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第9章
雨の降る音 6
しおりを挟む「おばさん、あの、とにかくどうぞ中へ」
「そうね、でも……いいの? どなたかいるんじゃないの?」
おばさんがキョロキョロと部屋を見まわしている様子を見て、いい機会だからちゃんと丈を紹介しよう。後で来てもらおうと覚悟を決めた。
「あっその……後でちゃんと紹介します」
そう言い終えると躰から緊張の汗が噴き出してた。そんな風にそわそわしている俺の様子を見て、おばさんは苦笑していた。
「洋くん、おばさん……もしかして、とってもとっても間が悪かった? 」
「いえっそうじゃなくて……」
なんだか、さっきまで俺が丈としていた行為がお見通しのような気がして、顔がかっと赤く染まった。
「あぁでも久しぶりよ、この家にあがるのは。夕が再婚してからはなかなかね。そうだ、洋くんここ覚えている?」
廊下にある柱を指さされたので、なんだろうとじっと見たがよく分からなかった。
「違うわ。ほら、もっと下よ」
今度はしゃがみ込んでじっと焦げ茶色の柱を見ると、黒いマジックで何か書かれていた。
母の文字ではなかった。男らしい文字で柱に書き込まれていたのは、俺の背丈だった。
父が書いてくれたのか……これを。
洋 2月27日生まれ
洋1歳の誕生日 73cm
洋2歳6か月 80cm
洋3歳の誕生日 85cm
誕生日ごとに……細かく刻まれた身長……
6歳……7歳まで続いていた。
父さん……ほとんど記憶にない父さんに触れることができて、胸がきゅっとなった。
さっきまでこの家を手放してしまいたいと思っていたのに、この家にはこんなにも愛が溢れているのかと気が付いて、自分の安易な考えを恥じてしまった。
「懐かしいわね。洋くんは2月生まれで小さかったのよね。うちの安志は5月生まれで、同級生に見えないほど身長差があったわ。そうそう誕生日の時、必ず浅岡さんが洋くんをここに立たせて嬉しそうに記入していたのを思い出すわ」
「俺には……あまり父の記憶がなくて……」
「そうよね。まだ7歳だったものね。あれから20年も経ったなんて信じられないわ。小さかった洋くんも見上げるほど大きくなって……浅岡さんが生きていたら、どんなに喜んだことか」
ふと、おばさんが重たそうに持っている荷物が気になった。
「あの一体それ何ですか」
「あぁこれね。そうそうこれを渡したくて来たんだったわ。ねぇ見てくれる?」
そう言いながら、おばさんはダイニングテーブルにその荷物を置いて包みを開いた。
「あっ!これって…」
その包みの中には……
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