重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『星の数だけ 2』

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 涼のすっきりとした後姿が眩しかった。

 若々しい横顔が木漏れ日を浴びて、一際瑞々しく輝いていた。

 月影寺の芝生の庭で繰り広げられる披露宴に、涼は花を添えていた。

 洋もそんな涼の様子を見て、優しく微笑んだ。

「涼、頑張ってるな」

「そうなんだ。昨日から俺のために、ずっとああやって働いてくれているよ」

「あいつ本当にブラコンだよな」

「ははっそういってもらえると光栄だ。安志もしかして今度は妬いてるのか」

「馬鹿っ、ん?洋、お前少し顔赤くないか」

「えっ?そう…あ…三三九度のお酒のせいかな」

「馬鹿だな。お前すぐ顔に出るのに」

 頬をほんのりと桃色に染めた洋は、まるで頬紅をはたいたようにふんわりとして綺麗だった。赤ワインを一口飲んだ唇も、口紅を塗ったように赤く熟れていた。今まで見たこともない正式な和装姿も、洋の月夜のように研ぎ澄まされた美しさを引き立ていた。

 やっぱり洋は綺麗だ。

 ずっとこの先も……歳をとるのを忘れたかのように、その美しさは変わらないだろう。いやどんどん深みを増していくのだろう。神々しいまでの美しさに思わず目を奪われてしまう。

 ふと見ると、洋の唇の端に飲んだばかりの赤ワインが付いていた。

「おい、唇の端が赤くなってるぞ」
「えっどこ?」

 洋の指が方向違いの場所を彷徨うのを見て、苦笑してしまう。相変わらず鈍い奴だ。

「ここだよ。ワインがついてる」

 洋の唇の端をそっと指でなぞってやる。すると指先に火照った温度を感じた。

「わっ!カッコ悪いな」

洋がぼやいていると、その間にすっと影が差した。

「……安志くん……ありがとうな」

 丈さんが少し面白くなさそうな顔で立っていた。くくくっほんと分かりやすい人だ。冷静な顔して嫉妬しているんだな。

「洋、こっちこい」
「え?どうしたんだよ」

 ぐいっと腕を掴まれて、俺から離れていく洋に軽く手を振った。

 がんばれよ。嫉妬深い旦那さん持って大変だな。
 熱々の二人をニヤニヤと見守っていると、頭をポカっと叩かれた。

「痛っ」

「こら!安志、新婚さんにちょっかい出すんじゃないのよ」

 げっ!母さんだ。

「来てたのかよ~」

「あんたって子は薄情な。荷物も一杯あって大変だったのよ。一緒に行って欲しかったのに」

「恥ずかしいよ。いい歳して」

「何言ってるの。あーほんと洋くんと差がありすぎよ」

「ははっ、で、一体何買いこんだの?」

「それは洋くんのこれから着る洋服とかいろいろ。ずっと息子に着せたかったブランドの買い込んじゃった。だって安志にはことごとく似合わないんだもの。つまらないったら」

「酷いな~母さんの息子は俺なのに」

「安志には期待してないの。もーそのリクルートスーツみたいな礼服はなんなの?そろそろ買い直したら。あぁもう私の望みは可愛い子がお嫁に来ることだけよ」

「これ?成人の祝いで作ってもらったもんだよ、そんなにダサい?」

 母さんにズケズケと言われると凹むな。そんな風に言われたら、モデルをしているお洒落な涼の隣に立てないじゃないか。

「……ダサイ…もぅそれくらい見立ててくれるようないい子はいないの?洋くんもとうとう結婚しちゃったし、安志はどうするつもり?」

 可愛い子か。うん、俺にもちゃんといるんだけどな。でも、今ここでいうことじゃない。言いたい言葉をぐッと言葉を呑み込んでいると、母さんが言葉を続けた。

「あら?あの子は確か……洋くんの従兄弟の涼くんだったわよね」

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