重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
529 / 1,657
第9章

星空を駆け抜けて5

しおりを挟む
 深い行為の余韻で疲れてまどろんでいる俺の躰を、丈が綺麗に拭いてくれ、浴衣も新しいものに着替えさせてくれた。

「洋、水飲むか」
「ん……」
「しかし暑いな、この部屋は」

 額に浮かぶ汗を拭いながら丈のことを見上げると、丈の方も暑そうな顔をしていた。本当に二人共汗だくだ。

「丈があんなに激しく抱くから、死ぬかと思った」
「悪いな、久しぶりだったから。躰は痛くないか」
「……なんとか」

 なんとなく冷静になると、さっきまでの貪り合うような行為が恥ずかしくなり、照れ臭く笑い合った。

 しかしここは暑い。お寺の古い離れは驚いたことに冷房が備わっていなかったので、流石に室内は蒸し暑かった。窓辺に吊るした風鈴がいくばくかの涼を運んでくれるが、この夏を到底しのげそうもない。

「そうだ……洋、聞いてくれないか」
「何? 」
「洋と入籍したらその記念に、この部屋をリフォームしたらいいかと思っているのだが、どう思う? 」
「え?」

 突然の申し出だった。

「洋を抱いた後一緒に入れる風呂も欲しいし、冷房も欲しい。それからミニキッチンがあれば、朝疲れて起き上がれない洋に美味しい朝食も作ってやれるしな。それからバーカウンターも必要だ。夜一緒に酒も飲めるし、酔って赤く染まった洋を抱くのも可愛いしな。どうだ?」
「はっ驚いたな、そんなこと考えていたのか」
「まぁな。洋を抱く度に、こう汗まみれになるんじゃ大変だからな」
「なんか……それって……すごく目的のはっきりしたリフォームだな」
「ははっ。私の頭の中はそればかりだ」
「丈……君って人は、全く」

 可笑しかったし、嬉しかった。

 普段は白衣を着て、立派に医師をしているくせに……俺のことになるとこんなになってしまう丈がなんだか妙に愛おしかった。俺はこの愛を一身に受けて。これからここでずっと生活していくんだな。

「それから、もう七日まで日数もないから、洋が呼びたい人にそろそろ連絡をしておくといい。安志くんと涼くん、それからKaiくんにも来てもらうか」
「あ……そうだね。涼には絶対と言われているから、明日連絡してみる。安志にももちろん。あとはKaiにもアメリカで世話になったし後で電話してみる。ソウルからだから来れるか分からないけどね。あとはどうだろう。陸さんたちも来てくれるかな」
「そうだな。声をかけてみるといい。後悔のないように」
「んっそうする」
「おいで、洋」

 新しいシーツに取り換えた布団に、呼ばれた。

「ん……もう何もするなよ? せっかく綺麗にしたんだから」
「あぁもう寝よう。こんな時間になってしまった」

 布団に入ると、優しく丈に抱きしめられた。丈の躰は俺より一回り大きいので、抱きしめられるとすっぽりとした安定感があって落ち着く。心臓の音が規則正しく子守歌のように聴こえて来て、うとうとと眠気がやってくる。

二人きりの世界は、こんなにも平和で静かだ。

硝子窓の向こうには満天の星空。
星空の向こうには、遥か彼方の世界があるのか。
あの星空を駆け抜けて、皆に報告したい気分だ。

洋月、夕凪に、ヨウに……それから父さんと母さんにも

今、俺は……

「幸せになれる」

その想いで満ちていることを。



「星空を駆け抜けて」了
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...