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第9章
太陽と月2
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「丈、送ってくれてありがとう、行ってくるよ。あ……今日は宿直だったよな」
「あぁ帰りは迎えに行けないが大丈夫か。遅くなるようだったら涼くんの所に泊めてもらうか、流兄さん連絡しろ。決して夜道を一人で歩くんじゃないぞ」
「分かった。そうするよ」
全く……丈はいつまでも心配症だ。でも、それだけ俺は心配をかけてきたということなので、素直に受け止めた。
大船駅まで送ってもらって助かった。流さんが、まさかあんな短時間でこんなに総菜を作れるなんて驚いたな。きんぴらごぼうに、肉じゃが、ほうれん草のお浸し。田楽にひじきの煮物。どれも独り暮らしの涼に食べさせたいものばかり。
大きな重箱に詰め、気温が高いから腐らないようにと保冷剤を沢山入れてもらったので、正直かなり重たい荷物になっていたので、東海道線に乗り横浜駅で東横線に乗り換えて、涼の住んでいる駅に降り立つ頃には、へとへとになっていた。
情けない。
普段あまりにも穏やかで静かな北鎌倉で過ごしているせいか、人混みがどんどん苦手になってきている。保冷バッグの重みで手がぷるぷると震えてしまった。
「遠いな……」
涼の家へ続く坂道が身に堪える。
もう梅雨明け間近なのだろうか。あんなに降っていた雨は止み、頭上には夏を思わせるギラギラとした太陽がさんさんと輝いている。
この辺りには一服の涼を取れる紫陽花の花はないのか。北鎌倉では、まだ瑞々しく溢れていたのに。
炎天下を歩けば歩くほど、汗が額から滴り落ち、背中も汗ばんできて気持ちが悪かった。それに昨夜丈に長時間抱かれた余韻が残っていて、急に気怠くなってしまい、とうとう足が止まってしまった。
まずいな……貧血を起こすわけにはいかない。あの木陰で少し休もう。
自分の躰のことは自分が一番よく分かっている。貧血持ちなのは相変わらずだ。まったく男なのに弱々しくて嫌になるよ。
日陰のベンチに座って、はぁはぁと上がってしまった息を整え、ハンドタオルで汗を拭っていると、突然ガサッっと茂みに黒い影が差した。
「誰っ?」
思わず身構えてしまったが、その緊張はすぐに解けた。
「安志! 」
「洋、なにやってんだ? こんな薄暗い所で」
久しぶりに会う安志は、ジーンズにTシャツというラフな姿だった。最近はスーツ姿が多かったので、こういう恰好は久しぶりだ。なんだか昔を思い出す。
「あ……その……涼の所に、これを持っていこうと思って」
「なんだそれ? 随分と重そうだな」
「ん……流さんが、あっ丈のお兄さんが、涼の為に沢山おかずを作ってくれて」
「へぇ~それは喜ぶよ。あいつ凄い食いしん坊だ。っていうか若いから食べ盛りなんだろうけどさ」
「そっか。そうだよな。あ…安志も涼のところへ行く所か」
「あぁほら貸せよ。持ってやる! ここは暑いから詳しいことは涼の家で話そう」
「そうだな」
「さぁ行こう! 」
安志がヒョイと片手でベンチに置いていた重たい保冷バッグを持ちあげて、スタスタと歩き出したので、慌てて追いかけようとすると、突然ぐらりと視界が揺らいでしまった。
「あっ…」
視界に真っ暗なシャッターが下りて、安志の声がザーッと遠くに聴こえて……
貧血だ……
「洋っ!危ない」
「あぁ帰りは迎えに行けないが大丈夫か。遅くなるようだったら涼くんの所に泊めてもらうか、流兄さん連絡しろ。決して夜道を一人で歩くんじゃないぞ」
「分かった。そうするよ」
全く……丈はいつまでも心配症だ。でも、それだけ俺は心配をかけてきたということなので、素直に受け止めた。
大船駅まで送ってもらって助かった。流さんが、まさかあんな短時間でこんなに総菜を作れるなんて驚いたな。きんぴらごぼうに、肉じゃが、ほうれん草のお浸し。田楽にひじきの煮物。どれも独り暮らしの涼に食べさせたいものばかり。
大きな重箱に詰め、気温が高いから腐らないようにと保冷剤を沢山入れてもらったので、正直かなり重たい荷物になっていたので、東海道線に乗り横浜駅で東横線に乗り換えて、涼の住んでいる駅に降り立つ頃には、へとへとになっていた。
情けない。
普段あまりにも穏やかで静かな北鎌倉で過ごしているせいか、人混みがどんどん苦手になってきている。保冷バッグの重みで手がぷるぷると震えてしまった。
「遠いな……」
涼の家へ続く坂道が身に堪える。
もう梅雨明け間近なのだろうか。あんなに降っていた雨は止み、頭上には夏を思わせるギラギラとした太陽がさんさんと輝いている。
この辺りには一服の涼を取れる紫陽花の花はないのか。北鎌倉では、まだ瑞々しく溢れていたのに。
炎天下を歩けば歩くほど、汗が額から滴り落ち、背中も汗ばんできて気持ちが悪かった。それに昨夜丈に長時間抱かれた余韻が残っていて、急に気怠くなってしまい、とうとう足が止まってしまった。
まずいな……貧血を起こすわけにはいかない。あの木陰で少し休もう。
自分の躰のことは自分が一番よく分かっている。貧血持ちなのは相変わらずだ。まったく男なのに弱々しくて嫌になるよ。
日陰のベンチに座って、はぁはぁと上がってしまった息を整え、ハンドタオルで汗を拭っていると、突然ガサッっと茂みに黒い影が差した。
「誰っ?」
思わず身構えてしまったが、その緊張はすぐに解けた。
「安志! 」
「洋、なにやってんだ? こんな薄暗い所で」
久しぶりに会う安志は、ジーンズにTシャツというラフな姿だった。最近はスーツ姿が多かったので、こういう恰好は久しぶりだ。なんだか昔を思い出す。
「あ……その……涼の所に、これを持っていこうと思って」
「なんだそれ? 随分と重そうだな」
「ん……流さんが、あっ丈のお兄さんが、涼の為に沢山おかずを作ってくれて」
「へぇ~それは喜ぶよ。あいつ凄い食いしん坊だ。っていうか若いから食べ盛りなんだろうけどさ」
「そっか。そうだよな。あ…安志も涼のところへ行く所か」
「あぁほら貸せよ。持ってやる! ここは暑いから詳しいことは涼の家で話そう」
「そうだな」
「さぁ行こう! 」
安志がヒョイと片手でベンチに置いていた重たい保冷バッグを持ちあげて、スタスタと歩き出したので、慌てて追いかけようとすると、突然ぐらりと視界が揺らいでしまった。
「あっ…」
視界に真っ暗なシャッターが下りて、安志の声がザーッと遠くに聴こえて……
貧血だ……
「洋っ!危ない」
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