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第9章
花の咲く音 7
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この手紙は……思わず感極まり、手紙を持つ手がカタカタと震えてしまった。
まるで天国にいる両親から届いたメッセージのようだ。まるで伯父さんが代筆してくれたかのような、確かに感じる息遣い。父の記憶なんで微かにしかないのに、それでも感じる俺への想い。
俺に『洋』という名を与えてくれたのは、父だと母が以前教えてくれた。
こめられたのはシンプルだけど深い意味。
浅岡…崔加…そしてまた浅岡に戻り、今度は張矢。
次々と変わっていく俺の姓。
だけどいつもずっと変わらないのは『洋』という名前だった。
そのことに気づかせてくれた深い意味のある手紙だった。
「洋兄さん、大丈夫?」
「あっああ涼、俺……嬉しくて嬉しくて。君が今日この手紙を持ってきてくれて嬉しくて涙が出そうだよ」
「ふふっ洋兄さん、もう泣いているよ」
涼が甘い笑顔で、俺の目元の涙を指先で拭ってくれた。もう一人で膝を抱えて泣かなくていい。温かい涙すらも拭ってくれる人が、今の俺の傍にはいてくれる。そう思うと、やはり涙が止まらなくなってしまった。
「あーあ駄目だよ。兄さんそんなに泣いたら、明日、目が腫れちゃうだろう」
「うん……そうだけど……でも」
涼が優しく背中を撫でてくれると、また誘われるかのように、はらはらと涙が零れ落ちた。こんなに泣くのは久しぶりだ。今は自分の躰から流れる暖かい滴がただただ……心地良かった。
「ニューヨークにいる両親もね、いつも洋兄さんのことを気にかけているよ。なんだろう、特に父親がすごいよ。すごく親身になってくれている。その同性愛についてもね。なんでって思う程理解があって驚いている」
「俺も頼もしいよ」
「うん、僕も嬉しいよ。父が理解のある人で」
「また会いたいな」
「また日本にも来るっていっていたし、ニューヨークへ旅行もしよう。これからだよ。洋兄さんの未来は、これから広がるんだね」
「ありがとう。涼、本当にありがとう」
****
「じゃあ涼くん、この肉の塊に塩胡椒してくれる?」
「了解です!」
「そうそう、たっぷりとね。ふふふ、機敏だね~実にテキパキしているな、おまけに天使みたいに可愛いし言うことないな」
含み笑いをした流さんが、座っている俺の方をちらっと見る。
「もうっ!流さん、俺だってそれ位は出来ますよ」
「いいからいいから。洋くんは今日はもうじっとしてろ」
「そうだよ。洋兄さんは動いちゃ駄目。僕が働くから座っていて」
涼と自室で手紙を受け取った後、一緒に流さんの作った夕食を食べ、それから明日のパーティーの下ごしらえに取り掛かった。といっても、俺は手伝うことを許されず、見ているだけだが。
でも温かい光景だった。
明日来てくれる人のために、仕出し弁当でいいと言ったのに、手作りでおもてなししようと言い出してくれたのは流さんだ。一人で十人前以上の昼食を作るのは大変だから、しっかり手伝おうと思っていたのに、まさか涼が一足早く来てくれるなんて思ってもみなかった。
今俺はそんな明るい光景を見守りながら、明日集まってくれる人のために、ゆったりとした気持ちで手紙を書いている。
今までの感謝の気持ちと、これから先の縁を願って。
時間は今までに体験したことがない程ゆったりと緩やかに流れていく。
明日という日を迎えるために、時は厳かに動き出している。
****
夕凪も更新しております。
洋が夕凪とも重なる時間が持てますように……
志生帆 海より
まるで天国にいる両親から届いたメッセージのようだ。まるで伯父さんが代筆してくれたかのような、確かに感じる息遣い。父の記憶なんで微かにしかないのに、それでも感じる俺への想い。
俺に『洋』という名を与えてくれたのは、父だと母が以前教えてくれた。
こめられたのはシンプルだけど深い意味。
浅岡…崔加…そしてまた浅岡に戻り、今度は張矢。
次々と変わっていく俺の姓。
だけどいつもずっと変わらないのは『洋』という名前だった。
そのことに気づかせてくれた深い意味のある手紙だった。
「洋兄さん、大丈夫?」
「あっああ涼、俺……嬉しくて嬉しくて。君が今日この手紙を持ってきてくれて嬉しくて涙が出そうだよ」
「ふふっ洋兄さん、もう泣いているよ」
涼が甘い笑顔で、俺の目元の涙を指先で拭ってくれた。もう一人で膝を抱えて泣かなくていい。温かい涙すらも拭ってくれる人が、今の俺の傍にはいてくれる。そう思うと、やはり涙が止まらなくなってしまった。
「あーあ駄目だよ。兄さんそんなに泣いたら、明日、目が腫れちゃうだろう」
「うん……そうだけど……でも」
涼が優しく背中を撫でてくれると、また誘われるかのように、はらはらと涙が零れ落ちた。こんなに泣くのは久しぶりだ。今は自分の躰から流れる暖かい滴がただただ……心地良かった。
「ニューヨークにいる両親もね、いつも洋兄さんのことを気にかけているよ。なんだろう、特に父親がすごいよ。すごく親身になってくれている。その同性愛についてもね。なんでって思う程理解があって驚いている」
「俺も頼もしいよ」
「うん、僕も嬉しいよ。父が理解のある人で」
「また会いたいな」
「また日本にも来るっていっていたし、ニューヨークへ旅行もしよう。これからだよ。洋兄さんの未来は、これから広がるんだね」
「ありがとう。涼、本当にありがとう」
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「じゃあ涼くん、この肉の塊に塩胡椒してくれる?」
「了解です!」
「そうそう、たっぷりとね。ふふふ、機敏だね~実にテキパキしているな、おまけに天使みたいに可愛いし言うことないな」
含み笑いをした流さんが、座っている俺の方をちらっと見る。
「もうっ!流さん、俺だってそれ位は出来ますよ」
「いいからいいから。洋くんは今日はもうじっとしてろ」
「そうだよ。洋兄さんは動いちゃ駄目。僕が働くから座っていて」
涼と自室で手紙を受け取った後、一緒に流さんの作った夕食を食べ、それから明日のパーティーの下ごしらえに取り掛かった。といっても、俺は手伝うことを許されず、見ているだけだが。
でも温かい光景だった。
明日来てくれる人のために、仕出し弁当でいいと言ったのに、手作りでおもてなししようと言い出してくれたのは流さんだ。一人で十人前以上の昼食を作るのは大変だから、しっかり手伝おうと思っていたのに、まさか涼が一足早く来てくれるなんて思ってもみなかった。
今俺はそんな明るい光景を見守りながら、明日集まってくれる人のために、ゆったりとした気持ちで手紙を書いている。
今までの感謝の気持ちと、これから先の縁を願って。
時間は今までに体験したことがない程ゆったりと緩やかに流れていく。
明日という日を迎えるために、時は厳かに動き出している。
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洋が夕凪とも重なる時間が持てますように……
志生帆 海より
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