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第9章
一滴の時 4
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「じょっ……丈、何言ってんだ? 正気か」
「あぁ風呂に二人で入っても問題ないだろ」
「いやそういう問題じゃ……」
「洋の躰をじっくり見たい」
「なっ変態っ!!」
思わず悪態をついてしまった。
だって母屋の風呂場に二人で入るなんて無理に決まってる。すぐ近くには翠さんの書斎や流さんが後片付けをしている台所もあるし、丈がまた何か意地悪をするんじゃないかって心配になってくる。
「私だって……日本でずっと心配していたんだ」
「はぁ……丈は狡いな」
でも、そんな眼で心配していたと言われたら、もう断れないじゃないよ。
****
結局丈に負けて、俺は着替えを持って母屋の風呂場にやって来た。脱衣場の扉を閉めた途端、丈は無言で後ろから手を伸ばし俺の服を脱がし始めた。
着ていたリネンシャツのボタンを一つずつ丁寧に外され裸にされた後、手首に丈の指がそっと触れた。そしてうっすらとまだ残っている痣を見つけては、深いため息を漏らした。
あっ……怒られる?
思わず躰を竦めてしまったが、丈は何も言わなかったし聞かなかった。不思議に思い、振り向こうとした途端、そのまま無言でバックハグされ、丈の大きく薄い逞しい手のひらが、ピタリと俺の鎖骨あたりを覆った。
その手の動きが少しだけ震えているような気がして、俺は自分の手をそこに重ねてやった。
すると丈がもう片方の手を添えて、ぎゅっと力を込めた。その力と熱と共に、俺の躰に丈の気持ちがすっと入って来る。言葉には出さないけれども、丈が心配しているのがひしひしと伝わって来る。
「そういえば……いつもかけていた月輪のネックレスはどうした? 」
あっそうだった。月輪……その話をまだしていなかった。
「実は向こうで署名をもらった時に、突然粉々に割れて光の雫となって、消えたんだ……」
「そうか、やっぱりそうなんだな」
「知っていたのか」
「あの日、恐らく洋が崔加氏と対面していた時間帯だろう。私の月輪が光って、その後どこからともなくやってきた一つの光の破片を吸い込んだんだ」
「そうだったのか。その破片ってもしかして……」
「あぁきっと洋のものだったのだろう」
そうか……そうだ、もう俺達を結びつけるための月輪は二つもいらない。重なるための時は過ぎ、この先は俺たちは一つになって同じ場所で生きていくのだから。
「さぁ冷えるぞ、風呂に入ろう」
「うん」
そのまま下着まで脱がされて、男二人で入るには少々手狭な浴槽へと導かれた。そして丈は脚を横に大きく開いて、股の間に俺を座らせた。
「ん……」
でもそれ以上は触れては来ない。何故だかいつもと違う仕草に不安を覚える。
「どうして……何も聞かない? 」
「……」
「俺が向こうで、どんな目にあったのかを、躰の傷に気が付いているくせに」
「もういいんだ。言わなくても分かる。何故だろうな、さっきはあんな言い方をしたが……本当はただこうやって洋のことを、産まれたままの姿の洋を抱きしめたかっただけなんだ」
「丈……」
「さぁ疲れただろう、洗ってやるから眠っていてもいいよ」
「あぁ」
丈の腕の中に、再び優しく包まれた。
湯船の中は温かく気持ち良くて……緊張していた躰も弛緩し、ウトウトと眠気がやってきた。丈の広い胸に頭をコトンと預けると、次第に瞼が重たくなって来た。
「おやすみ」
丈の声が遠くに聴こえて、俺は温かい陽だまりの中にいるような幸せな気持ちで満たされた。
「あぁ風呂に二人で入っても問題ないだろ」
「いやそういう問題じゃ……」
「洋の躰をじっくり見たい」
「なっ変態っ!!」
思わず悪態をついてしまった。
だって母屋の風呂場に二人で入るなんて無理に決まってる。すぐ近くには翠さんの書斎や流さんが後片付けをしている台所もあるし、丈がまた何か意地悪をするんじゃないかって心配になってくる。
「私だって……日本でずっと心配していたんだ」
「はぁ……丈は狡いな」
でも、そんな眼で心配していたと言われたら、もう断れないじゃないよ。
****
結局丈に負けて、俺は着替えを持って母屋の風呂場にやって来た。脱衣場の扉を閉めた途端、丈は無言で後ろから手を伸ばし俺の服を脱がし始めた。
着ていたリネンシャツのボタンを一つずつ丁寧に外され裸にされた後、手首に丈の指がそっと触れた。そしてうっすらとまだ残っている痣を見つけては、深いため息を漏らした。
あっ……怒られる?
思わず躰を竦めてしまったが、丈は何も言わなかったし聞かなかった。不思議に思い、振り向こうとした途端、そのまま無言でバックハグされ、丈の大きく薄い逞しい手のひらが、ピタリと俺の鎖骨あたりを覆った。
その手の動きが少しだけ震えているような気がして、俺は自分の手をそこに重ねてやった。
すると丈がもう片方の手を添えて、ぎゅっと力を込めた。その力と熱と共に、俺の躰に丈の気持ちがすっと入って来る。言葉には出さないけれども、丈が心配しているのがひしひしと伝わって来る。
「そういえば……いつもかけていた月輪のネックレスはどうした? 」
あっそうだった。月輪……その話をまだしていなかった。
「実は向こうで署名をもらった時に、突然粉々に割れて光の雫となって、消えたんだ……」
「そうか、やっぱりそうなんだな」
「知っていたのか」
「あの日、恐らく洋が崔加氏と対面していた時間帯だろう。私の月輪が光って、その後どこからともなくやってきた一つの光の破片を吸い込んだんだ」
「そうだったのか。その破片ってもしかして……」
「あぁきっと洋のものだったのだろう」
そうか……そうだ、もう俺達を結びつけるための月輪は二つもいらない。重なるための時は過ぎ、この先は俺たちは一つになって同じ場所で生きていくのだから。
「さぁ冷えるぞ、風呂に入ろう」
「うん」
そのまま下着まで脱がされて、男二人で入るには少々手狭な浴槽へと導かれた。そして丈は脚を横に大きく開いて、股の間に俺を座らせた。
「ん……」
でもそれ以上は触れては来ない。何故だかいつもと違う仕草に不安を覚える。
「どうして……何も聞かない? 」
「……」
「俺が向こうで、どんな目にあったのかを、躰の傷に気が付いているくせに」
「もういいんだ。言わなくても分かる。何故だろうな、さっきはあんな言い方をしたが……本当はただこうやって洋のことを、産まれたままの姿の洋を抱きしめたかっただけなんだ」
「丈……」
「さぁ疲れただろう、洗ってやるから眠っていてもいいよ」
「あぁ」
丈の腕の中に、再び優しく包まれた。
湯船の中は温かく気持ち良くて……緊張していた躰も弛緩し、ウトウトと眠気がやってきた。丈の広い胸に頭をコトンと預けると、次第に瞼が重たくなって来た。
「おやすみ」
丈の声が遠くに聴こえて、俺は温かい陽だまりの中にいるような幸せな気持ちで満たされた。
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