、ぞろぞろと移動する。まったくいつの間にか流兄さんが添乗員のような勢いだ。
「いやーお客様、いい時期にお越しですね。今年は台風もなくベストシーズンですよ」
「そうか良かったよ。じゃあホテルに直行してもらえるかな」
「ええ、もちろんです」
宿泊先は、空港からタクシーで三十分弱の所にある、日南海岸にそびえ立つリゾートホテルだ。ここは以前学会で利用したことがあるのだが、景色も雰囲気も良かったので、いつか洋を連れて来てやりたいと思っていた。
空港からずっと広がる青い空。白い雲。南国らしいパームツリーが風に揺れていて、一気に開放的な気分になってくる。
「丈、すごく綺麗な所だね」
洋が車の窓を少し開けて、風を入れてくれた。
すると自由で自然な風に、車内が包まれていく。
洋の髪の毛が光に透けて、キラキラして見えた。
淡い菫色のリネンのシャツが風を招き入れて、まるで羽のようにはためいている。
綺麗すぎて何処かに飛んで行ってしまいそうで、思わずその肩を抱いた。
「洋、楽しみか」
「あぁもちろんだ!」
いつも禁欲的な生活を送っている翠兄さんも、寺の雑務に追われている流兄さんも……
医師として多忙な生活の私自身も……そして仕事熱心な洋も、ここでは何もかも忘れて楽しめたらいい。
「いらっしゃいませ、ようこそムーンライト・グランドリゾートホテルへ」
ホテルの2階がチェックインカウンターだ。
エネルギッシュに降り注ぐ宮崎の太陽をイメージしたマンゴーイエローをキーカラーに、赤いソファが配置されていて、とてもモダンな空間だった。やさしい光を放つセプションカウンターや、睡蓮をモチーフにしたラグなどエレガントで明るい空間は、これから始まるリゾートライフへの期待を高めてくれるのに十分だった。
「さぁ着いたぞ。お前達はここで荷物番をしていてくれ」
「あっ流兄さん、ちょっと待って下さいよ」
「なんだ?」
「部屋割りの件は大丈夫でしょうね?兄さんたちと同室なんて困りますから」
「同室?」
「その……ほら、4人部屋とかあるみたいだったので」
「まさか!そんな野暮なことするかよ。さぁ翠兄さん行きましょう」
「ははっ丈、そんな心配しなくても大丈夫だよ。君たちの邪魔はしない。これでも君たちが新婚旅行で来ていること位、ちゃんとわきまえているよ」
翠兄さんも優しく微笑んでくれたが……そうは言っても一抹の不安が過るのは何故だ。
****
「失礼ですが……お客様は4名様で1グループでいらっしゃいますか」
「そうだけど?それが何か」
「実は本日から3泊ちょうど35階の高層階、ホテルの三角柱フォルムの頂点に位置する、広々とした170㎡のスイートルームが空いております。少しの追加料金でそちらにグレードアップすることも出来ますが、いかがでしょうか。こちらでしたら1室にグループの皆さまが全員ご滞在していただけますが」
「へぇそれはすごいな、流どう思う?」
「いいんじゃないですか、翠兄さんのお好きなように」
「うん」
翠兄さんが興味を持ったようだ。こういう時俺は、長男である翠兄さんの判断に任せるようにしている。
「その部屋にはベッドルームはいくつある?」
「はい、2つございます」
「ふぅん、扉はある?」
「?…ええ、ございますが」
「なら、そこにしよう」
やっぱり翠兄さんは、そう言うと思った。
どうやら真ん中に大きなリビングがあって、その両端にツインルームがあるらしい。トイレは二ヵ所。ミニキッチンもありなかなかの設備だ。バスルームが一つというのが気になるが、それは丈達に譲ればいいだろう。
丈の不服そうな顔が目に浮かぶが、致し方ない。
俺は翠兄さんの判断に従うまでさ。
それに丈と洋くんの新婚の夜にも、少し興味があったりして。
俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
そんなプラカードを持った中年の運転手が、空港の到着ロビーで待っていた。
「お!来てるな、荷物多いしワゴンタクシーを手配しておいたんだ、行くぞ」
流兄さんの掛け声で、ぞろぞろと移動する。まったくいつの間にか流兄さんが添乗員のような勢いだ。
「いやーお客様、いい時期にお越しですね。今年は台風もなくベストシーズンですよ」
「そうか良かったよ。じゃあホテルに直行してもらえるかな」
「ええ、もちろんです」
宿泊先は、空港からタクシーで三十分弱の所にある、日南海岸にそびえ立つリゾートホテルだ。ここは以前学会で利用したことがあるのだが、景色も雰囲気も良かったので、いつか洋を連れて来てやりたいと思っていた。
空港からずっと広がる青い空。白い雲。南国らしいパームツリーが風に揺れていて、一気に開放的な気分になってくる。
「丈、すごく綺麗な所だね」
洋が車の窓を少し開けて、風を入れてくれた。
すると自由で自然な風に、車内が包まれていく。
洋の髪の毛が光に透けて、キラキラして見えた。
淡い菫色のリネンのシャツが風を招き入れて、まるで羽のようにはためいている。
綺麗すぎて何処かに飛んで行ってしまいそうで、思わずその肩を抱いた。
「洋、楽しみか」
「あぁもちろんだ!」
いつも禁欲的な生活を送っている翠兄さんも、寺の雑務に追われている流兄さんも……
医師として多忙な生活の私自身も……そして仕事熱心な洋も、ここでは何もかも忘れて楽しめたらいい。
「いらっしゃいませ、ようこそムーンライト・グランドリゾートホテルへ」
ホテルの2階がチェックインカウンターだ。
エネルギッシュに降り注ぐ宮崎の太陽をイメージしたマンゴーイエローをキーカラーに、赤いソファが配置されていて、とてもモダンな空間だった。やさしい光を放つセプションカウンターや、睡蓮をモチーフにしたラグなどエレガントで明るい空間は、これから始まるリゾートライフへの期待を高めてくれるのに十分だった。
「さぁ着いたぞ。お前達はここで荷物番をしていてくれ」
「あっ流兄さん、ちょっと待って下さいよ」
「なんだ?」
「部屋割りの件は大丈夫でしょうね?兄さんたちと同室なんて困りますから」
「同室?」
「その……ほら、4人部屋とかあるみたいだったので」
「まさか!そんな野暮なことするかよ。さぁ翠兄さん行きましょう」
「ははっ丈、そんな心配しなくても大丈夫だよ。君たちの邪魔はしない。これでも君たちが新婚旅行で来ていること位、ちゃんとわきまえているよ」
翠兄さんも優しく微笑んでくれたが……そうは言っても一抹の不安が過るのは何故だ。
****
「失礼ですが……お客様は4名様で1グループでいらっしゃいますか」
「そうだけど?それが何か」
「実は本日から3泊ちょうど35階の高層階、ホテルの三角柱フォルムの頂点に位置する、広々とした170㎡のスイートルームが空いております。少しの追加料金でそちらにグレードアップすることも出来ますが、いかがでしょうか。こちらでしたら1室にグループの皆さまが全員ご滞在していただけますが」
「へぇそれはすごいな、流どう思う?」
「いいんじゃないですか、翠兄さんのお好きなように」
「うん」
翠兄さんが興味を持ったようだ。こういう時俺は、長男である翠兄さんの判断に任せるようにしている。
「その部屋にはベッドルームはいくつある?」
「はい、2つございます」
「ふぅん、扉はある?」
「?…ええ、ございますが」
「なら、そこにしよう」
やっぱり翠兄さんは、そう言うと思った。
どうやら真ん中に大きなリビングがあって、その両端にツインルームがあるらしい。トイレは二ヵ所。ミニキッチンもありなかなかの設備だ。バスルームが一つというのが気になるが、それは丈達に譲ればいいだろう。
丈の不服そうな顔が目に浮かぶが、致し方ない。
俺は翠兄さんの判断に従うまでさ。
それに丈と洋くんの新婚の夜にも、少し興味があったりして。
俺は思わずニヤリと笑ってしまった。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる