559 / 1,657
第9章
番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」1
しおりを挟む『クリスマス・イブ』安志×涼 番外編
「そっか……会えないのか。あぁ仕事頑張れよ」
そう言って涼との電話を切った。
物分かりのいい大人を精一杯演じた。
もう二週間も涼と会えていない。というのも最初の1週間は俺が要人警護の仕事で泊りがけで海外に行っていたせいで、帰国してやっと会えると思ったら、今度は涼の方が春物の雑誌の撮影で沖縄に行ってしまったからだ。全く二人してタイミング悪すぎだろ。
それでもやっと涼も東京に戻って来たので会えると思ったら、さっきの電話だ。
涼が売れっ子モデルだってことは十分理解している。
涼の方も生半可な気持ちでモデルをしているのではなく、仕事として将来を見据えながら真剣に臨んでいることだ。俺が応援してやらないでどうする。
それでも、クリスマスイブには出来れば会いたかった。
それが本音だ。
通話の切れたスマホを手に握り締めたまま、スーツのままソファにもたれ天井を仰いだ。
涼の顔……こんなに会えないと、このまま忘れてしまいそうだ。
弱気な俺、らしくない言葉。
最近はこんなすれ違いばかりだな。
ネクタイを緩めながらポストから持っていた新聞や手紙を確認すると、ダイレクトメールに紛れれて、洋からのクリスマスカードを見つけた。
……
Dear.Anji
May the holiday season bring happiness and joy to you and your loved ones.
From.you
……
「クリスマスがあなたとあなたの愛する人に喜びを運びますように」か……洋らしいよ。いつだってあいつは自分のことよりも周りの幸せを願う奴。
洋……俺は今、幸せだ。
でも幸せだからこそ、少し欲張りになっている。
洋の従兄弟の涼と出逢えたことだけでも奇跡なのに、その涼が俺のこと好きになってくれて、躰も繋げられた。それだけでも信じられない程有難いことだって分かっているくせに、どんどん欲張りになってしまっているよ。
いつだって俺の傍にいて欲しい。
そんなこと無理なのに、そんな束縛するような言葉は絶対言いたくないのに、心の中ではいつだってそう思っている。
とにかく涼とはクリスマスイブもクリスマスも会えない。スタジオに籠って二日間撮影でいつ終わるか未定だなんて、ほんと最低な事務所だ。
くそっ!その事実に今日は滅茶苦茶に打ちのめされた。
ビールを片手に、当てもなくバラエティ番組を見て一人で虚しく笑った。そうでもしていないと、寂しさが込み上げて来てしまいそうだったから。
涼と出逢って涼がいる毎日を知って……俺は変わった。
そのことを深く自覚している。
「涼、本当は会いたいよ」
伝えられなかった言葉を、そっと吐き捨てた。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる