重なる月

志生帆 海

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第9章

集う想い17

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 羽田空港国際線ターミナル・到着ロビー。

 定刻通り無事にニューヨークからKaiを乗せた飛行機は到着した。Kaiとはニューヨークで別れたばかりだったので、そんなに時間は立っていないのに……久しぶりに会うような気がした。日本に戻って十日間程の間に、俺の心境が随分と変化したせいなのだろうか。

 到着ロビーに大きなスーツケースを押しながら姿を現したKaiは、周りの人より頭一つ大きな高身長だ。まるでスポーツ選手のように短髪の黒髪、清潔感のあるヘアスタイル。仕事が終わってすぐに飛行機に飛び乗ったのか、珍しく濃紺のスーツ姿だった。

 爽やかな空気を身に纏い、俺を見つけると迷いなく颯爽と歩み寄って来た。

「洋、一人で大丈夫だったか」

 開口一番にそのようなことを言われては戸惑ってしまう。俺はいつまでもKaiにとって心配の種なのかと思わず苦笑してしまった。

「はは、もう何もなかったよ」

 Kaiは怪訝そうに辺りを確認するようにキョロキョロと見回した後、ほっと安堵した笑顔で俺を見下ろしてきた。悔しいがKaiとじゃ身長差がありすぎだ。

「そうか……あれ?洋、ちょっと雰囲気変わったよな」
「そう?」
「なんか前は襲ってください。虐めてくださいって感じだったけど、今は凛としてちょっかい出しにくい。そうか……お前、かっこよくなったんだな。ちょっと会わないうちに」
「ははっ何を言うと思ったら。俺は俺だよ。前に進んでいるだけさ」
「何か吹っ切れたみたいな顔だな」

 そう言われるのは嬉しい。最近自分でも前の自分とは違ってきた気がしていたが、周りからも確かにそう見えているのだろうか。そういえば松本さんの甥っ子のカイトくんにもそう言われた。

「さぁ行こう、新幹線の時間があるんだ」
「分かった。優也さん大丈夫そうだった?お母さんが倒れられて気が動転していただろう」
「お母さんの意識が今日戻ったってほっとしていたよ」
「そうか良かった。なぁ……洋」
「何だよ?珍しく気弱だな」
「ん……あのさ……優也さんは、俺にまだ話せないことが沢山あるみたいだ」

 電車に揺られながらKaiが悩まし気に呟いた。

「……そうなのか」
「ああ」

 いつもならこういう沈黙が続くと場を盛り上げようとふざけた調子になるKaiなのに、松本さんのこととなると、そうはいかないようだ。

「なぁKai……俺の過去をお前はニューヨークのホテルで知ってしまったよな。それによって何か変わったか」
「えっ急に何を言うんだよ?」

 Kaiが怪訝そうな表情で俺を見つめた。

「あんな汚れた過去を知っても、KaiはKaiのまんまで、俺に接してくれた。そして応援してくれたな。ありがとう。Kai……人には人に言えないような過去があるかもしれない。でもその人が懸命にそこから立ち上がり前に進もうとしていたら、どうする?」

「そんなの決まっている!今目の前にいるその人が大事だ。過去は過去。今は今。今の行動を応援するだけだ」

「そうか、やはりKaiらしいな。男らしいよ。君はいつも……だから安心だ」
「洋?どうかしたのか。優也さんに何かあったのか」
「今の松本さんをしっかり見て来てくれ」
「分かった。あぁもちろんさ!行ってくるよ!」

 東京駅で新幹線の切符を購入した。これは俺からのお餞別だ。この切符が松本さんとKaiを無事に結び付けますように。

「ほら、この切符は俺からのプレゼント。松本さんのこと幸せにして欲しい。Kaiはもう自由だ」

「洋、本当にお前…強くなったな。分かった!行ってくるよ!」

 Kai……遠い昔からの縁の深い友人。

 いつも俺を助け守ってくれ、励ましてくれたKai。これからはどうか自分のために時間を存分に使って欲しい。

 今までありがとう。そしてこれからは、対等な友人として末永い付き合いをして欲しい。

 そんな俺の願いをKaiは心で受け取ってくれたようだ。電車の扉の向こうで力強く頷くKaiの姿を、俺はしっかりと見送った。


『集う想い』  了


****

おはようございます。志生帆 海です。
いつも読んでくださってリアクションなどありがとうございます。励みになっております。
松本さんとKaiの今後の展開は『深海』の「共に進む道」9話目以降でご覧いただければ幸いです。『重なる月』では、このまま洋視点で物語を追っていきます。


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