重なる月

志生帆 海

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第9章

一心に 1

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 無事にKaiと松本さんが会えますように。
 そして二人の心がぴたりと通い合うように。

 幸せを願わずにはいられない。

 なのに何故こんなにも心臓がドキドキしているのだろう。
 さっきから何か良くないことが起きる前触れのような、嫌な胸騒ぎがする。

 先に出た新幹線の車中に……あの東谷さんに似た横顔を見てしまったせいだろうか。はっきり見たわけじゃない。他人の空似かもしれない。でも……あぁもうこんなことで迷っている場合ではない。

 目を閉じて意識を集中させていく。
 今俺がすべきことは何か、どう動くべきかを。

 こんなことが、前にもあった。そうだ……あれは初めて丈に抱かれた日のことだ。

 俺はすぅっと深呼吸して目を閉じ、頭の中をクリアにして行った。
 空っぽの頭に残る気持ちは何だろう。それを知りたくて。 

 冷静になれ。

 あの日、丈に抱かれなかったら……今の俺はいないも同然だ。今の俺は丈から与えてもらった深い愛を、今度は周りの人へ注ぎたい気持ちで満ちている。万が一俺が東谷さんの所へ話を聞きにいったせいで、彼が松本さんを訪ねたりでもしたら大変なことになる。

 あの焦った思いつめた彼の様子が、気になってしょうがない。

 やはり引き返そう。そう思い、Kaiが乗った新幹線のすぐ後に飛び乗った。
 何事もなければ、そのまま幸せな二人を見て引き返せばいいのだから。
 
 丈に事情を連絡すると、すぐに返事があった。

 ……
 大体の事情は分かった。
 洋がやりたいようにやるといい。
 悔いが残らないように。
 やり直しは出来ないのだから、いますべきこと、出来ることを精一杯やって来て欲しい。
 
 そんな洋が好きだ。
 気を付けて。
 ……

 短い返信だが丈が俺を全面的に信頼してくれていることが伝わる文面に、心が火照る。

 車窓に流れるの都会の夜景は、やがて暗黒の世界に変わって行った。
 まるで光を求め、出口を求め、一気に走り抜けていく気分だ。
 俺が体験して分かったことがある。
 どんな辛いことも悲しいことも、いつか終わる。

 ありきたりだが……止まない雨がないように、諦めなければ必ず道はある。

 どんなに状況が悪くても、必ずどこかに突破口が用意されているのだ。
 俺が身をもって体験したことを、松本さんにも伝えたい。
 
 ……
 Kai、もしも駅に着いて松本さんに会えなかったら、俺にすぐ連絡をしてくれ。
 ……

 短いメールを打った後、俺は祈った。

 どうか間に合いますように。
 どうか何もありませんように。

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