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完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『流れる星 4』
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「涼、どうした?」
キョロキョロと辺りを見回している涼のことが気になったので、声をかけた。
「あっ安志さん。さっきから洋兄さんの姿が見えなくて」
「あぁそういえば、さっき母さんに何処かへ連れて行かれていたな」
「え!大丈夫かな」
「あ?あぁ着替えさせられているかもな。さっき大荷物だったからな」
「着替えって?」
「うちの母さんさ、女のくせにメンズ雑誌とか買って、昔からお洒落な男物の服に興味津々でさ、よく俺には到底似合わないもの買ってくんだよ」
「そうなんだ。じゃあさっきの大荷物はもしかして」
「たぶん洋のために、いろいろ買い込んで来たんだろうば」
「わぁそっか!洋兄さんにか。それは喜んだだろうな」
「まぁな。そういえば昔……俺が着ない服をよく洋に押し付けていたな。あいつブカブカだったのに、悪かったな」
****
高校1年生だった俺と洋。
「洋、あのさ、今日家に寄らないか」
「なんで?」
「服がさ、またいっぱい溜まって来てさ」
「あぁ、おばさんがまた」
「そういうこと」
ブレザーの学生服を着た洋が、隣で屈託なく笑っていた。
最近は俺が同行するようになって電車での痴漢騒動もなくなり、学校の行き帰りも平和になった。俺達はたわいもないテレビの話や本の話、部活動の話など学生らしい会話をしながら、登下校を共にしていた。
こんな平和な日がずっと続けばいいのに……そう願っていた。
「俺なんかより洋の方が似合いそうなものばかりなんだよ」
「そうかな?じゃあせっかくだから安志がもう着ないのがあったら、もらおうかな」
「おお!いっぱいあるぞ」
「贅沢だな、安志は」
「いや、俺はほんとTシャツとGパンがあれば生きていける」
「そういうものか」
俺の部屋に洋を通すのは、いつの頃からか少しドキドキするようになった。この気持ちって一体なんだろう。ずっとモヤモヤとしたものを抱いている。
「入れよ」
「くくっ」
「なんだよ?」
「相変わらずだな、安志の部屋、野球のものばかりだ」
「ははっ変わってないだろ」
確かに見まわすと壁にはポスター、ユニフォーム。棚には小学校の時にチームの優勝トロフィーを飾ったり、野球のボールやバッドなど詰め込んであって、鬱蒼としていて男臭いもんだ。天井にも俺の年頃なら水着アイドルのポスターでも貼るところなのに、プロ野球選手のポスターだ…
っとその時、棚の上に無造作に乗せた野球ゲーム盤を見つけた。あれは、よく洋が家に着た時一緒に遊んだなと、懐かしく見つめた。
「見事なまでに…野球一色」
「なんだよ、色気ないっていいたいのか」
「え?あはは、違うよ。なんかほっとするな」
「洋こそ、モテモテなのに振りまくって…」
「え?」
窓から射し込む夕日を受けながら、こっちを見つめる表情にドキッとする。そうだ。王子様みたいな顔の洋は、中学の時には女子にもよくモテていた。でも洋はそういうのに関心がないようだったし近寄りがたい雰囲気もあって、直接アタックしてくるような女の子はいなかった。その代りバレンタインには、みんな普段の我慢が弾けるのか、もらう量が半端なかったのを思い出す。
「そんなことないよ……俺はまだそういうことにあまり興味持てないし」
その一言に、ほっとする。いつまでもこうやって洋と幼馴染としてつるんでいたいから、洋が女の子と付き合ったりしたら、寂しいもんな。
「安志こそ、野球部のエースで、随分女子から騒がれていたよな」
「ははっ、そんなことする時間も興味もないよ」
「なぁ久しぶりにゲームしないか。あれ」
洋が珍しく自分から、野球のゲーム盤を指さした。
「いいよ」
「じゃあ、制服これに着替えて寛げよ」
「ん……そうしようか」
母さんが買ってきた中で、一番俺に似合わないと思った、淡い水色のシャツを手渡した。
「なぁ着てみろよ、洋には少し大きいかも」
「うん」
素直に返事をした洋が立ちあがり、制服のブレザーを脱いで、シャツのボタンに手をかけようとするので、何故か胸の奥からドキドキしてしまった。
「おっおいっ!待て!ぬっ脱ぐな!」
慌てて阻止してしまった
「え?だって今着替えろって」
「だから、上から羽織ればいいだろ」
「あっそっか」
不思議そうな表情を浮かべた洋が、そのまま制服のシャツの上に着た。少し袖が長いようで、手が隠れるのに、何故かまた胸がドキッとした。
「いい色だね。どうかな?」
いつも制服か目立たない色の私服しか着ない洋が、明るい色合いの服を着ているのが眩しかった。品の良さか滲み出るようでとても綺麗だと思った。
「ああ……」
俺は、照れくさくて明後日の方向を向いた。
その後のゲームは、上の空で、洋に惨敗した。
****
なんて昔のたわいもない、それでいてどこか甘酸っぱい日常を思い出していると、涼の声が耳に届いた。
「いいな」
「え?」
「今度僕にも安志さんの服をくれない?」
「おっおう?でも俺の私服ってイマイチじゃん?」
「そんなことない!それに洋兄さんが着たのなら、僕だって…」
涼は俺のこと色眼鏡で見てる気がする。自分でも洒落っ気が無いと思うし、普通のジーンズやTシャツが好きだから、ほんと垢ぬけない。なのにこんな俺のこと、涼がこんなにも好きでいてくれるなんて、未だに信じられない時がある。
そして同時にまた俺は洋との昔のことを思い出していて、涼に心配をかけてしまったと悟った。
「涼、心配すんなよ。思い出は思い出でしかないよ。今の俺には涼しかいない。涼が着てくれるなんて嬉しいよ」
「安志さん」
ほっとしたような涼の表情。
あぁ涼を今すぐここで抱きしめたい。だが今はその気持ちはぐっと抑え込んで、押し隠すようにわざとふざけてみた。
「あっそっか、もしかして涼…」
「なっなに?」
「あのあれか。もしかして彼シャツって奴をしてみたいんだな」
「わぁ言わないでよ。安志さん!!!」
図星なのか、耳まで赤くなっている様子が可愛い。
「可愛いなぁ涼は、いつもいろんなことに興味持ってくれて嬉しいよ」
「ちっ違うってば!」
涼が顔を赤く染めてジタバタした。本当に可愛い涼。俺の白いシャツを裸で羽織った映像を、頭の中で想像して盛大ににやけてしまった。
とその時、後ろから大きな影が近づいて来た。
「おい久しぶりだな。ひもじい奴よ。で、その彼シャツってなんの話だ?」
振り向けば、Kaiが明るく笑って立っていた。そして隣には松本さんが。
「わ!Kaiっ聴いてたのか。今の話っ!」
「あぁばっちりな。それよりその子を早く紹介してくれないか」
キョロキョロと辺りを見回している涼のことが気になったので、声をかけた。
「あっ安志さん。さっきから洋兄さんの姿が見えなくて」
「あぁそういえば、さっき母さんに何処かへ連れて行かれていたな」
「え!大丈夫かな」
「あ?あぁ着替えさせられているかもな。さっき大荷物だったからな」
「着替えって?」
「うちの母さんさ、女のくせにメンズ雑誌とか買って、昔からお洒落な男物の服に興味津々でさ、よく俺には到底似合わないもの買ってくんだよ」
「そうなんだ。じゃあさっきの大荷物はもしかして」
「たぶん洋のために、いろいろ買い込んで来たんだろうば」
「わぁそっか!洋兄さんにか。それは喜んだだろうな」
「まぁな。そういえば昔……俺が着ない服をよく洋に押し付けていたな。あいつブカブカだったのに、悪かったな」
****
高校1年生だった俺と洋。
「洋、あのさ、今日家に寄らないか」
「なんで?」
「服がさ、またいっぱい溜まって来てさ」
「あぁ、おばさんがまた」
「そういうこと」
ブレザーの学生服を着た洋が、隣で屈託なく笑っていた。
最近は俺が同行するようになって電車での痴漢騒動もなくなり、学校の行き帰りも平和になった。俺達はたわいもないテレビの話や本の話、部活動の話など学生らしい会話をしながら、登下校を共にしていた。
こんな平和な日がずっと続けばいいのに……そう願っていた。
「俺なんかより洋の方が似合いそうなものばかりなんだよ」
「そうかな?じゃあせっかくだから安志がもう着ないのがあったら、もらおうかな」
「おお!いっぱいあるぞ」
「贅沢だな、安志は」
「いや、俺はほんとTシャツとGパンがあれば生きていける」
「そういうものか」
俺の部屋に洋を通すのは、いつの頃からか少しドキドキするようになった。この気持ちって一体なんだろう。ずっとモヤモヤとしたものを抱いている。
「入れよ」
「くくっ」
「なんだよ?」
「相変わらずだな、安志の部屋、野球のものばかりだ」
「ははっ変わってないだろ」
確かに見まわすと壁にはポスター、ユニフォーム。棚には小学校の時にチームの優勝トロフィーを飾ったり、野球のボールやバッドなど詰め込んであって、鬱蒼としていて男臭いもんだ。天井にも俺の年頃なら水着アイドルのポスターでも貼るところなのに、プロ野球選手のポスターだ…
っとその時、棚の上に無造作に乗せた野球ゲーム盤を見つけた。あれは、よく洋が家に着た時一緒に遊んだなと、懐かしく見つめた。
「見事なまでに…野球一色」
「なんだよ、色気ないっていいたいのか」
「え?あはは、違うよ。なんかほっとするな」
「洋こそ、モテモテなのに振りまくって…」
「え?」
窓から射し込む夕日を受けながら、こっちを見つめる表情にドキッとする。そうだ。王子様みたいな顔の洋は、中学の時には女子にもよくモテていた。でも洋はそういうのに関心がないようだったし近寄りがたい雰囲気もあって、直接アタックしてくるような女の子はいなかった。その代りバレンタインには、みんな普段の我慢が弾けるのか、もらう量が半端なかったのを思い出す。
「そんなことないよ……俺はまだそういうことにあまり興味持てないし」
その一言に、ほっとする。いつまでもこうやって洋と幼馴染としてつるんでいたいから、洋が女の子と付き合ったりしたら、寂しいもんな。
「安志こそ、野球部のエースで、随分女子から騒がれていたよな」
「ははっ、そんなことする時間も興味もないよ」
「なぁ久しぶりにゲームしないか。あれ」
洋が珍しく自分から、野球のゲーム盤を指さした。
「いいよ」
「じゃあ、制服これに着替えて寛げよ」
「ん……そうしようか」
母さんが買ってきた中で、一番俺に似合わないと思った、淡い水色のシャツを手渡した。
「なぁ着てみろよ、洋には少し大きいかも」
「うん」
素直に返事をした洋が立ちあがり、制服のブレザーを脱いで、シャツのボタンに手をかけようとするので、何故か胸の奥からドキドキしてしまった。
「おっおいっ!待て!ぬっ脱ぐな!」
慌てて阻止してしまった
「え?だって今着替えろって」
「だから、上から羽織ればいいだろ」
「あっそっか」
不思議そうな表情を浮かべた洋が、そのまま制服のシャツの上に着た。少し袖が長いようで、手が隠れるのに、何故かまた胸がドキッとした。
「いい色だね。どうかな?」
いつも制服か目立たない色の私服しか着ない洋が、明るい色合いの服を着ているのが眩しかった。品の良さか滲み出るようでとても綺麗だと思った。
「ああ……」
俺は、照れくさくて明後日の方向を向いた。
その後のゲームは、上の空で、洋に惨敗した。
****
なんて昔のたわいもない、それでいてどこか甘酸っぱい日常を思い出していると、涼の声が耳に届いた。
「いいな」
「え?」
「今度僕にも安志さんの服をくれない?」
「おっおう?でも俺の私服ってイマイチじゃん?」
「そんなことない!それに洋兄さんが着たのなら、僕だって…」
涼は俺のこと色眼鏡で見てる気がする。自分でも洒落っ気が無いと思うし、普通のジーンズやTシャツが好きだから、ほんと垢ぬけない。なのにこんな俺のこと、涼がこんなにも好きでいてくれるなんて、未だに信じられない時がある。
そして同時にまた俺は洋との昔のことを思い出していて、涼に心配をかけてしまったと悟った。
「涼、心配すんなよ。思い出は思い出でしかないよ。今の俺には涼しかいない。涼が着てくれるなんて嬉しいよ」
「安志さん」
ほっとしたような涼の表情。
あぁ涼を今すぐここで抱きしめたい。だが今はその気持ちはぐっと抑え込んで、押し隠すようにわざとふざけてみた。
「あっそっか、もしかして涼…」
「なっなに?」
「あのあれか。もしかして彼シャツって奴をしてみたいんだな」
「わぁ言わないでよ。安志さん!!!」
図星なのか、耳まで赤くなっている様子が可愛い。
「可愛いなぁ涼は、いつもいろんなことに興味持ってくれて嬉しいよ」
「ちっ違うってば!」
涼が顔を赤く染めてジタバタした。本当に可愛い涼。俺の白いシャツを裸で羽織った映像を、頭の中で想像して盛大ににやけてしまった。
とその時、後ろから大きな影が近づいて来た。
「おい久しぶりだな。ひもじい奴よ。で、その彼シャツってなんの話だ?」
振り向けば、Kaiが明るく笑って立っていた。そして隣には松本さんが。
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