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第9章
集う想い12
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「はい東谷ですが。あの何か用ですか」
現れた青年は、どこかの俳優かと思う程、爽やかで端正な顔立ちだった。この人が松本さんと無二の親友と言われていた人なのか。なんだかしっくりくるような来ないような……どちらともつかない気持ちが込み上げて来た。
「あの松本優也さんのソウルでの同僚の浅岡と言います。松本さんのことで少しお尋ねしたいことがあって」
最初は怪訝そうな表情を浮かべていたのに、俺が名刺を差し出すとはっとした表情に切り替わった。
「え……ソウル?今、松本……優也って今言いました?」
「はい、あの……松本さんの日本での連絡先を知りたくて、あなたなら知っているかもと人事の齋藤さんに紹介してもらって。緊急で知りたいのですが」
「つっ、そうか!だからなのか!やっぱり」
東谷さんの顔色がさっと変わった。思い当たることがある。そんな表情だ。
「あの……?」
「あぁすいません。この前ちょうど逆に優也の家族からもソウルでの連絡先を知らないかって、緊急の用事だって聞かれたばかりだったので」
「え……」
「やっぱり優也に何かあったのかもしれないな。くそっ」
東谷さんは、俺のことなんて見向きもせずに険しい表情を浮かべ遠くを見つめていた。
「あっあの?連絡先をよかったら教えてもらえませんか」
「優也の友達か?」
「はい、大事な友人です」
「……友達か」
今度は、困惑したような表情になっていた。その後まるで言い捨てるように.教えてくれた。
「チッ軽井沢の松本観光っていえば分かるはずだ」
「えっ?」
「もういいですか。これ以上話すことはないですからっ、ちょっと急ぐんで失礼します」
そう言ってくるっと背中を向けて机にスタスタと戻って行ってしまったので、呆気にとられてしまった。
いつも初対面の人は必ず俺の顔をじっと見て来るのに、彼は俺の顔なんてろくにみずに、ひたすら松本さんのことばかり心配していた。ただ事じゃない様子だった。松本さんと東谷さんは説明では無二の親友だったそうだが、やはり何かがかみ合わない。取り付く島もなかったので、とりあえず軽井沢の松本観光という会社について調べてみようと思った。
松本と名がつくのだから関係がありそうだ。
****
「もしもし洋、何か分かったか」
「うん、軽井沢の松本観光という会社が優也さんのご実家になるようだ。ご実家のご家族からソウルに連絡をするほどの緊急のことがあったらしいから、やっぱり松本さんは日本に帰国している気がするんだ」
「ありがとうな!ちょうど俺も優也さんのマンションの管理人とさっきようやく連絡がついて、スーツケース持って出かける優也さんに会ったって。日本に一時帰国するから家を空けるって聞いたそうなんだ」
「そうか!じゃあKaiどうする?」
「仕事が終わり次第、駆けつける。この仕事もうすぐ終わるんだ。終わったら休暇をもらえるから、その足で日本へ行くよ」
「分かった。俺、ちょっと気になるから先に軽井沢に行ってみようと思って」
「洋が一人で大丈夫か。おいっ無理すんな」
「大丈夫だ。実は気になることがあって……早めに行った方がいいような気がして。Kai、なるべく早く来てくれ」
「おお!」
なんで俺が行った方がいいと思ったのか分からない。でもなんとなくあの東谷さんはただの友達でなく、もっと深い仲だったような気がするのと……彼も今にも軽井沢に駆けつけそうな勢いだったから。
何かがぶつかりそうな、そんな嫌な予感。
丈にはまた無謀なことをと言われるかもしれないが、東谷さんは俺には全く関心がないようだから大丈夫そうだ。それより東谷さんが無茶なことをしないか。優也さんが困ったことにならないか、それが心配だった。
迷っている暇はない。
新幹線で一時間足らずの日帰りできる距離だ。
そう思うと体は自然に動き出していた。
いつからだろう。
こんなに軽く動けるようになったのは。
いつからだろう。
誰かのために何かをしたいと思えるようになったのは。
現れた青年は、どこかの俳優かと思う程、爽やかで端正な顔立ちだった。この人が松本さんと無二の親友と言われていた人なのか。なんだかしっくりくるような来ないような……どちらともつかない気持ちが込み上げて来た。
「あの松本優也さんのソウルでの同僚の浅岡と言います。松本さんのことで少しお尋ねしたいことがあって」
最初は怪訝そうな表情を浮かべていたのに、俺が名刺を差し出すとはっとした表情に切り替わった。
「え……ソウル?今、松本……優也って今言いました?」
「はい、あの……松本さんの日本での連絡先を知りたくて、あなたなら知っているかもと人事の齋藤さんに紹介してもらって。緊急で知りたいのですが」
「つっ、そうか!だからなのか!やっぱり」
東谷さんの顔色がさっと変わった。思い当たることがある。そんな表情だ。
「あの……?」
「あぁすいません。この前ちょうど逆に優也の家族からもソウルでの連絡先を知らないかって、緊急の用事だって聞かれたばかりだったので」
「え……」
「やっぱり優也に何かあったのかもしれないな。くそっ」
東谷さんは、俺のことなんて見向きもせずに険しい表情を浮かべ遠くを見つめていた。
「あっあの?連絡先をよかったら教えてもらえませんか」
「優也の友達か?」
「はい、大事な友人です」
「……友達か」
今度は、困惑したような表情になっていた。その後まるで言い捨てるように.教えてくれた。
「チッ軽井沢の松本観光っていえば分かるはずだ」
「えっ?」
「もういいですか。これ以上話すことはないですからっ、ちょっと急ぐんで失礼します」
そう言ってくるっと背中を向けて机にスタスタと戻って行ってしまったので、呆気にとられてしまった。
いつも初対面の人は必ず俺の顔をじっと見て来るのに、彼は俺の顔なんてろくにみずに、ひたすら松本さんのことばかり心配していた。ただ事じゃない様子だった。松本さんと東谷さんは説明では無二の親友だったそうだが、やはり何かがかみ合わない。取り付く島もなかったので、とりあえず軽井沢の松本観光という会社について調べてみようと思った。
松本と名がつくのだから関係がありそうだ。
****
「もしもし洋、何か分かったか」
「うん、軽井沢の松本観光という会社が優也さんのご実家になるようだ。ご実家のご家族からソウルに連絡をするほどの緊急のことがあったらしいから、やっぱり松本さんは日本に帰国している気がするんだ」
「ありがとうな!ちょうど俺も優也さんのマンションの管理人とさっきようやく連絡がついて、スーツケース持って出かける優也さんに会ったって。日本に一時帰国するから家を空けるって聞いたそうなんだ」
「そうか!じゃあKaiどうする?」
「仕事が終わり次第、駆けつける。この仕事もうすぐ終わるんだ。終わったら休暇をもらえるから、その足で日本へ行くよ」
「分かった。俺、ちょっと気になるから先に軽井沢に行ってみようと思って」
「洋が一人で大丈夫か。おいっ無理すんな」
「大丈夫だ。実は気になることがあって……早めに行った方がいいような気がして。Kai、なるべく早く来てくれ」
「おお!」
なんで俺が行った方がいいと思ったのか分からない。でもなんとなくあの東谷さんはただの友達でなく、もっと深い仲だったような気がするのと……彼も今にも軽井沢に駆けつけそうな勢いだったから。
何かがぶつかりそうな、そんな嫌な予感。
丈にはまた無謀なことをと言われるかもしれないが、東谷さんは俺には全く関心がないようだから大丈夫そうだ。それより東谷さんが無茶なことをしないか。優也さんが困ったことにならないか、それが心配だった。
迷っている暇はない。
新幹線で一時間足らずの日帰りできる距離だ。
そう思うと体は自然に動き出していた。
いつからだろう。
こんなに軽く動けるようになったのは。
いつからだろう。
誰かのために何かをしたいと思えるようになったのは。
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