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第9章
雨の降る音 5
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丈が塗った軟膏が、俺の躰の熱によってじわじわと溶けだして来た。その部分は丈を迎える準備が整い、期待に満ちて恥ずかしくも震え出しているのが、自分でも分かってしまう。
本当にいつから俺の躰は、こんなになってしまったのか。
そんな刹那、突然玄関のインターホンが大きく鳴ったので、丈も俺も飛び上がるほど驚いてしまった。
「誰だ?」
「えっ……あっまさか……」
思い当たるのは……弁護士事務所で丈が先生と話し込んでいる間に安志に電話したことだった。
****
「もしもし安志?」
「おお! 洋じゃないか。どうした? もしかして帰国したのか」
「ん、昨夜遅くに……すぐに電話出来なくてごめん」
「そっかそっか……お帰り。向こうで上手くいった? 今どこだ? 」
「実は早速、丈と弁護士事務所に来ていて。その……養子の離縁届のことで」
「なら上手く行ったんだな。もう役所に出せるのか」
「うん書類は揃ったから、今から出しに行こうと思って」
「良かったな。で、何処に出すんだ? 」
「俺の家の区役所に行こうと思って……本籍地だし」
「へぇなら俺の実家の近所じゃん。母さんに言っておくよ」
「え? なんで」
「なんか洋に渡したいものあるから、近くまで来たら寄ってって頼まれていてさ」
「そうなんだ。今からそっちには向かうけど……おばさんの家には俺が寄るよ」
「そうか、じゃあそう伝えておくよ。今日は家にいると思うから」
「よろしくな」
通話を終えるなり、丈に呼ばれた。
「洋、そろそろ行くぞ、誰かに電話してたのか」
「うん、安志に帰国したこと伝えてた」
「そうか。安志くんにはしっかり伝えておかないと、後から大変だからな」
****
ってことは……まさか!
玄関のインターホンがもう一度鳴る。丈は俺の上で少し困った笑顔を浮かべていた。
「洋、どうせなにかの勧誘かなんかだろう、無視して続きを……」
そう言いながら俺にキスをして続行しようとした矢先、更にもう一度インターホンが鳴った。
「いやっ違うみたいだ。駄目だ」
俺は丈を跳ねのけて飛び起きた。インターホンに出ると、相手はやっぱり!
「おっ……おばさん!」
「よかった。やっぱりここに洋くんいたのね。開けてもらえるかしら」
「あっ……今ちょっと……すみませんっ。少しだけ待って下さい」
モニターに映ったのは、安志のお母さんだ。慌てて脱がされたズボンを履いて、シャツのボタンを留めて下に降りようと急いだ。
「洋っ待て、一体誰だ? 」
怪訝そうな表情の丈だった。本当にこんな最中で中断なんて悪いと思うが……こればかりはしょうがない。
「ごめん、安志のお母さんが来たから出なきゃ」
「はっ? なんでまた」
「さっき安志に電話した時……何か渡したいものがあるからって」
「はぁ……」
「とっとにかく丈はここで待っていて」
ムスっとする丈を置いて階段を降りてしまった。
洗面所の鏡で乱れた髪を直し、洋服も整える。
だっ大丈夫だろうか。さっきまで丈に抱かれて火照っていた躰の高まり。何度も違うことを考えて深呼吸してから、玄関をそっと開けた。
「すみません。お待たせして」
「こちらこそ急にごめんなさいね。忙しかったの?」
「いや……そういうわけじゃ」
「おばさん、安志から我が家に寄ってくれるって聞いたけれどもね、この家に洋くんがいるって聞いたら無性に懐かしくなって、来ちゃった。ここは幼い安志を連れて遊びにきた家だから…」
「そうなんですね」
安志のお母さんと俺の母は親友同士だった。俺達が赤ん坊の時はよくお互いの家を行き来していたと聞いていた。手には何か重そうな大きな荷物を持っていたので、中へ案内した方が良さそうだと判断した。
「おばさん、どうぞ入ってください」
「いいの? あら? でも……どなたかお客さんじゃ……」
おばさんの俯いた視線を辿ると、そこには丈の革靴があった。どうみても男物の大きなサイズだよな。
「洋くん、珍しいわね。誰かお友達と一緒なの? 」
「えっと……その……」
どうしよう……丈、この場合どうしたらいいんだ?
助け舟が欲しくなり、階段の上を見つめてしまった。
本当にいつから俺の躰は、こんなになってしまったのか。
そんな刹那、突然玄関のインターホンが大きく鳴ったので、丈も俺も飛び上がるほど驚いてしまった。
「誰だ?」
「えっ……あっまさか……」
思い当たるのは……弁護士事務所で丈が先生と話し込んでいる間に安志に電話したことだった。
****
「もしもし安志?」
「おお! 洋じゃないか。どうした? もしかして帰国したのか」
「ん、昨夜遅くに……すぐに電話出来なくてごめん」
「そっかそっか……お帰り。向こうで上手くいった? 今どこだ? 」
「実は早速、丈と弁護士事務所に来ていて。その……養子の離縁届のことで」
「なら上手く行ったんだな。もう役所に出せるのか」
「うん書類は揃ったから、今から出しに行こうと思って」
「良かったな。で、何処に出すんだ? 」
「俺の家の区役所に行こうと思って……本籍地だし」
「へぇなら俺の実家の近所じゃん。母さんに言っておくよ」
「え? なんで」
「なんか洋に渡したいものあるから、近くまで来たら寄ってって頼まれていてさ」
「そうなんだ。今からそっちには向かうけど……おばさんの家には俺が寄るよ」
「そうか、じゃあそう伝えておくよ。今日は家にいると思うから」
「よろしくな」
通話を終えるなり、丈に呼ばれた。
「洋、そろそろ行くぞ、誰かに電話してたのか」
「うん、安志に帰国したこと伝えてた」
「そうか。安志くんにはしっかり伝えておかないと、後から大変だからな」
****
ってことは……まさか!
玄関のインターホンがもう一度鳴る。丈は俺の上で少し困った笑顔を浮かべていた。
「洋、どうせなにかの勧誘かなんかだろう、無視して続きを……」
そう言いながら俺にキスをして続行しようとした矢先、更にもう一度インターホンが鳴った。
「いやっ違うみたいだ。駄目だ」
俺は丈を跳ねのけて飛び起きた。インターホンに出ると、相手はやっぱり!
「おっ……おばさん!」
「よかった。やっぱりここに洋くんいたのね。開けてもらえるかしら」
「あっ……今ちょっと……すみませんっ。少しだけ待って下さい」
モニターに映ったのは、安志のお母さんだ。慌てて脱がされたズボンを履いて、シャツのボタンを留めて下に降りようと急いだ。
「洋っ待て、一体誰だ? 」
怪訝そうな表情の丈だった。本当にこんな最中で中断なんて悪いと思うが……こればかりはしょうがない。
「ごめん、安志のお母さんが来たから出なきゃ」
「はっ? なんでまた」
「さっき安志に電話した時……何か渡したいものがあるからって」
「はぁ……」
「とっとにかく丈はここで待っていて」
ムスっとする丈を置いて階段を降りてしまった。
洗面所の鏡で乱れた髪を直し、洋服も整える。
だっ大丈夫だろうか。さっきまで丈に抱かれて火照っていた躰の高まり。何度も違うことを考えて深呼吸してから、玄関をそっと開けた。
「すみません。お待たせして」
「こちらこそ急にごめんなさいね。忙しかったの?」
「いや……そういうわけじゃ」
「おばさん、安志から我が家に寄ってくれるって聞いたけれどもね、この家に洋くんがいるって聞いたら無性に懐かしくなって、来ちゃった。ここは幼い安志を連れて遊びにきた家だから…」
「そうなんですね」
安志のお母さんと俺の母は親友同士だった。俺達が赤ん坊の時はよくお互いの家を行き来していたと聞いていた。手には何か重そうな大きな荷物を持っていたので、中へ案内した方が良さそうだと判断した。
「おばさん、どうぞ入ってください」
「いいの? あら? でも……どなたかお客さんじゃ……」
おばさんの俯いた視線を辿ると、そこには丈の革靴があった。どうみても男物の大きなサイズだよな。
「洋くん、珍しいわね。誰かお友達と一緒なの? 」
「えっと……その……」
どうしよう……丈、この場合どうしたらいいんだ?
助け舟が欲しくなり、階段の上を見つめてしまった。
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