重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
530 / 1,657
第9章

太陽と月1

しおりを挟む

「あと洗濯機も欲しいな」
「洗濯機? そんなものまで? 」
「あぁ朝っぱらから私が母屋で洗濯していると、流兄さんにニヤニヤとした目で見られるのが、私が居たたまれない」
「あっそうか……ごめん」

 俺は朝食の手伝いで忙しくて、そこまで気がまわっていなかった。

 でも、夜な夜な俺を抱こうとする丈も悪い。いや……それに応じ、結局は俺だって丈を求めてやまないのだから同じだけど。

 思わす苦笑してしまった。

「じゃあそのリフォームをする暁には、洗濯機もここに置こう」
「いいのか。リフォームしても? 」
「もちろんだよ。丈の好きなようにしていいよ」
「いや、ちゃんと洋の意見も取り入れたい。二人の家なんだから」
「俺の? 」

 リフォームか。この和室も風情が合って気に入っていたが、丈の話を聞くと確かにいろいろ居たたまれない。丈が提案してくれたことを想像すると、ぼんやりと頭の中に間取りが浮かんで来て、なんだか気恥ずかしくなってしまった。

「なんか、本当に新婚生活って感じだな」
「洋、それで間違ってない」
「ははっ、じゃあ俺は仕事部屋が欲しいかな」
「個室か? 」
「いや……丈もよく仕事を持ち帰っているし、俺も翻訳の仕事がちらほら入ってきているし……そうだな、丈と並んで勉強したいな」
「じゃあ、机を横に並べて配置しよう、後ろには背が高い本棚も置こう」
「あぁそれいいね。でも仕事部屋では厳禁だぞ」
「分かっている。他の部屋では、いいってことだな」
「はぁまったく君の想像力と欲望はどこまでも豊かだな」

 朝食の時、丈からお父さんと翠さん流さんに、離れをリフォーム工事したい旨を申し出ると快諾してもらえた。おまけに翠さんの同級生の建築事務所まで紹介してもらえることになって、いよいよとんとん拍子に進みそうだ。

「それから洋くん……お墓のことだが」
「はい」
「お母さんのお墓をどうするつもりだ? よかったらこの寺に※改装してはどうかね? 君にその気があるのなら、月影寺の墓地への『受入証明書』(永代使用許可書等)を発行させて欲しいのだが」
「ありがとうございます。その……もしよかったら俺の父の墓も一緒にこちらへお願いしたいのですが」
「あぁもちろんだよ。その手続きは私に任せなさい。君はもう息子だから甘えていいんだよ」
「ありがとうございます。お……とうさん」

 初めてそう呼んだ。

 丈のお父さんも嬉しそうに微笑んでくれ、胸が熱くなる。
 すべてを許してくれる慈悲深い微笑みだ。

「なんだい?」
「ありがとうございます、何から何まで……こんな俺なのに」
「それは違うよ。洋くんだからだ。丈のことをどうか頼むよ。丈がこんなに人に興味を持つなんて、初めてだ。君が丈を人間らしくしてくれたんだよ。人を心の底から愛することが何かを教えてくれたのだ」
「俺は、そんなこと……」

 俺の方こそ、人から心の底から無条件に愛されることの暖かさを思い出させてもらった。最初は父の墓の隣に母の墓を持ってこようと思っていた。それは夕凪と夕顔さんの話を知らなかったら。

 丈と俺の出会いに繋がる二人のこと。夕顔さんの魂はもしかしたら俺の母に繋がっているのかもしれない。だから二つの魂を会わせてあげたい。そういう気持ちが芽生えたので、父と母の墓を月影寺へと移してもらうことにした。

 有難い申し出だった。

「洋くん、忙しくなるな」

 流さんが笑顔で、大きな包みを台所から持って来てくれた。

「これは? 」
「ほら、今日報告に行くんだろ、君の従兄弟の涼くんだっけ? 彼のところに」
「あっはい。でもこれは? 」
「彼は一人暮らしだろう。いろんな総菜を作ってあるから、差し入れてあげるといい」
「わっ!嬉しいです!ありがとうございます!」

 朝食を作っている時に涼のことをちらっと話しただけなのに、こんなに用意してくれて、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 涼には、本当にいろいろ心配かけたし、アメリカの彼の両親からも頼まれているので、一度様子を見に行こうと思っていた。

「洋は今日は涼くんの家にいくのか」
「うん、そうするよ。やっぱり会って話したい。俺の大事な肉親だしね」
「そうだな、それがいい」





※改葬…お墓(お骨)を移動させること。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...