重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
549 / 1,657
第9章

集う想い8

しおりを挟む
「もしもし洋か」

 やはりKaiだった。だがいつもの明るく陽気な様子とは少し違って、焦って不安そうな低い声のトーンだった。なんだろう?嫌な胸騒ぎがする。

「Kaiちょうど電話しようと思っていたところだ。どうした?」
「あのさ……いや……」

 何かを言いかけて、Kaiは無言になってしまった。その沈黙が重たく感じた。

「Kaiどうした?まだアメリカなのか」

「あっああ。そうなんだ。あれからこっちのホテルで結構長引いてさ、そうだそれより洋の方は、もう大丈夫か。日本に帰国して上手くやってるか」

「うん、あの時はありがとう。Kaiが来てくれて心強かった」

「そうか、よかったよ。俺はやっぱり呼ばれて行った気がするよ。あんなタイミング普通ないもんな」

「そうだね。きっとそうだと思う。それより俺に何か用事があったんじゃないか」

「実はさ優也さんと連絡が取れないのが気になって」

「松本さん?今もソウルにいるんだよな?」

「そのはずなんだが……ニューヨークに行く日に見送ってくれて、その時は寂しそうにしていたけど特に変わった様子もなかったのに、この数日全然連絡がなくて……出張中もメールは、いつもくれるのに全然なくてさ」

「それで?」

「で、しびれを切らしてソウルのホテルに電話して優也さんの様子を尋ねたらさ、自ら休暇を願い出て、仕事をずっと休んでるいるって言うんだよ」

「えっ休暇なんて珍しいな。Kaiもいないのに」

「だろ?気になってしょうがない。本当は俺今すぐにでもソウルに戻って探したいのに……くそっ。仕事が次から次へと入って来て、帰れないのがもどかしいよ」

「そうか」

「なぁなんか悪いことじゃないよな?日本でなんかあったとかさ」

「えっ日本で?」

「いや……だってさ優也さんはさ、ソウルに知り合いもほとんどいないし、数少ない知人に聞いても、皆行先を知らないって言うし……じゃあ日本へ戻ったのかとか思うだろ?普通」

「確かにその通りだ」

「洋はさ、優也さんの日本での連絡先とか知らないか」

「うーん俺はソウルで松本さんと出会ったから、日本でのことなんて何も聞いてなかった」

「うっやっぱりそうか。何か知らないか、何でもいいか……あぁ困ったなぁ……」

 しょぼんとトーンダウンしていくKaiの様子が悲し気で、何とかしてあげたくなった。
 そこで必死に記憶の糸を辿ってみると、一つ思い出したことがあった。

「そういえば……松本さんが前にいた会社のことなら、聞いたことがあったような」

「本当か!お願いだ!すぐに調べてくれないか」

「いいよ、調べてみる。何か分かるかもしれないしな」

 いつも頼ってばかりだったKaiに頼られているのが不思議なような、くすぐったいような感覚だった。そして俺もKaiの役に立ちたいと強く思った。


****

今日の更新分は、丁度『深海』の「共に歩む道 3・4」とリンクしていますので、合わせて読んでいただけると分かりやすいかと思います。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...