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第8章
光の破片 3
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「そんな……まさか…なんでお前がここに? 」
「俺のことが本当に分からなかったのですか」
「り……陸なのか……本当に」
「そうですよ」
冷酷な声で、俺は父にそう告げた。
明らかに父は動揺していた。それもそうだろう。自分と血の繋がった息子が突如現れ、しかもその息子は自分が義理の息子に犯した罪を知っているのだから。
本当は、こんな再会を夢見ていたわけじゃない。だが今の俺には、この再会がふさわしいと感じていた。
父が犯した罪の重さ。
それをまるで自分がしたことのように感じるのは何故だろう。おそらく俺にもどこか潜在的に後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。心の奥底で俺も洋をそんな風に貶めようとしていたのかもしれない。だが俺は父の二の舞を演ずるようなことがあってはならない。それならば道は一つ、洋を擁護する方を選びたい。
恨むのは簡単だが、許するのは難しい。
それにあえて挑みたい。
「KENT! KENTはいるか! 」
「はい」
父が大声で誰かを呼ぶと、すぐにその男性が駆けつけてきた。
「すまないが私を起こしてくれ。それから……書斎から、あれを持って来てくれ」
父の顔は蒼白だった。白人男性の介助によって、車椅子に座らせてもらう父の姿を見るのは悲しかった。発砲事件に巻き込まれて下半身不随になったと事前に聞いていたが、実際に目で見ると辛いものだ。
「はい、お待ちください」
「洋、お前は大丈夫か」
「あっ……ああ」
洋の方も俺の行動に驚いたようで、立ち尽くしていた。じっとその濡れたような目で、事の次第を見守っているようだった。
しばらくして、さっきの男性が手に何か冊子のような物を持って帰って来た。
「どうぞ」
「おお、ありがとう」
父の手に渡った黒い冊子。パラパラとめくり出すと、そこにあったのは……きちんとアルバムに収められた俺の写真だった。まだ幼い俺の笑顔がそこにはあった。赤ん坊の頃。幼稚園……小学校、そして小学生の父と別れた頃の写真。中学生の俺、サッカーをしている姿……母が写真を途中まで送っているのには気が付いていたが、父がその写真を受け取っても一度も俺に会いに来てくれなかったことばかりずっと恨んでいた。
だから送られた写真なんて、とっくに捨てられていたと思っていたのに……こんなにきちんとアルバムの納められていたなんて驚いた。
それから父は、俺の今の顔とアルバムの顔をじっと見比べた。
確かに十年前のあどけない中学生の頃とモデルになった二十八歳の今では、髪型もスタイルも何もかも変わってしまって、昔の同級生も気が付かない程なのは事実だ。
「おお確かに陸だ……君は本当に陸なんだな。なんてことだ……私は息子になんてことをしてしまったんだ。二人の息子になんてことを……ううっ…うっ…」
父が突如慟哭した。初めて見る姿だった。
躰を二つに折って肩を震わすその姿を、憐れに感じた。
立派な父だったのに、何故こんなことになってしまったのだろう。隣に立っている洋も動揺していた。何を話しかけて良いのか分からないように戸惑っていた。
「父さん……俺は、あなたのことを見捨てません。だからもうこれ以上罪を犯さないでください。洋を先に進ませてやってくれませんか。もうあなたの手元から放してやって下さい。戸籍という足枷はもう解いてやってください」
「陸さん……」
洋がはっとした顔で、状況を理解したらしく俺のことを見つめて来た。俺は洋に対して無言で頷いた。
許すんだ、守るんだ。
縁あって結びついた父の二人の息子。もう一人の俺なんだ……洋は。
「……陸……お前はこんな父でもいいのか。私がどんなに罪深いことを犯したか……洋にしたこと……お前は……すべて知っているのに……それでもいいのか」
「あぁ何もかも知った上で、俺はあえてその道を選びます。俺はあなたの息子ですから、それを受け入れていきます」
「俺のことが本当に分からなかったのですか」
「り……陸なのか……本当に」
「そうですよ」
冷酷な声で、俺は父にそう告げた。
明らかに父は動揺していた。それもそうだろう。自分と血の繋がった息子が突如現れ、しかもその息子は自分が義理の息子に犯した罪を知っているのだから。
本当は、こんな再会を夢見ていたわけじゃない。だが今の俺には、この再会がふさわしいと感じていた。
父が犯した罪の重さ。
それをまるで自分がしたことのように感じるのは何故だろう。おそらく俺にもどこか潜在的に後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。心の奥底で俺も洋をそんな風に貶めようとしていたのかもしれない。だが俺は父の二の舞を演ずるようなことがあってはならない。それならば道は一つ、洋を擁護する方を選びたい。
恨むのは簡単だが、許するのは難しい。
それにあえて挑みたい。
「KENT! KENTはいるか! 」
「はい」
父が大声で誰かを呼ぶと、すぐにその男性が駆けつけてきた。
「すまないが私を起こしてくれ。それから……書斎から、あれを持って来てくれ」
父の顔は蒼白だった。白人男性の介助によって、車椅子に座らせてもらう父の姿を見るのは悲しかった。発砲事件に巻き込まれて下半身不随になったと事前に聞いていたが、実際に目で見ると辛いものだ。
「はい、お待ちください」
「洋、お前は大丈夫か」
「あっ……ああ」
洋の方も俺の行動に驚いたようで、立ち尽くしていた。じっとその濡れたような目で、事の次第を見守っているようだった。
しばらくして、さっきの男性が手に何か冊子のような物を持って帰って来た。
「どうぞ」
「おお、ありがとう」
父の手に渡った黒い冊子。パラパラとめくり出すと、そこにあったのは……きちんとアルバムに収められた俺の写真だった。まだ幼い俺の笑顔がそこにはあった。赤ん坊の頃。幼稚園……小学校、そして小学生の父と別れた頃の写真。中学生の俺、サッカーをしている姿……母が写真を途中まで送っているのには気が付いていたが、父がその写真を受け取っても一度も俺に会いに来てくれなかったことばかりずっと恨んでいた。
だから送られた写真なんて、とっくに捨てられていたと思っていたのに……こんなにきちんとアルバムの納められていたなんて驚いた。
それから父は、俺の今の顔とアルバムの顔をじっと見比べた。
確かに十年前のあどけない中学生の頃とモデルになった二十八歳の今では、髪型もスタイルも何もかも変わってしまって、昔の同級生も気が付かない程なのは事実だ。
「おお確かに陸だ……君は本当に陸なんだな。なんてことだ……私は息子になんてことをしてしまったんだ。二人の息子になんてことを……ううっ…うっ…」
父が突如慟哭した。初めて見る姿だった。
躰を二つに折って肩を震わすその姿を、憐れに感じた。
立派な父だったのに、何故こんなことになってしまったのだろう。隣に立っている洋も動揺していた。何を話しかけて良いのか分からないように戸惑っていた。
「父さん……俺は、あなたのことを見捨てません。だからもうこれ以上罪を犯さないでください。洋を先に進ませてやってくれませんか。もうあなたの手元から放してやって下さい。戸籍という足枷はもう解いてやってください」
「陸さん……」
洋がはっとした顔で、状況を理解したらしく俺のことを見つめて来た。俺は洋に対して無言で頷いた。
許すんだ、守るんだ。
縁あって結びついた父の二人の息子。もう一人の俺なんだ……洋は。
「……陸……お前はこんな父でもいいのか。私がどんなに罪深いことを犯したか……洋にしたこと……お前は……すべて知っているのに……それでもいいのか」
「あぁ何もかも知った上で、俺はあえてその道を選びます。俺はあなたの息子ですから、それを受け入れていきます」
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