重なる月

志生帆 海

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第9章

集う想い7

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「この庭が見えるように、大きな窓を作って欲しいのです」
「まぁ良いお庭ですね。流石、由緒正しきお寺の庭園だわ」

 月のない空を見上げていると、突然背後から丈と先ほどの女性の声がした。気まずいような気がして茂みに隠れようと思ったが、すぐに見つかってしまった。

「洋か……そんな所で何をしている?帰りを待っていたぞ」
「あっうん、ただいま。……あの、そちらは?」
「あぁ今度この離れのリフォームをしてもらうことになった建築士事務所の野口さんだよ」
「あなたが洋くんなのね。はじめまして、丈先生には病院でお世話になったのがご縁で、今回こちらのリフォーム工事を任された野口律子と申します」

 快活で知的な女性だった。母が生きていたら……同じ位の年齢だろうか。もう少し上だろうか。

「あ……はい」
「さぁそんなところに立ってないで、おいで」
「丈っ」

 丈が人前で腰を抱くように誘導するので、焦ってしまった。

(丈っ……手っ離せよ。人前だろう)

 思わず小声で囁くと、丈は余裕の笑みだ。

(大丈夫だよ。野口さんは私たちの関係に理解があるから、リフォームしてもらうにあたって、そこは隠せないだろう)

(そうなのか……でも)

 全く丈は……時に大胆なことをする。

****

 その後は部屋に戻り、改めて名刺交換をして、リフォームの打ち合わせを始めた。俺の方はここにいて良いのか、なんだか居心地が悪く恥ずかしい。

 丈の方は、なんの恥じらいもないようで、あれこれ間取りについての注文を出している。その内容がリアル過ぎて赤面してしまう。

「そうですね。ベッドは二人で一緒に眠れるサイズで、マットレスは低く、ソファのように腰かけられるのが理想です。横になっても窓の外の景色や洋が好きな月が見れるといいのだが」

「なるほど~洋くんは細身なので、ベッドはクイーンサイズ?いややっぱりキングサイズでしょうか。ちなみにクイーンベッド:幅1700mm×長さ1950mmキングベッド:幅1940mm×長さ1950mmとになりますが」

「あぁキングサイズがいいな。いろいろ激しく動いたりするからね」
「あっはい」
「それからバスタブのことだが」
「はい、広めですね、男性二人で入れるくらいですと、こちらのバスタブはいかがでしょうか」

 カタログを広げながら心得ておりますといった様子で、女性の方も普通に対応していくのにも、恥ずかしさが募る。

「うん、いいね、洋、これでいいか」
「えっ!しっ知らない」
「ははは、恥ずかしがるな」
「あとはそうそう大型の洗濯機も置いて欲しい」
「二人暮らしですが、どの位のサイズでしょうか」
「シーツが洗えるサイズがいいな、毎日交換するかもしれないしな」
「そっそうですね…」
「……丈っ、もっもうやめろよ」

 延々と続くリフォーム案に、楽しそうに丈が反応している。その横で俺はなんだか居たたまれない気持ちで座っていた。でも話が具体的になってくれば来るほど、丈がどんなにか俺との新生活を楽しみにしてくれているかが伝わって来て、嬉しい気持ちも芽生えて来た。

 トゥルルル……

 そんな時、スマホに着信があった。

「あっちょっとすいません」

 見ると相手は、もうソウルに戻っているはずのKaiからだった。七日のことで丁度連絡しようと思っていた矢先だったので、いいタイミングだと思った。

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