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第9章
番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」3
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「お疲れ様!」
スタジオでの撮影が、ようやく一区切りついた。
カメラの熱を浴び続けたせいで、額には大粒の汗が浮き上がっていた。
マネージャーと撮影監督が、そんな僕のところへ近づいて来た。
「涼、お疲れ様。一旦休憩していいよ。次の撮影は三時間後だから、これ鍵。上の階でシャワー使っておいで。そのまま仮眠を取ってもいいし」
「えっいいんですか」
「涼が頑張ったお陰でスムーズに進んだからご褒美だよ。三時間だけど自由時間だ」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
二日間缶詰を覚悟していたのに、思いがけずスタジオから一旦外に出ることが出来た。しかも遠方からのモデルの宿泊先として使っている部屋での仮眠付きだ。
とにかく汗を流したかったし疲れ果てて眠かったので、ぼんやりとエレベーターに乗り込もうとしたら、降りて来た人の大きな荷物にぶつかりそうになってしまった。
「あっすいません」
「いーえ」
大きな紙袋だな。あ……そうか、クリスマスケーキか。有名なケーキ屋さんのロゴが印刷されていた。
そうだ…今日はクリスマスイブだった。
すっかり時間感覚が失われていたことに気が付いた。
一週間前に安志さんと電話した時「クリスマスに会えない」と告げると、あっさりと仕事を頑張れと言われてしまった。僕は意気込んでいたのでがっかりしてしまったのに、安志さんは同じ気持ちじゃなかったのか。
そう思ったら、僕の方から「それでも会いたい」という一言がどうしても言えなかったんだ。
安志さんは十歳も年上の大人の男性だから、僕がそんな子供じみた我が儘言って困らせたくない。そもそも僕のモデルの仕事で会えないのだから……僕のせいなんだ。
「それでもやっぱり安志さんに、会いたいな。せめて声だけでも聴きたい」
その気持ちに勇気をもらい、安志さんへ電話をかけてみた。
もう時計の針は二十三時過ぎ。この時間なら絶対家にいるはずだ。そう思ったのに、何度コールしても安志さんは出なかった。
会えないと会いたくなる。
話せないと話したくなる。
もう三週間も会っていない。
そろそろ限界だ。
この三週間……僕も意地を張ってしまった。子供っぽく安志さんのこと束縛したくなくて。
安志さんの方も、僕が忙しいと気遣ってたまにメールをくれる程度だった。電話も何度かあったのに運悪く撮影中だったり、逆に僕がかけると会議中だったりと行き違いばかりだった。
もう三週間……電話越しにすらまともに喋っていない。
「そうか……僕が直接行けばいいんだ」
三時間あれば……行って帰って来られる。まだ電車も動いているし、なんとかなりそうだ。
ダッフルコートのフードを目深に被って、僕はエレベーターには乗らずに、外に向かって走り出していた。
安志さんの傍に行きたくて!
ただそれだけの想いに突き動かされていた。
スタジオでの撮影が、ようやく一区切りついた。
カメラの熱を浴び続けたせいで、額には大粒の汗が浮き上がっていた。
マネージャーと撮影監督が、そんな僕のところへ近づいて来た。
「涼、お疲れ様。一旦休憩していいよ。次の撮影は三時間後だから、これ鍵。上の階でシャワー使っておいで。そのまま仮眠を取ってもいいし」
「えっいいんですか」
「涼が頑張ったお陰でスムーズに進んだからご褒美だよ。三時間だけど自由時間だ」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
二日間缶詰を覚悟していたのに、思いがけずスタジオから一旦外に出ることが出来た。しかも遠方からのモデルの宿泊先として使っている部屋での仮眠付きだ。
とにかく汗を流したかったし疲れ果てて眠かったので、ぼんやりとエレベーターに乗り込もうとしたら、降りて来た人の大きな荷物にぶつかりそうになってしまった。
「あっすいません」
「いーえ」
大きな紙袋だな。あ……そうか、クリスマスケーキか。有名なケーキ屋さんのロゴが印刷されていた。
そうだ…今日はクリスマスイブだった。
すっかり時間感覚が失われていたことに気が付いた。
一週間前に安志さんと電話した時「クリスマスに会えない」と告げると、あっさりと仕事を頑張れと言われてしまった。僕は意気込んでいたのでがっかりしてしまったのに、安志さんは同じ気持ちじゃなかったのか。
そう思ったら、僕の方から「それでも会いたい」という一言がどうしても言えなかったんだ。
安志さんは十歳も年上の大人の男性だから、僕がそんな子供じみた我が儘言って困らせたくない。そもそも僕のモデルの仕事で会えないのだから……僕のせいなんだ。
「それでもやっぱり安志さんに、会いたいな。せめて声だけでも聴きたい」
その気持ちに勇気をもらい、安志さんへ電話をかけてみた。
もう時計の針は二十三時過ぎ。この時間なら絶対家にいるはずだ。そう思ったのに、何度コールしても安志さんは出なかった。
会えないと会いたくなる。
話せないと話したくなる。
もう三週間も会っていない。
そろそろ限界だ。
この三週間……僕も意地を張ってしまった。子供っぽく安志さんのこと束縛したくなくて。
安志さんの方も、僕が忙しいと気遣ってたまにメールをくれる程度だった。電話も何度かあったのに運悪く撮影中だったり、逆に僕がかけると会議中だったりと行き違いばかりだった。
もう三週間……電話越しにすらまともに喋っていない。
「そうか……僕が直接行けばいいんだ」
三時間あれば……行って帰って来られる。まだ電車も動いているし、なんとかなりそうだ。
ダッフルコートのフードを目深に被って、僕はエレベーターには乗らずに、外に向かって走り出していた。
安志さんの傍に行きたくて!
ただそれだけの想いに突き動かされていた。
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