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第9章
一心に 4
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本日の更新は『深海』共に歩む道13の続きになります。
****
洋の言う通りに駅の改札を出て右手に駐車場の表示があったので、駆けつけた。
「優也さんっどこだ!どこにいる?」
駐車場には車もまばらで、まだ避暑シーズン前らしく閑散としていた。
だが辺りを見回しても優也さんらしき姿は見当たらない。本当にここで合っているのか…
ちょうど自販機の横に古びたベンチがあり、そこにキラッと車のライトを受けるたびに光るものを見つけたので近寄ってみた。
「これは!」
それはいつも優也さんが持っていたマホガニーの木材で出来たボールペンだった。これはホワイトデーに俺があげたものなんだ。これを忘れるなんて余程のことだ。
不安が一気に胸を駆け上っていく。
やっぱり優也さんはここに来たんだ。洋の言った通りだ。でもどこへ?車に乗って行かれたんじゃ探しようがない。八方塞がりで立ち尽くしていると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
「Kaiごめん。優也さんはいたか」
「洋っ一体どういうことだ?さっき話していたトーヤカケルって誰だ?優也さんの何だよ?正直に話せよっ」
息を切らして駆けつけてくれた洋に、焦りのあまり詰め寄ってしまった。
「ハァハァ……あっうん、その…」
少し言い難そうに言葉を詰まらせた様子からして……もしかして優也さんを日本で傷つけた奴なのかと思った。優也さんは何かに破れて日本を離れたというのは察していたんだ。
「まさかトーヤカケルという人は優也さんの」
そこまで言いかけた時、洋が俺とは全く違う方向を見て大きな声をあげた。
「東谷さん!」
振り返ると、すぐ横の車寄せに一台のタクシーが停まり、中から長身の男が降りて来た。
「あ……君は!」
彼も洋のことを見て、声を詰まらせた。成程この男がトーヤカケルという人物なのか。
「松本さんは……松本さんはどこなんですか。あなたが連れて行ったんじゃ」
暗がりで分からなかったが、男性の頬には血が流れた痕があった。それを見た途端、かっとなってしまった。
「おいっ!一体何があったんだよ!優也さんはどこだ?」
初対面の相手なのに、胸ぐらをつかもうとしてしまった。
「わっ殴るなっ!手は……最後までは出してない」
「最後ってどういう意味だよ!一体どこに?」
「ちょっと待てって。あんた優也の何?友達?まさか恋人?」
少し疑るような目で見られた。
こんな時に嘘なんかついてもしょうがない。俺は俺だ。
「俺は優也さんの恋人で、こっちは友人」
「はっそっか、優也の新しい恋人って君か。そして君は友人だって?」
「何が可笑しい?」
「あっ悪かった。そうじゃないんだ。道理で優也の雰囲気が随分変わったと思った。日本にいた頃は友達なんかいなくて、いつも一人でいたのに……こんな所まで駆けつけてくれる友達と恋人か。そっか……そういうことか」
「そうだよ!優也さんが心配でここまで駆けつけた!なんか文句あるか」
「俺が捨てた優也はもういないだな。ひとりぼっちでずっと泣いていると思っていたのに。いつのまにこんなにいろんなに魅力的な人たちに出逢って、これじゃ立場が逆だな」
「何言ってるんだ?優也さんは最初から魅力的だった。俺の心にずっと住んでいる!」
大きな声でそう叫ぶと、トーヤカケルは一瞬ぽかんとした顔をした。
「はぁ……熱いな。俺の負けだな……優也は乗馬倶楽部の入り口にいる」
洋がピンと来たような表情で俺の腕を引っ張った。
「Kaiもう行こう、場所は俺が知っているから」
「あっ待てよ!」
行こうとする俺達をトーヤカケルが呼び止めた。
「なんだよ?この後に及んでさ」
「あっその……くそっこんなこと言いなれてないのにな……」
ぼやくように呟きながら、俺達に向かって頭をすっと下げた。
「なっなんだよ?急に」
「優也のことよろしくお願いします。あいつ結構寂しがり屋だから、大事にしてやって欲しい。俺の元恋人なんだ。もう今は違う人生を歩んでいるけど……俺が酷い捨て方してしまったんだ」
あまりに丁寧な口調でお辞儀までされたので、拍子抜けしてしまった。
「あ……うん、優也さんのことはちゃんと受け取った。俺は真剣だ。一生大事にするつもりだ」
「そうか、それを聞けてよかった。もうすっぱり諦めたよ」
そう肩を竦めながら呟き、手を軽くあげ振り……背を向けてトーヤカケルという男は、とぼとぼと去って行った。
「Kai急ごう。松本さんを一人にしておけない。きっと待ってるよ、Kaiのこと!」
洋が力強く俺の腕をぐいぐい引っ張る。
不思議な気分だ。
いつも守ってやった洋が今は俺を誘導してくれている。とても力強い手を持つようになったな。
洋……君の幸せは……君をこんなにも強くしなやかにしたんだな。
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洋の言う通りに駅の改札を出て右手に駐車場の表示があったので、駆けつけた。
「優也さんっどこだ!どこにいる?」
駐車場には車もまばらで、まだ避暑シーズン前らしく閑散としていた。
だが辺りを見回しても優也さんらしき姿は見当たらない。本当にここで合っているのか…
ちょうど自販機の横に古びたベンチがあり、そこにキラッと車のライトを受けるたびに光るものを見つけたので近寄ってみた。
「これは!」
それはいつも優也さんが持っていたマホガニーの木材で出来たボールペンだった。これはホワイトデーに俺があげたものなんだ。これを忘れるなんて余程のことだ。
不安が一気に胸を駆け上っていく。
やっぱり優也さんはここに来たんだ。洋の言った通りだ。でもどこへ?車に乗って行かれたんじゃ探しようがない。八方塞がりで立ち尽くしていると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
「Kaiごめん。優也さんはいたか」
「洋っ一体どういうことだ?さっき話していたトーヤカケルって誰だ?優也さんの何だよ?正直に話せよっ」
息を切らして駆けつけてくれた洋に、焦りのあまり詰め寄ってしまった。
「ハァハァ……あっうん、その…」
少し言い難そうに言葉を詰まらせた様子からして……もしかして優也さんを日本で傷つけた奴なのかと思った。優也さんは何かに破れて日本を離れたというのは察していたんだ。
「まさかトーヤカケルという人は優也さんの」
そこまで言いかけた時、洋が俺とは全く違う方向を見て大きな声をあげた。
「東谷さん!」
振り返ると、すぐ横の車寄せに一台のタクシーが停まり、中から長身の男が降りて来た。
「あ……君は!」
彼も洋のことを見て、声を詰まらせた。成程この男がトーヤカケルという人物なのか。
「松本さんは……松本さんはどこなんですか。あなたが連れて行ったんじゃ」
暗がりで分からなかったが、男性の頬には血が流れた痕があった。それを見た途端、かっとなってしまった。
「おいっ!一体何があったんだよ!優也さんはどこだ?」
初対面の相手なのに、胸ぐらをつかもうとしてしまった。
「わっ殴るなっ!手は……最後までは出してない」
「最後ってどういう意味だよ!一体どこに?」
「ちょっと待てって。あんた優也の何?友達?まさか恋人?」
少し疑るような目で見られた。
こんな時に嘘なんかついてもしょうがない。俺は俺だ。
「俺は優也さんの恋人で、こっちは友人」
「はっそっか、優也の新しい恋人って君か。そして君は友人だって?」
「何が可笑しい?」
「あっ悪かった。そうじゃないんだ。道理で優也の雰囲気が随分変わったと思った。日本にいた頃は友達なんかいなくて、いつも一人でいたのに……こんな所まで駆けつけてくれる友達と恋人か。そっか……そういうことか」
「そうだよ!優也さんが心配でここまで駆けつけた!なんか文句あるか」
「俺が捨てた優也はもういないだな。ひとりぼっちでずっと泣いていると思っていたのに。いつのまにこんなにいろんなに魅力的な人たちに出逢って、これじゃ立場が逆だな」
「何言ってるんだ?優也さんは最初から魅力的だった。俺の心にずっと住んでいる!」
大きな声でそう叫ぶと、トーヤカケルは一瞬ぽかんとした顔をした。
「はぁ……熱いな。俺の負けだな……優也は乗馬倶楽部の入り口にいる」
洋がピンと来たような表情で俺の腕を引っ張った。
「Kaiもう行こう、場所は俺が知っているから」
「あっ待てよ!」
行こうとする俺達をトーヤカケルが呼び止めた。
「なんだよ?この後に及んでさ」
「あっその……くそっこんなこと言いなれてないのにな……」
ぼやくように呟きながら、俺達に向かって頭をすっと下げた。
「なっなんだよ?急に」
「優也のことよろしくお願いします。あいつ結構寂しがり屋だから、大事にしてやって欲しい。俺の元恋人なんだ。もう今は違う人生を歩んでいるけど……俺が酷い捨て方してしまったんだ」
あまりに丁寧な口調でお辞儀までされたので、拍子抜けしてしまった。
「あ……うん、優也さんのことはちゃんと受け取った。俺は真剣だ。一生大事にするつもりだ」
「そうか、それを聞けてよかった。もうすっぱり諦めたよ」
そう肩を竦めながら呟き、手を軽くあげ振り……背を向けてトーヤカケルという男は、とぼとぼと去って行った。
「Kai急ごう。松本さんを一人にしておけない。きっと待ってるよ、Kaiのこと!」
洋が力強く俺の腕をぐいぐい引っ張る。
不思議な気分だ。
いつも守ってやった洋が今は俺を誘導してくれている。とても力強い手を持つようになったな。
洋……君の幸せは……君をこんなにも強くしなやかにしたんだな。
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