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完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『雨の悪戯 9』
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浴室のドアの開く音と共に、そこに現れたのは……
「すっ翠さんっ!」
白地に紺色の模様の入った浴衣姿の翠さんだった。見れば翠さんも頭から足先までびっしょり濡れていた。なんというか……流さんよりも一回りも小さな華奢な躰が、雨に濡れて痛々しくも見えてしまった。浴衣が貼り付いて、その細い躰の線が浮き立つように見えてしまう。
「良かった。皆ここにいたのか、探したよ」
何故か翠さんは驚くよりも、安堵した表情を浮かべていた。
俺達は裸で浴槽で抱き合うという異常光景なのに……これでいいのか。慌てて俺はスクラムから外れて湯船に潜りこんだ。
いや……俺がそうするよりも先に、流さんがスクラムから離れ腰にさっとタオルを巻いて、翠さんの元へ駆け寄ったのだ。
「兄さんっどうしてこんなに濡れて!俺が見回りはするから寝ていて下さいって言ったじゃないですか」
「流……でもお前がなかなか帰って来ないから心配になって……丈たちのいる離れに行ったら、酷い雨漏りでこの様だよ」
「あぁそれでですか。全くびしょ濡れじゃないか。風邪ひいたらどうするんですか。はぁ……全く……」
流さんは心配そうに、翠さんの頭にすっぽりと壁に掛けてあったバスタオルを被せて、ゴシゴシ拭いてあげようとした。
「流……いいよ。自分で拭ける」
翠さんの細い手が、逞しい流さんの腕を掴んで動きを制した。
呆気にとられて俺と丈はその様子を固唾を飲んで見つめてしまった。
それに不謹慎かもしれないが、ふわふわの白いバスタオルに包まれた翠さんは、なんだか羽衣を纏った天女のように美しいと思ってしまった。
丈のお兄さんだし、この寺の住職という立派な職についている人なのに……
俺がこんなこと思うの大変失礼だと分かっているけど、この想像は止められない。
「流、それより僕も風呂に入ろうかな。その……なんだか皆で入っていて楽しそうだし」
ちらっと翠さんと目が合ったので、無言でコクコクと頷いてしまった。
「ふっ……洋くんまで。すっかり流のペースに巻き込まれたようだね。なぁ流、僕も入っていいかい?」
「えっ」
明らかに動揺した声をあげたのは流さんだった。
今度は流さんの頬が瞬時に赤く染まった。見れば耳たぶまで真っ赤じゃないか。
もしかしてあんなに豪快な流さんの唯一の弱みなのか。
「流……聞いている?はぁ……流はすぐ無口になってしまうな」
溜息交じりに翠さんがそう呟いた後、脇前で結ぶ腰紐に手をやり、それが浴室の床に滑り落ちていった。
その瞬間、流さんがぱっと目を反らし、困惑した表情でぐっと何かを堪えたように見えた。
そしてそのまま一気に風呂場から飛び出ていってしまった。
まるで捨て台詞のような言葉を残して。
「おっ俺はもうあがる!!!」
「すっ翠さんっ!」
白地に紺色の模様の入った浴衣姿の翠さんだった。見れば翠さんも頭から足先までびっしょり濡れていた。なんというか……流さんよりも一回りも小さな華奢な躰が、雨に濡れて痛々しくも見えてしまった。浴衣が貼り付いて、その細い躰の線が浮き立つように見えてしまう。
「良かった。皆ここにいたのか、探したよ」
何故か翠さんは驚くよりも、安堵した表情を浮かべていた。
俺達は裸で浴槽で抱き合うという異常光景なのに……これでいいのか。慌てて俺はスクラムから外れて湯船に潜りこんだ。
いや……俺がそうするよりも先に、流さんがスクラムから離れ腰にさっとタオルを巻いて、翠さんの元へ駆け寄ったのだ。
「兄さんっどうしてこんなに濡れて!俺が見回りはするから寝ていて下さいって言ったじゃないですか」
「流……でもお前がなかなか帰って来ないから心配になって……丈たちのいる離れに行ったら、酷い雨漏りでこの様だよ」
「あぁそれでですか。全くびしょ濡れじゃないか。風邪ひいたらどうするんですか。はぁ……全く……」
流さんは心配そうに、翠さんの頭にすっぽりと壁に掛けてあったバスタオルを被せて、ゴシゴシ拭いてあげようとした。
「流……いいよ。自分で拭ける」
翠さんの細い手が、逞しい流さんの腕を掴んで動きを制した。
呆気にとられて俺と丈はその様子を固唾を飲んで見つめてしまった。
それに不謹慎かもしれないが、ふわふわの白いバスタオルに包まれた翠さんは、なんだか羽衣を纏った天女のように美しいと思ってしまった。
丈のお兄さんだし、この寺の住職という立派な職についている人なのに……
俺がこんなこと思うの大変失礼だと分かっているけど、この想像は止められない。
「流、それより僕も風呂に入ろうかな。その……なんだか皆で入っていて楽しそうだし」
ちらっと翠さんと目が合ったので、無言でコクコクと頷いてしまった。
「ふっ……洋くんまで。すっかり流のペースに巻き込まれたようだね。なぁ流、僕も入っていいかい?」
「えっ」
明らかに動揺した声をあげたのは流さんだった。
今度は流さんの頬が瞬時に赤く染まった。見れば耳たぶまで真っ赤じゃないか。
もしかしてあんなに豪快な流さんの唯一の弱みなのか。
「流……聞いている?はぁ……流はすぐ無口になってしまうな」
溜息交じりに翠さんがそう呟いた後、脇前で結ぶ腰紐に手をやり、それが浴室の床に滑り落ちていった。
その瞬間、流さんがぱっと目を反らし、困惑した表情でぐっと何かを堪えたように見えた。
そしてそのまま一気に風呂場から飛び出ていってしまった。
まるで捨て台詞のような言葉を残して。
「おっ俺はもうあがる!!!」
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