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第9章
集う想い16
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「洋くん……長々と聞いてくれてありがとう。僕は」
松本さんの告白は、東谷 翔さんと出逢ってからの日々のことだった。話が長引いてきたので、俺はそのまま松本さんの家に泊まらせてもらうことになり、続きは松本さんの部屋でゆっくり聞くことにした。
松本さんのお父さんもお姉さんも、俺に対して何も聞かなかったし、言わなかった。ただ息子の話を、弟のお話を聞いてやって下さいとだけ頼まれた。何年も行方不明のような状態だった松本さんが戻ってきてくれただけで、今は感無量だと。
翔、優也と呼び合った甘い蜜月から、悲しく苦しい破局までの流れ。
まるで松本さん自身が、過去と向き合うような長い話だった。
俺は相槌を打つだけで、何も意見しなかった。
松本さん自身も、何も求めていないと思ったから。
「本当の僕はね、Kaiくんにふさわしくない……本当に汚れた人間なのさ」
ただ最後のこの言葉は、胸に迫って来た。
縋るような松本さんの潤んだ目と持て余す感情が迫ってくる。
分かる、分かりすぎるよ。
自分が汚れていて、愛する相手にふさわしくないのではと卑下してしまう悲しい気持ち。 だって……俺もそうだったから。
丈と一時期は別れをも決意して過ごしたことがある。でも俺の過去も何もかもすべてを受け入れてくれると言ってくれた丈に、身を委ねた。
そうしてよかった。消えなくてよかった。信じて飛び込んで良かった。
あの日の行動がすべてを左右した。
俺が選んだ道は間違っていなかった。
今本当に心の底からそう思っている。
苦しみも悲しみもいつか消えさり、浄化していくものかもしれない。
「松本さんにどんな過去があっても、それは過去の出来事だ。やりなおすことも消すこともできない過去に変わりはない。だからそこだけに気持ちを囚われていては、何も変わらない。松本さんはKaiのことが信じられないのですか」
「違うっKaiくんのことが信じられないわけじゃない。ただ僕の過去があまりに複雑で……」
「信じているんですよね。Kaiのこと。それならばもう単純にそれだけでいいと思います。思い切ってもっと懐の深い所まで飛び込んでやってください。Kaiもうすぐここに来ますよ」
「えっ?なんでKaiくんが」
「さっき連絡があって、ニューヨークの仕事が終わったから直行便で日本に向かっているそうです。明日の夜にはここに着くはずです」
俺が「松本さんの居場所が分かって会っている」とメールで連絡すると、Kaiの方は、もう搭乗手続きをしている最中だと返事が来た。Kaiは松本さんが日本にいると確信していたらしい。まだその時点では居場所もまだはっきりしていなかったのに行動が潔い。Kaiらしい動きだ。
「Kaiくんが本当に……本当に来てくれるのか。こんな所まで?」
信じられないといった表情で呆然としながらも、頬を染める松本さん。
松本さんと東谷さんの話、歯車がずれて感情もずれてしまい結局結ばれることはなかったが、それも一つ恋だと思った。
一時期は確かにお互い愛し合っていた時期もあった。
でももうそこからお互いの軸はずれ、違う世界を歩んでいる。
東谷さんは、女性と結婚してお子さんもいるそうだ。
そして松本さんにはKaiとの新しい世界が始まっている。
もうその事実だけでいいじゃないか。
細かいことに囚われすぎてはいけない。
動けなくなる。
「Kaiは日本に不慣れだから、俺が羽田まで迎えに行って長野新幹線に乗せますよ。だから松本さんは、軽井沢の駅で出迎えてあげて下さいね」
「洋くん……何から何までありがとう。僕が東京まで迎えに行きたいけど。まだ母のことがあるので本当にありがたいよ。でも洋くん一体何故、僕のことをこんなにまで?」
「それは……あのクリスマスの日に話ましたよね。俺も日本で消えたくなるほど辛いことがあったと。だから松本さんの気持ちに寄り添うことが出来る。そして一歩進んで欲しい。逃げないで欲しいんです。過去は消せないけれども、未来は自分の力でつくれるのだから」
「未来か……」
そうだ……過去は消せない。
だが、この先のことはまだ何も決まっていない。
悔いのないように生きたいだけ。生きて欲しいだけ。
俺の願いは、いつだってただ一つ。
松本さんにも、前へ前へ進んで欲しい。
松本さんの告白は、東谷 翔さんと出逢ってからの日々のことだった。話が長引いてきたので、俺はそのまま松本さんの家に泊まらせてもらうことになり、続きは松本さんの部屋でゆっくり聞くことにした。
松本さんのお父さんもお姉さんも、俺に対して何も聞かなかったし、言わなかった。ただ息子の話を、弟のお話を聞いてやって下さいとだけ頼まれた。何年も行方不明のような状態だった松本さんが戻ってきてくれただけで、今は感無量だと。
翔、優也と呼び合った甘い蜜月から、悲しく苦しい破局までの流れ。
まるで松本さん自身が、過去と向き合うような長い話だった。
俺は相槌を打つだけで、何も意見しなかった。
松本さん自身も、何も求めていないと思ったから。
「本当の僕はね、Kaiくんにふさわしくない……本当に汚れた人間なのさ」
ただ最後のこの言葉は、胸に迫って来た。
縋るような松本さんの潤んだ目と持て余す感情が迫ってくる。
分かる、分かりすぎるよ。
自分が汚れていて、愛する相手にふさわしくないのではと卑下してしまう悲しい気持ち。 だって……俺もそうだったから。
丈と一時期は別れをも決意して過ごしたことがある。でも俺の過去も何もかもすべてを受け入れてくれると言ってくれた丈に、身を委ねた。
そうしてよかった。消えなくてよかった。信じて飛び込んで良かった。
あの日の行動がすべてを左右した。
俺が選んだ道は間違っていなかった。
今本当に心の底からそう思っている。
苦しみも悲しみもいつか消えさり、浄化していくものかもしれない。
「松本さんにどんな過去があっても、それは過去の出来事だ。やりなおすことも消すこともできない過去に変わりはない。だからそこだけに気持ちを囚われていては、何も変わらない。松本さんはKaiのことが信じられないのですか」
「違うっKaiくんのことが信じられないわけじゃない。ただ僕の過去があまりに複雑で……」
「信じているんですよね。Kaiのこと。それならばもう単純にそれだけでいいと思います。思い切ってもっと懐の深い所まで飛び込んでやってください。Kaiもうすぐここに来ますよ」
「えっ?なんでKaiくんが」
「さっき連絡があって、ニューヨークの仕事が終わったから直行便で日本に向かっているそうです。明日の夜にはここに着くはずです」
俺が「松本さんの居場所が分かって会っている」とメールで連絡すると、Kaiの方は、もう搭乗手続きをしている最中だと返事が来た。Kaiは松本さんが日本にいると確信していたらしい。まだその時点では居場所もまだはっきりしていなかったのに行動が潔い。Kaiらしい動きだ。
「Kaiくんが本当に……本当に来てくれるのか。こんな所まで?」
信じられないといった表情で呆然としながらも、頬を染める松本さん。
松本さんと東谷さんの話、歯車がずれて感情もずれてしまい結局結ばれることはなかったが、それも一つ恋だと思った。
一時期は確かにお互い愛し合っていた時期もあった。
でももうそこからお互いの軸はずれ、違う世界を歩んでいる。
東谷さんは、女性と結婚してお子さんもいるそうだ。
そして松本さんにはKaiとの新しい世界が始まっている。
もうその事実だけでいいじゃないか。
細かいことに囚われすぎてはいけない。
動けなくなる。
「Kaiは日本に不慣れだから、俺が羽田まで迎えに行って長野新幹線に乗せますよ。だから松本さんは、軽井沢の駅で出迎えてあげて下さいね」
「洋くん……何から何までありがとう。僕が東京まで迎えに行きたいけど。まだ母のことがあるので本当にありがたいよ。でも洋くん一体何故、僕のことをこんなにまで?」
「それは……あのクリスマスの日に話ましたよね。俺も日本で消えたくなるほど辛いことがあったと。だから松本さんの気持ちに寄り添うことが出来る。そして一歩進んで欲しい。逃げないで欲しいんです。過去は消せないけれども、未来は自分の力でつくれるのだから」
「未来か……」
そうだ……過去は消せない。
だが、この先のことはまだ何も決まっていない。
悔いのないように生きたいだけ。生きて欲しいだけ。
俺の願いは、いつだってただ一つ。
松本さんにも、前へ前へ進んで欲しい。
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