599 / 1,657
完結後の甘い話の章
完結後の甘い物語 『流れる星 1』
しおりを挟む
披露宴も落ち着いて、やがて歓談の時間となっていた。
輪の中心には、黒い紋付き羽織袴姿の凛々しい姿の丈と、薄い白色に繊細の花の絵付けを施した和装姿の美しい洋くんが並んで立っていた。
俺は翠兄さんと並んで、その日の当たる世界の明るい光景をぼんやりと眺めていた。
果たして今……兄さんはどんな顔で、この光景を見ているのだろう。そんな興味が沸いたので、そっと盗み見すると、とても眩しそうに目を細めていた。
俺もかつてこんな目をしたような気がする。そうだ。あれは翠兄さんが結婚した日だ。ウェディングドレスを着たいという花嫁側のたっての希望で、寺の仏前式とは別にホテルで披露宴をしたのだ。
俺は宴会場でただ座っているのが辛かった。とても幸せそうな新郎新婦を凝視できなかった。
そんな子供じみた理由で、披露宴会場を抜け出したが、やはり兄さんの様子が気になり、そっと庭先から中を覗き見した。カーテンの影に新婦は隠れ、翠兄さんの姿だけが見えた。
白いスーツ姿の兄はノーブルな魅力で溢れていて、俺は眩しいものを見るかのように、目を細めた。
「んっ流どうした?」
「……懐かしいですか」
「えっ?」
兄さんは、意外なことを言われたように驚いた様子で、目を見開いた。
あぁ、こんな些細な表情にも心を奪われる。
この兄は本当に美しい顔立ちだ。
一つ一つの動作も表情も何もかも、俺には輝いて見える。
「かつての結婚式を思い出していたとか…」
「どうした?そんな昔のことを今更。もうとっくに忘れたよ」
「そうですか。なんだか懐かしそうな眼をしていたから……もしかして」
「ふっ……そうじゃないよ。流」
どういう意味だろう。
美しい笑顔を浮かべる兄の心の内が、すべて覗けたらいいのに。
「さぁ、そろそろ時間だよ」
「そうですね。皆を案内して来ます」
****
「食後はお抹茶を点てますので、どうぞこちらへ」
食後は、皆を庭の奥深い所へと誘った。
この寺の裏山は、ほぼ竹で覆われている。
天へと真っすぐに伸びたあまたの竹。そしてその竹林を割って清らかな小川が流れている。小川の先を辿れば、今朝洋が溺れそうになったあの滝つぼがあり、山奥のひんやりとした空気に流れる水の音を添え、心静まる空間を作っていた。
俺はここに小さな茶室を設けた。
ただ一人のためだけに。
だが、今日は特別な日だ。
弟と洋くんのために、ここを開放したのだ。
竹林の中、滝の水が岩を打つ音を聞きながらいただくお抹茶は、人の心を優しく和ませてくれる。この和やかな日、和やかな時間が、参列してくれた人にとって一つの良き想い出となるように、俺は心を込めてお点前を始めた。
「洋くん、手伝ってくれるか」
「もちろんです。流さん」
数日前からお点前の稽古を、洋くんは励んでくれた。
これは洋くんのたっての希望でもあった。
自分の手で、お抹茶を渡したいと。
来てくれた人に、心を配りたいと。
輪の中心には、黒い紋付き羽織袴姿の凛々しい姿の丈と、薄い白色に繊細の花の絵付けを施した和装姿の美しい洋くんが並んで立っていた。
俺は翠兄さんと並んで、その日の当たる世界の明るい光景をぼんやりと眺めていた。
果たして今……兄さんはどんな顔で、この光景を見ているのだろう。そんな興味が沸いたので、そっと盗み見すると、とても眩しそうに目を細めていた。
俺もかつてこんな目をしたような気がする。そうだ。あれは翠兄さんが結婚した日だ。ウェディングドレスを着たいという花嫁側のたっての希望で、寺の仏前式とは別にホテルで披露宴をしたのだ。
俺は宴会場でただ座っているのが辛かった。とても幸せそうな新郎新婦を凝視できなかった。
そんな子供じみた理由で、披露宴会場を抜け出したが、やはり兄さんの様子が気になり、そっと庭先から中を覗き見した。カーテンの影に新婦は隠れ、翠兄さんの姿だけが見えた。
白いスーツ姿の兄はノーブルな魅力で溢れていて、俺は眩しいものを見るかのように、目を細めた。
「んっ流どうした?」
「……懐かしいですか」
「えっ?」
兄さんは、意外なことを言われたように驚いた様子で、目を見開いた。
あぁ、こんな些細な表情にも心を奪われる。
この兄は本当に美しい顔立ちだ。
一つ一つの動作も表情も何もかも、俺には輝いて見える。
「かつての結婚式を思い出していたとか…」
「どうした?そんな昔のことを今更。もうとっくに忘れたよ」
「そうですか。なんだか懐かしそうな眼をしていたから……もしかして」
「ふっ……そうじゃないよ。流」
どういう意味だろう。
美しい笑顔を浮かべる兄の心の内が、すべて覗けたらいいのに。
「さぁ、そろそろ時間だよ」
「そうですね。皆を案内して来ます」
****
「食後はお抹茶を点てますので、どうぞこちらへ」
食後は、皆を庭の奥深い所へと誘った。
この寺の裏山は、ほぼ竹で覆われている。
天へと真っすぐに伸びたあまたの竹。そしてその竹林を割って清らかな小川が流れている。小川の先を辿れば、今朝洋が溺れそうになったあの滝つぼがあり、山奥のひんやりとした空気に流れる水の音を添え、心静まる空間を作っていた。
俺はここに小さな茶室を設けた。
ただ一人のためだけに。
だが、今日は特別な日だ。
弟と洋くんのために、ここを開放したのだ。
竹林の中、滝の水が岩を打つ音を聞きながらいただくお抹茶は、人の心を優しく和ませてくれる。この和やかな日、和やかな時間が、参列してくれた人にとって一つの良き想い出となるように、俺は心を込めてお点前を始めた。
「洋くん、手伝ってくれるか」
「もちろんです。流さん」
数日前からお点前の稽古を、洋くんは励んでくれた。
これは洋くんのたっての希望でもあった。
自分の手で、お抹茶を渡したいと。
来てくれた人に、心を配りたいと。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる