重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
603 / 1,657
完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『流れる星 5』

しおりを挟む
 安志さんを通して、Kaiさんと松本さんを紹介された。

 二人は恋人同士とのことで、隠しもせずに手を握り合っていた。といっても松本さんの方は、恥ずかしそうに始終俯いていたけど。

 このKaiさんという人のことは、洋兄さんから何度か聞いていた。アメリカにも同行してもらい、ソウルでは洋兄さんを守り支えてくれた人とのことで、想像通り背がとても高く凛々しかった。そして笑うと人懐っこく隠し事が出来ないタイプなのか、僕の顔を見ると、あからさまに驚いていた。

「うわっ!驚いたな。近くで見たら本当に似てるな!へぇ~お母さん同士が双子か。なるほど!で、安志がさっき話してたのは、この子だな」

「まぁな」

 安志さんは僕のことを、どんな風に紹介してくれたのだろうか。
 僕はちゃんと安志さんの横にいる?
 
 暫くKaiさんたちと歓談していると、再び丈さんと安志さんが庭に現れた。

 今度は丈さんは、グレーのビシッとしたスーツ。洋兄さんは淡いピンクにグレーの縦縞が入った柔らかい印象のスーツ姿だった。

「あ……これって、もしかしてお色直しっていうのかな」

「あぁ、そうみたいだな。母さんもたまには役に立つな」

「洋兄さんの和装もいいけど、こっちもいいね」

「あぁ本当にそうだな。でもああいう淡い色は、涼にも似合いそうだなぁ」

隣の安志さんも、目を細めて嬉しそうにしていた。

「洋くん、似合うよ」

「丈もなかなかいいぞ」

「洋装もいいな」

「そうかな。ありがとう」

 洋兄さんが陽だまりの真ん中に立っていることが、僕も嬉しかった。
 輪の中に、ひときわ艶やかに咲く美しい人だ。

 洋兄さんのためにこんなにも多くの人が集まって、和やかに過ごせるなんて、僕にとっても信じられない程嬉しいものだと、ひしひしと感じていた。

 実はさっきから僕は洋兄さんと最初に出逢った船上のことを何度も思い出していた。人目を避けるように、その美しい顔を目深に被った帽子で隠し、日陰で縮こまっていた洋兄さんの寂しげな姿。

 僕は今ちょうどあの時の洋兄さんと近い年になっていた。

 あの頃はまだ子供で深く理解できなかったけれども、人生の中で特に若く華やいだ時期に、あんな風に生きなくてはいけなかった苦労は、相当なものだったろう。あれから本当にいろいろなことが、僕たちの間にもあったね。

 僕は安志さんと運命的にアメリカで出会い、それからアメリカのキャンプ場では丈さんに助けられ、そして洋兄さんにも日本で再会出来た。

 不思議な巡り合わせが重なり、本当にここまで順調にやってきた。洋兄さんが背負ってきたものに比べたら、僕は本当に甘いだろう。

「涼、何を考えこんでいる?」

「ねぇ安志さん、僕はまだ十代だ。きっとこの先いろいろなことが起こると思う。でも安志さんとのことは、生半可なうわついた気持ちじゃないんだ。それだけは知っておいて欲しい」

「涼、どうした?うん……ちゃんと分かっているよ。俺の方こそ、今日はまだきちんと母に紹介出来なくて、悪いな」

「大丈夫。今はまだその時じゃないこと理解しているんだ。でも絶対に辿り着きたい場所があるよ」

「それはもしかして……ここか」

「うん、今日丈さんと洋兄さんの辿り着いた場所。僕もそこへ行けるように、モデルの仕事も、学生としての本分も、ちゃんと両立して頑張っていきたい。安志さんと並んでも恥ずかしくないように…頑張りたい」

「あぁ、涼ならきっと出来るさ」

「安志さん、それまで待っていてくれる?」

「当たり前じゃないか。俺はもう涼以外は考えられないよ」

 じんとした。
 その言葉を信じられる。
 安志さんは、この寺の竹林のように真っすぐで大らかな心を持った人。

「本当に待っていて。僕はまだ親がかりの子供だけど、絶対にそこに行くから」

「待ってるよ……涼。俺の方も頑張るから」

 そんな話をしていると、洋兄さんの声と共に頭上から突然、花束が降って来た。

「涼、受け取って!」

 それは僕が今朝、崖の上から取って来たオーニソガラムの花束だった。白く光る星のような花が、まるで流れ星のように、僕と安志さんのもとに飛び込んで来た。


 スターオブベツレヘム。

 それは……僕たちの希望の星となるだろう。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...