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第9章
番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」5
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一体どの位の時間バス停のベンチに座っていたのだろうか。こんな時間にバスはもう来ないのに。
それでも通行人はチラチラと通りすぎていく。俺がここにいる間だけでも、何人もの人が広告を指さして話題にしていたな。
「ねっあの広告の男の子すごく可愛いよね」
「あっモデルの涼だ!この子って最近すごい売れてるよね。だって凄く綺麗だもん!」
時計の広告は女の子も映っているのに、メインは涼なのだろう。涼にはモデルとしての素質があるようで、特別な輝きを放っていた。
本当にこんな綺麗な子が、俺の恋人なんだろうか。現実なのかと不安にすらなってくる。
恋人となり躰を繋げても……抱いても抱いても……腕の中からするりと抜け出て、先へ先へと駆け出していってしまいそうな不安を抱いていた。
何故だろう。涼と俺はこんなに幸せなはずなのに。全く、今日の俺はどうにかしている。
俺はちっとも大人じゃない。恋に関しては高校時代から止まっているようなものだ。
涼……出来れば今日は会いたかったよ。このベンチの横に並んで、座っていて欲しかった。
とぼとぼと情けない気分でマンションに向かって歩き出すと、北風が一層身に堪えた。
ビールは外気にあたり一層冷え切ってしまったようだ。もう早く寝てしまおう。こんな日は、こんなにも自分の感情をコントロールできない情けない日には……
もう大人だろ。そう自分自身を叱咤激励しつつ、外階段を上がりアパートの廊下を歩くと……
「えっ」
「うっ……うっ…」
キャラメル色のダッフルコートを着た男の子が、俺の部屋のドア前にしゃがんでいた。ドアに背をもたれて俯いていた。泣いている……小さな嗚咽。揺れる肩。
まさか!
フードを頭まで被って顔は良く見えないのに、俺にはそれが涼だってことは一目で分かった。まさか会いたいと思っていた涼が目の前に現れるなんて!これって夢じゃないよな。思わず持っていたコンビニ袋を、足元へ落としてしまった。
ガシャンッ
その音に反応した男の子が、俺のことを見て目を見開いた。
「あっ」
慌てて立ち上がった男の子は、やっぱり涼だった。涙をためて潤んだ目元で、俺の所に駆け寄って来る。
ドンッと体重をかけるように抱きつかれた。
途端にふわっと涼の香りが鼻を掠めた。少し汗ばんだ、それでも清らかな涼の香り。
一瞬そのまま抱きしめたくなったが、ぐっと我慢して急いで部屋の中に涼を隠した。外は危険だ。誰がどこで見ているか分からないからな。
「涼……」
靴を脱ぐ時間ももどかしく、玄関先でぎゅっと抱きしめる。
あぁ涼だ。本物の涼だ。
このしなやかな躰は、俺の涼だ。
「涼、来てくれたのか」
頭を撫でながら嬉しくて尋ねると、拗ねたような怒ったような返事が返って来た。
「どこ行ってたんだよ!」
「え?あぁコンビニにビールを買いに」
「こんなに長い時間?電話にも全然出てくれないし……すごく心配した」
あっそうか。スマホは家の中だ……悪いことをしたな。きっと何度も連絡をしてくれたのに、俺が全然出ないからさぞかし不安だったろう。いつもの涼らしくない荒れた口の利き方で戸惑った。
でも……ん?待てよ。これってもしかして妬いくれているのか。そう思うと途端にポカポカしてくるものだ。まさか俺なんかが妬いてもらえるなんて思いもしなかったから、くすぐったいな。
「安志さんはモテるから心配で、今日だって誰かに誘われたのかもって」
「馬鹿だな涼。俺はその……バス停のベンチで涼のことを見ていたんだよ。なんか無性に涼に会いたくなってさ」
「えっもしかしてあのバス停にいたの?あの広告の僕に会ったの?」
「まぁ……そういうこと」
涼の方も気が抜けたような表情だ。
「なんだ僕、てっきり……あぁそっか」
「涼は馬鹿だな、俺は涼が好きなんだよ。俺達は恋人同士でいいんだよな」
「安志さん、いつもごめんなさい。僕は安志さんの気持ちも考えず、我が儘で勝手で……でも僕も本当はすごく今日会いたかったんだ。三時間だけ仮眠時間をもらえたから、急いで駆けつけたんだ。だって安志さんにとにかく会いたかった。傍にいて欲しかったから!」
「涼~あんまり可愛いこと言うなよ。俺もさ、素直に言えばよかったよ。物分かりがいい大人を演じてないで」
「僕こそっ、子供ぽい言動だなんて思わず、素直にぶつければよかった。僕の気持ち!」
「くっ」
「くすっ」
お互い笑みがようやく零れた。
「やっと笑ったな」
「安志さんこそ」
そのままキスをした。
少しだけ涙の味のキスだった。
「寂しかったか」
「うん……ここに来て会えなかった時は流石に愕然としたよ。安志さんも寂しかった?」
「あぁ寂しかった。今日はクリスマスイブだろ」
「ん……あとニ分でクリスマス当日にもなるよ」
「おお!じゃあ二日間も一緒だ」
「うん、安志さん……好きだ。いつもありがとう」
「涼、俺達は遠慮し過ぎだったな。年の差ばかり気にして、お互いの位置から抜け出せなくて……もがいていたのかもしれないな」
「うん、歳の差が気になるなら、お互いが歩みよればいいだけだったのにね。やっと気が付いたよ」
「涼、俺と付き合ってくれてありがとう。メリークリスマス!」
「安志さんこそ、僕を求めてくれてありがとう!メリークリスマス!」
もう一度涼にキスをすると、もう涙の味はしなかった。その代りに、涼の可愛い唇からは、誘うような甘い蜜の味がした。
「涼、あと何時間いれる?」
「あと二時間は安志さんのものだよ。好きにして欲しい」
「馬鹿っそんなに煽るな。本当は仮眠すべき時間だろ」
「安志さん……こんなんじゃ寝るに寝られないよ。お互いに」
密着キスの後、お互いのそれは見事に勃っていたってわけさ。
「涼のも勃ったな。これって抱いていい合図ってことだよな」
「もちろんだよ」
甘い恋人たちのクリスマスの夜が、俺達にもやってきた。サンタはもういないと思っていたのに、もしかしたら……
窓の外の三日月が、キラリと光って微笑んだような気がした。
クリスマス・イブ 了
****
メリークリスマス!
ふぅ~なんとか安志と涼のSSを書き終えました!この二人のことを描くのは楽しく、すれ違いにも萌えながら書いていました。いつも読んで下さってありがとうございます。
明日はこの後のRを2話更新しようと思います。
それでも通行人はチラチラと通りすぎていく。俺がここにいる間だけでも、何人もの人が広告を指さして話題にしていたな。
「ねっあの広告の男の子すごく可愛いよね」
「あっモデルの涼だ!この子って最近すごい売れてるよね。だって凄く綺麗だもん!」
時計の広告は女の子も映っているのに、メインは涼なのだろう。涼にはモデルとしての素質があるようで、特別な輝きを放っていた。
本当にこんな綺麗な子が、俺の恋人なんだろうか。現実なのかと不安にすらなってくる。
恋人となり躰を繋げても……抱いても抱いても……腕の中からするりと抜け出て、先へ先へと駆け出していってしまいそうな不安を抱いていた。
何故だろう。涼と俺はこんなに幸せなはずなのに。全く、今日の俺はどうにかしている。
俺はちっとも大人じゃない。恋に関しては高校時代から止まっているようなものだ。
涼……出来れば今日は会いたかったよ。このベンチの横に並んで、座っていて欲しかった。
とぼとぼと情けない気分でマンションに向かって歩き出すと、北風が一層身に堪えた。
ビールは外気にあたり一層冷え切ってしまったようだ。もう早く寝てしまおう。こんな日は、こんなにも自分の感情をコントロールできない情けない日には……
もう大人だろ。そう自分自身を叱咤激励しつつ、外階段を上がりアパートの廊下を歩くと……
「えっ」
「うっ……うっ…」
キャラメル色のダッフルコートを着た男の子が、俺の部屋のドア前にしゃがんでいた。ドアに背をもたれて俯いていた。泣いている……小さな嗚咽。揺れる肩。
まさか!
フードを頭まで被って顔は良く見えないのに、俺にはそれが涼だってことは一目で分かった。まさか会いたいと思っていた涼が目の前に現れるなんて!これって夢じゃないよな。思わず持っていたコンビニ袋を、足元へ落としてしまった。
ガシャンッ
その音に反応した男の子が、俺のことを見て目を見開いた。
「あっ」
慌てて立ち上がった男の子は、やっぱり涼だった。涙をためて潤んだ目元で、俺の所に駆け寄って来る。
ドンッと体重をかけるように抱きつかれた。
途端にふわっと涼の香りが鼻を掠めた。少し汗ばんだ、それでも清らかな涼の香り。
一瞬そのまま抱きしめたくなったが、ぐっと我慢して急いで部屋の中に涼を隠した。外は危険だ。誰がどこで見ているか分からないからな。
「涼……」
靴を脱ぐ時間ももどかしく、玄関先でぎゅっと抱きしめる。
あぁ涼だ。本物の涼だ。
このしなやかな躰は、俺の涼だ。
「涼、来てくれたのか」
頭を撫でながら嬉しくて尋ねると、拗ねたような怒ったような返事が返って来た。
「どこ行ってたんだよ!」
「え?あぁコンビニにビールを買いに」
「こんなに長い時間?電話にも全然出てくれないし……すごく心配した」
あっそうか。スマホは家の中だ……悪いことをしたな。きっと何度も連絡をしてくれたのに、俺が全然出ないからさぞかし不安だったろう。いつもの涼らしくない荒れた口の利き方で戸惑った。
でも……ん?待てよ。これってもしかして妬いくれているのか。そう思うと途端にポカポカしてくるものだ。まさか俺なんかが妬いてもらえるなんて思いもしなかったから、くすぐったいな。
「安志さんはモテるから心配で、今日だって誰かに誘われたのかもって」
「馬鹿だな涼。俺はその……バス停のベンチで涼のことを見ていたんだよ。なんか無性に涼に会いたくなってさ」
「えっもしかしてあのバス停にいたの?あの広告の僕に会ったの?」
「まぁ……そういうこと」
涼の方も気が抜けたような表情だ。
「なんだ僕、てっきり……あぁそっか」
「涼は馬鹿だな、俺は涼が好きなんだよ。俺達は恋人同士でいいんだよな」
「安志さん、いつもごめんなさい。僕は安志さんの気持ちも考えず、我が儘で勝手で……でも僕も本当はすごく今日会いたかったんだ。三時間だけ仮眠時間をもらえたから、急いで駆けつけたんだ。だって安志さんにとにかく会いたかった。傍にいて欲しかったから!」
「涼~あんまり可愛いこと言うなよ。俺もさ、素直に言えばよかったよ。物分かりがいい大人を演じてないで」
「僕こそっ、子供ぽい言動だなんて思わず、素直にぶつければよかった。僕の気持ち!」
「くっ」
「くすっ」
お互い笑みがようやく零れた。
「やっと笑ったな」
「安志さんこそ」
そのままキスをした。
少しだけ涙の味のキスだった。
「寂しかったか」
「うん……ここに来て会えなかった時は流石に愕然としたよ。安志さんも寂しかった?」
「あぁ寂しかった。今日はクリスマスイブだろ」
「ん……あとニ分でクリスマス当日にもなるよ」
「おお!じゃあ二日間も一緒だ」
「うん、安志さん……好きだ。いつもありがとう」
「涼、俺達は遠慮し過ぎだったな。年の差ばかり気にして、お互いの位置から抜け出せなくて……もがいていたのかもしれないな」
「うん、歳の差が気になるなら、お互いが歩みよればいいだけだったのにね。やっと気が付いたよ」
「涼、俺と付き合ってくれてありがとう。メリークリスマス!」
「安志さんこそ、僕を求めてくれてありがとう!メリークリスマス!」
もう一度涼にキスをすると、もう涙の味はしなかった。その代りに、涼の可愛い唇からは、誘うような甘い蜜の味がした。
「涼、あと何時間いれる?」
「あと二時間は安志さんのものだよ。好きにして欲しい」
「馬鹿っそんなに煽るな。本当は仮眠すべき時間だろ」
「安志さん……こんなんじゃ寝るに寝られないよ。お互いに」
密着キスの後、お互いのそれは見事に勃っていたってわけさ。
「涼のも勃ったな。これって抱いていい合図ってことだよな」
「もちろんだよ」
甘い恋人たちのクリスマスの夜が、俺達にもやってきた。サンタはもういないと思っていたのに、もしかしたら……
窓の外の三日月が、キラリと光って微笑んだような気がした。
クリスマス・イブ 了
****
メリークリスマス!
ふぅ~なんとか安志と涼のSSを書き終えました!この二人のことを描くのは楽しく、すれ違いにも萌えながら書いていました。いつも読んで下さってありがとうございます。
明日はこの後のRを2話更新しようと思います。
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