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第9章
太陽と月12
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ガラスが割れる音に驚いて振り返ると、すぐ後ろに涼が立っていた。
「あっごめん。手が滑って」
立ち尽くす涼の足元には、朝食で使ったグラスが大きく割れて散らばっていた。涼の少し引きつった笑み。その理由は……今の話だろうか。
「涼っ怪我しなかったか。そこから動くなよ。今片付けてやるから」
「うん……ごめん」
安志が手際よくキッチンから紙袋を持って来て、破片を片付けていく。涼はその間一歩も動かないで、じっと俯いている。
「よし、もう動いていいぞ」
「安志さん……」
その先の何かを言いたそうで言えない唇の動き。
「涼そんな顔するなよ、気にするなっ!」
安志が涼の頭をくしゃっと揉み、快活に笑った。でもそれから少し真顔で、涼を頭をグイっと抱き寄せた。
「そんなに不安そうな顔するなって。俺は涼とのこと本気なんだ。真剣なんだ。もう若い頃のように、ただ勢いのみで行動して失敗したくないよ。だから分かって欲しい」
何かを思い出しているような安志の苦渋の表情に、胸の奥がズキンと痛む。
やはり安志は……まだ高校時代の階段上での出来事を気にしているのだろう。未だに安志がそのことを気にしているとしたら、その責任は俺にも半分ある。だが今どうこう言い出して涼を苦しめたくない。あれはもう昔の……でも俺にとって大事な思い出でもあった。
「安志さん、ごめんなさい、少し寂しかった。僕だってずっと一緒にいたいと思って……早く洋兄さんみたいな立場になりたいって思ってしまうんだ、こんなの欲張りだよね。分かってるのに、まずは洋兄さんを祝福して……それからなのに」
「涼……うれしいよ。ありがとうな、ほんと可愛い。その夢絶対に叶えてやるから! 俺が叶えてもいいか」
「あっ……」
そのまま安志は、まだ若くて細い体つきの涼の華奢な腰に腕をまわし、涼が背伸びしてしまう程力強く抱きしめた。そのままキスしそうな勢いとムードに、思わず俺は赤面して顔を逸らしてしまった。
「わっ安志さんっ駄目! 洋兄さんが見てるって」
「ははっ、いつも洋に見せつけられているんだから、これくらい平気だろう。なっ洋」
場の雰囲気を和ませる安志。本当に、いつだって思いやりがあって優しいんだ。
「安志っそれ以上言ったら、昨日のこと事細かく思い出してやるっ」
「わっ! それだけはやめろっ! 恥ずかしい」
「ははっ」
本当に本当に応援しているよ。
安志、涼を幸せにして欲しい。
涼、安志を幸せにして欲しい。
二人が幸せになりますように。
そのためにも俺もどんどん進んでいく。
もう過去をいつまでも振り返らないよ。新しい道を丈と築くって約束したから。
太陽のような二人は、俺にいつだってパワーを与えてくれる。
ずっと暗い場所にいた俺にとって、太陽の光は眩しすぎると思っていた。光を避け影を求め歩いて来た人生だった。丈に出逢うまでは……いや出逢ってからも、丈も月のように静かな人だったから同じような場所にいた。
でも安志と再会し、涼にも再会して……二人が付き合いだしてから、どんどん眩い光を放ち、日の当たらない場所にいた俺のところにまで、ぐいぐいと射し込んで来た。
影だったところに、光がやってきた。
誘われるように最初の一歩……もう一歩。
いざ踏み出してみれば少しも怖くはなかった。
ずっと忘れていた日向の匂い。明るい世界。
君たちがいてくれるなら、俺もそこに踏み出せる。
本当にそう思える大事な存在なんだ。
俺が月ならば、君たちは太陽だ。
太陽と月……
この先もずっとお互い支え合って、共に歩んでいきたい。
『太陽と月』 了
****
こんにちは。志生帆 海です。
いつも読んでくださってありがとうございます。
リアクションありがとうございます!すっごく励みになっています。
今日は以前やっていたTwitterに掲載した『切ない初恋』の140文字SSを三本こちらに転載します。いずれも安志&洋の高校時代の淡い思い出……このSSから話を膨らませた番外編をいつか書いてみたいです。
****(安志→洋)
突然の雨を頭から浴びた俺たちは、息を切らしトンネルへと逃げ込んだ。「大丈夫?」振り返った君の胸に、制服の白シャツがぴったりと張り付くのを見た瞬間、言葉を失った。届けたいのに届けられない幼馴染という距離がもどかしい。雨よまだ止むな。あと少し俺たちのBGMとして、この沈黙を支えてくれ。
****(安志→洋)
もう間に合わない。それでも君が旅立ってしまった空を追いたくて空港へ駆けつけた。どうして一言も告げずに行ってしまったのか。いや全部君を追い詰めた俺のせいだ。悔しさと後悔が滲み出る。流れる汗が目に沁みて視界がぐらっと霞む中、どんなに探しても青い空と白い雲しか俺には残っていなかった。
****(洋→安志)
飛行機が離陸する振動に、さよならを言えなかった弱い心が揺さぶられた。あんなに傍にいてくれた君なのに、告げられた言葉が重くて、逃げるように旅立つ俺を許してくれ。青空のように澄んだ君の心に、浮かぶ白い雲のように寄り添うことが出来ればどんなに良かったか。もう戻れない現実だけが俺を追う。
****
いかがでしたか。
こんな風に短い文章で表現するのも好きです♡
「あっごめん。手が滑って」
立ち尽くす涼の足元には、朝食で使ったグラスが大きく割れて散らばっていた。涼の少し引きつった笑み。その理由は……今の話だろうか。
「涼っ怪我しなかったか。そこから動くなよ。今片付けてやるから」
「うん……ごめん」
安志が手際よくキッチンから紙袋を持って来て、破片を片付けていく。涼はその間一歩も動かないで、じっと俯いている。
「よし、もう動いていいぞ」
「安志さん……」
その先の何かを言いたそうで言えない唇の動き。
「涼そんな顔するなよ、気にするなっ!」
安志が涼の頭をくしゃっと揉み、快活に笑った。でもそれから少し真顔で、涼を頭をグイっと抱き寄せた。
「そんなに不安そうな顔するなって。俺は涼とのこと本気なんだ。真剣なんだ。もう若い頃のように、ただ勢いのみで行動して失敗したくないよ。だから分かって欲しい」
何かを思い出しているような安志の苦渋の表情に、胸の奥がズキンと痛む。
やはり安志は……まだ高校時代の階段上での出来事を気にしているのだろう。未だに安志がそのことを気にしているとしたら、その責任は俺にも半分ある。だが今どうこう言い出して涼を苦しめたくない。あれはもう昔の……でも俺にとって大事な思い出でもあった。
「安志さん、ごめんなさい、少し寂しかった。僕だってずっと一緒にいたいと思って……早く洋兄さんみたいな立場になりたいって思ってしまうんだ、こんなの欲張りだよね。分かってるのに、まずは洋兄さんを祝福して……それからなのに」
「涼……うれしいよ。ありがとうな、ほんと可愛い。その夢絶対に叶えてやるから! 俺が叶えてもいいか」
「あっ……」
そのまま安志は、まだ若くて細い体つきの涼の華奢な腰に腕をまわし、涼が背伸びしてしまう程力強く抱きしめた。そのままキスしそうな勢いとムードに、思わず俺は赤面して顔を逸らしてしまった。
「わっ安志さんっ駄目! 洋兄さんが見てるって」
「ははっ、いつも洋に見せつけられているんだから、これくらい平気だろう。なっ洋」
場の雰囲気を和ませる安志。本当に、いつだって思いやりがあって優しいんだ。
「安志っそれ以上言ったら、昨日のこと事細かく思い出してやるっ」
「わっ! それだけはやめろっ! 恥ずかしい」
「ははっ」
本当に本当に応援しているよ。
安志、涼を幸せにして欲しい。
涼、安志を幸せにして欲しい。
二人が幸せになりますように。
そのためにも俺もどんどん進んでいく。
もう過去をいつまでも振り返らないよ。新しい道を丈と築くって約束したから。
太陽のような二人は、俺にいつだってパワーを与えてくれる。
ずっと暗い場所にいた俺にとって、太陽の光は眩しすぎると思っていた。光を避け影を求め歩いて来た人生だった。丈に出逢うまでは……いや出逢ってからも、丈も月のように静かな人だったから同じような場所にいた。
でも安志と再会し、涼にも再会して……二人が付き合いだしてから、どんどん眩い光を放ち、日の当たらない場所にいた俺のところにまで、ぐいぐいと射し込んで来た。
影だったところに、光がやってきた。
誘われるように最初の一歩……もう一歩。
いざ踏み出してみれば少しも怖くはなかった。
ずっと忘れていた日向の匂い。明るい世界。
君たちがいてくれるなら、俺もそこに踏み出せる。
本当にそう思える大事な存在なんだ。
俺が月ならば、君たちは太陽だ。
太陽と月……
この先もずっとお互い支え合って、共に歩んでいきたい。
『太陽と月』 了
****
こんにちは。志生帆 海です。
いつも読んでくださってありがとうございます。
リアクションありがとうございます!すっごく励みになっています。
今日は以前やっていたTwitterに掲載した『切ない初恋』の140文字SSを三本こちらに転載します。いずれも安志&洋の高校時代の淡い思い出……このSSから話を膨らませた番外編をいつか書いてみたいです。
****(安志→洋)
突然の雨を頭から浴びた俺たちは、息を切らしトンネルへと逃げ込んだ。「大丈夫?」振り返った君の胸に、制服の白シャツがぴったりと張り付くのを見た瞬間、言葉を失った。届けたいのに届けられない幼馴染という距離がもどかしい。雨よまだ止むな。あと少し俺たちのBGMとして、この沈黙を支えてくれ。
****(安志→洋)
もう間に合わない。それでも君が旅立ってしまった空を追いたくて空港へ駆けつけた。どうして一言も告げずに行ってしまったのか。いや全部君を追い詰めた俺のせいだ。悔しさと後悔が滲み出る。流れる汗が目に沁みて視界がぐらっと霞む中、どんなに探しても青い空と白い雲しか俺には残っていなかった。
****(洋→安志)
飛行機が離陸する振動に、さよならを言えなかった弱い心が揺さぶられた。あんなに傍にいてくれた君なのに、告げられた言葉が重くて、逃げるように旅立つ俺を許してくれ。青空のように澄んだ君の心に、浮かぶ白い雲のように寄り添うことが出来ればどんなに良かったか。もう戻れない現実だけが俺を追う。
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いかがでしたか。
こんな風に短い文章で表現するのも好きです♡
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