重なる月

志生帆 海

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第9章

星空を駆け抜けて5

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 深い行為の余韻で疲れてまどろんでいる俺の躰を、丈が綺麗に拭いてくれ、浴衣も新しいものに着替えさせてくれた。

「洋、水飲むか」
「ん……」
「しかし暑いな、この部屋は」

 額に浮かぶ汗を拭いながら丈のことを見上げると、丈の方も暑そうな顔をしていた。本当に二人共汗だくだ。

「丈があんなに激しく抱くから、死ぬかと思った」
「悪いな、久しぶりだったから。躰は痛くないか」
「……なんとか」

 なんとなく冷静になると、さっきまでの貪り合うような行為が恥ずかしくなり、照れ臭く笑い合った。

 しかしここは暑い。お寺の古い離れは驚いたことに冷房が備わっていなかったので、流石に室内は蒸し暑かった。窓辺に吊るした風鈴がいくばくかの涼を運んでくれるが、この夏を到底しのげそうもない。

「そうだ……洋、聞いてくれないか」
「何? 」
「洋と入籍したらその記念に、この部屋をリフォームしたらいいかと思っているのだが、どう思う? 」
「え?」

 突然の申し出だった。

「洋を抱いた後一緒に入れる風呂も欲しいし、冷房も欲しい。それからミニキッチンがあれば、朝疲れて起き上がれない洋に美味しい朝食も作ってやれるしな。それからバーカウンターも必要だ。夜一緒に酒も飲めるし、酔って赤く染まった洋を抱くのも可愛いしな。どうだ?」
「はっ驚いたな、そんなこと考えていたのか」
「まぁな。洋を抱く度に、こう汗まみれになるんじゃ大変だからな」
「なんか……それって……すごく目的のはっきりしたリフォームだな」
「ははっ。私の頭の中はそればかりだ」
「丈……君って人は、全く」

 可笑しかったし、嬉しかった。

 普段は白衣を着て、立派に医師をしているくせに……俺のことになるとこんなになってしまう丈がなんだか妙に愛おしかった。俺はこの愛を一身に受けて。これからここでずっと生活していくんだな。

「それから、もう七日まで日数もないから、洋が呼びたい人にそろそろ連絡をしておくといい。安志くんと涼くん、それからKaiくんにも来てもらうか」
「あ……そうだね。涼には絶対と言われているから、明日連絡してみる。安志にももちろん。あとはKaiにもアメリカで世話になったし後で電話してみる。ソウルからだから来れるか分からないけどね。あとはどうだろう。陸さんたちも来てくれるかな」
「そうだな。声をかけてみるといい。後悔のないように」
「んっそうする」
「おいで、洋」

 新しいシーツに取り換えた布団に、呼ばれた。

「ん……もう何もするなよ? せっかく綺麗にしたんだから」
「あぁもう寝よう。こんな時間になってしまった」

 布団に入ると、優しく丈に抱きしめられた。丈の躰は俺より一回り大きいので、抱きしめられるとすっぽりとした安定感があって落ち着く。心臓の音が規則正しく子守歌のように聴こえて来て、うとうとと眠気がやってくる。

二人きりの世界は、こんなにも平和で静かだ。

硝子窓の向こうには満天の星空。
星空の向こうには、遥か彼方の世界があるのか。
あの星空を駆け抜けて、皆に報告したい気分だ。

洋月、夕凪に、ヨウに……それから父さんと母さんにも

今、俺は……

「幸せになれる」

その想いで満ちていることを。



「星空を駆け抜けて」了
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