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第9章
番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」1
しおりを挟む『クリスマス・イブ』安志×涼 番外編
「そっか……会えないのか。あぁ仕事頑張れよ」
そう言って涼との電話を切った。
物分かりのいい大人を精一杯演じた。
もう二週間も涼と会えていない。というのも最初の1週間は俺が要人警護の仕事で泊りがけで海外に行っていたせいで、帰国してやっと会えると思ったら、今度は涼の方が春物の雑誌の撮影で沖縄に行ってしまったからだ。全く二人してタイミング悪すぎだろ。
それでもやっと涼も東京に戻って来たので会えると思ったら、さっきの電話だ。
涼が売れっ子モデルだってことは十分理解している。
涼の方も生半可な気持ちでモデルをしているのではなく、仕事として将来を見据えながら真剣に臨んでいることだ。俺が応援してやらないでどうする。
それでも、クリスマスイブには出来れば会いたかった。
それが本音だ。
通話の切れたスマホを手に握り締めたまま、スーツのままソファにもたれ天井を仰いだ。
涼の顔……こんなに会えないと、このまま忘れてしまいそうだ。
弱気な俺、らしくない言葉。
最近はこんなすれ違いばかりだな。
ネクタイを緩めながらポストから持っていた新聞や手紙を確認すると、ダイレクトメールに紛れれて、洋からのクリスマスカードを見つけた。
……
Dear.Anji
May the holiday season bring happiness and joy to you and your loved ones.
From.you
……
「クリスマスがあなたとあなたの愛する人に喜びを運びますように」か……洋らしいよ。いつだってあいつは自分のことよりも周りの幸せを願う奴。
洋……俺は今、幸せだ。
でも幸せだからこそ、少し欲張りになっている。
洋の従兄弟の涼と出逢えたことだけでも奇跡なのに、その涼が俺のこと好きになってくれて、躰も繋げられた。それだけでも信じられない程有難いことだって分かっているくせに、どんどん欲張りになってしまっているよ。
いつだって俺の傍にいて欲しい。
そんなこと無理なのに、そんな束縛するような言葉は絶対言いたくないのに、心の中ではいつだってそう思っている。
とにかく涼とはクリスマスイブもクリスマスも会えない。スタジオに籠って二日間撮影でいつ終わるか未定だなんて、ほんと最低な事務所だ。
くそっ!その事実に今日は滅茶苦茶に打ちのめされた。
ビールを片手に、当てもなくバラエティ番組を見て一人で虚しく笑った。そうでもしていないと、寂しさが込み上げて来てしまいそうだったから。
涼と出逢って涼がいる毎日を知って……俺は変わった。
そのことを深く自覚している。
「涼、本当は会いたいよ」
伝えられなかった言葉を、そっと吐き捨てた。
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