重なる月

志生帆 海

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第9章

星空を駆け抜けて4

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R18

「待たせたな」
「んっ……待った」
「ふっ怒ったのか。ここにおいで」

 丈が俺に手を差し伸べてくれ、そのまま丈の膝の上へ導かれたので、少し躊躇したのち俺はそこへ思い切って座った。そして一緒にモニター画面を覗き込むと、首筋に丈の吐息がかかってくすぐったかった。

「あっ……」

 モニターの画面いっぱいに白い花の画像が広がっていた。

 どこかで見たような懐かしい花。
 星ような形の乳白色の花。

 これは……

「この花は?」
「さっきの着物に描かれていた花だよ。何の花か知りたくなって、ずっと調べていたのだ」
「なんだ、そういうことか」

 心配した。俺のこと忘れて夢中になっているから、何事かと思ったんだぞ。

「なかなかマニアックですぐに検索できなくてな、私はこういう所ムキになってしまう」

苦笑しながら、丈はマウスをクリックして次の画面を開いて見せた。

「ほら、これだ」

【オーソニガラム】

和名はアマナという植物に似ていることから付けられた。英名のスターオブベツレヘム:Star of Bethlehemはキリストの誕生を知らせた星から付けられた名前。学名の Ornithogalum はギリシャ語で「鳥」の意味 “Ornithos” と、「乳」の意味 “gala” という言葉が語源になっている。白乳色をした花の色が由来。 

「この『オーニソガラム』という花じゃないか。あの着物に描かれていた花は」
「あっそうか!きっとそうだ!」
「ここを見てみろ」

そういって丈がスクロールした画面には、誕生花についての説明が書かれていた。

………
オーニソガラム花言葉・Star of Bethlehem
「purity(純粋)」「reconciliation(和解)」「hope(希望)」
花言葉の「純粋」は、オーニソガラムの清楚でけがれのない花姿にちなんで。
茎の長い種はウェディングブーケにも用いられます。
 
オーニソガラム誕生花
2月27日
 
オーニソガラムの季節・開花時期
旬の季節: 春~初夏
開花時期: 3月~6月
………

「え……二月二十七日って」
「そうだ。洋の誕生日だな」

「すごい……一体夕凪はこれをどんな想いで着物に描いたのか。あっこの花、もしかしたらよく探したら月影寺にあるのかもしれない。丈っ、探しにいこう」

 思わず立ち上がっていた。今すぐこの目で見たかった。夕凪が描いてくれたこの花を!

「おいおい洋、落ち着け。今じゃなくてもいいだろう。明日明るくなってからでも」
「でも……」
「続きをしたい」

 丈が真面目な低い声で囁いた。

「続きって?」

 立ち上がろうとした躰をもう一度抱き留められて、膝上に座らされると、微かに布越しに丈のものを感じてしまった。

「昼間のに決まってる」

 そう囁きながら俺の首筋に唇をちゅっとあててきた。

「あっ」
「洋、その浴衣似合っているな」

 丈の大きな手のひらが、滑り込んでくる。浴衣の袷から簡単に胸元へと。そしてやわやわと解すように平らな胸を揉まれると、ぶるっと身震いした。

 俺の方だって、あのままじゃ……無理矢理収めていた熱はすぐに弾けだす。

「さっきは辛かったぞ」
「丈っ意地悪ばかり言うな、辛かったのは俺も同じだ」
「洋から気持ち良くなれ」
「んっ……あっ…あ…」

 雨のように矢継に降り注ぐ背後からのキスに、躰がぞくぞくと跳ねだす。そんな俺の動きを静めるかのように、丈の手のひらが俺の胸を、腰を抱き留めていく。

 いつの間にか片肌が脱げ、肌が露わになっている。浴衣の裾も大きく割られ、丈の手によって俺のものが握りしめられている。

 扱くように揉み込まれてしまえば、限界近くになっていた俺のものからは蜜が溢れ、丈の指先を濡らし、クチュリと卑猥な音を立てていた。

「洋っ限界か」
「んっん、一緒に……あっでも、ここじゃ」

 露わになった太腿を丈が掴んで広げて来る。いつのまに丈のものが直接尻たぶに当たっていて、羞恥に顔が染まっていくのが自分でも分かった。

「熱い……熱いから」
「ここで、このまま」

 そっと丈の指先が確かめるように俺の窄まりに触れてくる。いつの間にゆっくりと時に性急に解され、クリームを多めに塗られていく。

「んあっ!」
「もう大丈夫そうだな。痛かったら言え」
「あっ……あ…」

 椅子の上で露わになっていく下半身。腰を丈の逞しい手でぐっと支えられ、一気に貫かれていく。

「はうっ!」

 もう痛くはなかった。
 丈の熱しか感じなかった。

 腰を揺らされ、項を吸われ胸を揉まれる。いやらしくも官能的に俺を求めて来る丈。

 俺は余計なことを考える隙を与えず、一気に攻めあげられ、息も絶え絶えに快楽の海へと溺れていく。

 丈だけだ。

 俺をこんな風にしてもいいのは丈だけだ。

 座ったままの姿勢で背後から突き上げられ、いつもよりも擦れて気持ち良くて、たまらず涙が込み上げて来た。悲しいのではない。こんなにも俺を求めてくれる営みを受け止めるのが嬉しいのだ。

「好きだ……丈のことが好きなんだ」
「あぁ分かってる。私もだ」

 そのまま顎を掬われ後ろを向かされ、キスをされる。求められるがままに、俺は体を委ねていく。その間も胸やたかまりを愛撫する手は止まらない。

「丈っ、もうっもう我慢できない」
「共に行くか」
「んっ」

 一緒に、一緒にいきたい。

 高まっていく躰、目の前に一瞬さっきみた白き花が広がった。

 星のようにスパークして、頭が真っ白になって弾けた。

「はうっ!」
「くっ」

 同時だった。俺と丈は同時にいった。それから弾けた星が空からキラキラと降ってくるような余韻を感じ、そのまま丈の広い胸にもたれた。

「ふぅ……」

 丈の胸も俺の躰も汗でしっとりと濡れていた。逞しい腕と胸に体を預け、一気に沈んでいく。

 そこは暖かく広い海の中だったが、もう怖くない、一人じゃない。

 それを噛みしめる瞬間だった。

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