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第8章
光の破片 2
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「……義父さん……遅くなりました」
「おおっ! 洋……遅かったな。良く来てくれた。さぁ顔を見せておくれ、もっと近くで、さぁほら父の元へ来てくれ」
「あっあの……」
嬉しそうに笑う父のその手で招かれると、逆らうことが出来ず、足をゆらりと一歩踏み出していた。本当は行きたくない。父の傍によれば、鼻を掠める僅かな体臭にすら、あの日の記憶が嫌でも蘇えってしまうから。あの日俺の中に出されたものが、そのまま躰の中に潜在的に植え付けられているような気がしてならない。忘れていた嫌悪感で寒気と鳥肌が立っていた。
「行くなっ!」
そんな俺の肩を、陸さんが突然後ろからぐいっと掴んで制止した。
「何故? 」
「そんな近くに行かなくても、お前の顔ならもう十分見えているだろっ」
「なんだね、君は? 不躾な……」
「え………父さん彼のことが分からないのですか」
全く心当たりがないような呆けた表情を浮かべた後、俺の方ばかりただ一心に見つめて来る義父の視線に辟易する。
自分の息子が分からないなんて。そんな……あまりに呆れて、唇がわなわなと震えてしまった。
「洋、いいからお前の用件から先にすすめろ」
陸さんはそんなことお構いなしに平然としている。陸さん……どうして? 何故そんな風にしていられる?
「だが……」
「俺のことは後でいい」
「そうだ、洋、用事って一体なんだ? わざわざニューヨークまで来るくらいなんだから、大切なことだろう? 私はあれから気になって眠れなかったよ。もしかしてこっちに戻って来るのか。あの男と別れたのか。父さんとまた暮らしてくれるのか」
ここまで来て、まだ義父はそんな希望を持っているのか……呆れると同時に、これから話すことへの不安を覚えた。義父の精神状態はどこかおかしい、危うい。
「……いや、そうじゃないんです。むしろその逆です」
「洋? それじゃあ一体ここに何をしに? 」
落胆している父に一通の封書を差し出した。
「義父さんこれを見て下さい」
「なんだね、これは?」
「……それは、養子離縁届けです」
「洋? 一体お前自分が何を言っているのか分かっているのか」
「義父さん、お願いします。俺…丈の戸籍に入りたい。だからお願いです。養子の離縁を認めてください。書類に判を押してください。」
「なっ……なんてことを。洋っお前という子は、そんな恐ろしいことを考えていたのか。あいつと行かせてやっただけじゃ物足りないのか! くそっこんな書類っ」
「あっやめてください!」
「五月蠅い!」
「おいっ! もういい加減にしろっ!」
義父が俺の渡した書類を勢いよく破ろうとしたその瞬間、突然それまで黙って隣に座っていた陸さんが立ち上がり、義父のことを車椅子が倒れる程、強く殴った。
「うわっつ!」
ドスンと音がして、義父が車椅子ごと床に倒れた。
「きっ君、何をするんだ? 私はこんな躰なんだぞ! 弱者への暴力が許されると思っているのか」
「ふざけるな! 何が弱者だよ! 今のは、かつてあなたに力づくで犯されてしまった洋の分だ。それからこれは……」
そう言いながら、もう一発立て続けに義父を殴った。
「これはあんたに捨てられた息子の分だ!」
「陸さん!」
義父は殴られた頬を押さえながら信じられないといった目で、陸さんのことを見上げていた。
「え……君は……まさか……陸なのか……」
「おおっ! 洋……遅かったな。良く来てくれた。さぁ顔を見せておくれ、もっと近くで、さぁほら父の元へ来てくれ」
「あっあの……」
嬉しそうに笑う父のその手で招かれると、逆らうことが出来ず、足をゆらりと一歩踏み出していた。本当は行きたくない。父の傍によれば、鼻を掠める僅かな体臭にすら、あの日の記憶が嫌でも蘇えってしまうから。あの日俺の中に出されたものが、そのまま躰の中に潜在的に植え付けられているような気がしてならない。忘れていた嫌悪感で寒気と鳥肌が立っていた。
「行くなっ!」
そんな俺の肩を、陸さんが突然後ろからぐいっと掴んで制止した。
「何故? 」
「そんな近くに行かなくても、お前の顔ならもう十分見えているだろっ」
「なんだね、君は? 不躾な……」
「え………父さん彼のことが分からないのですか」
全く心当たりがないような呆けた表情を浮かべた後、俺の方ばかりただ一心に見つめて来る義父の視線に辟易する。
自分の息子が分からないなんて。そんな……あまりに呆れて、唇がわなわなと震えてしまった。
「洋、いいからお前の用件から先にすすめろ」
陸さんはそんなことお構いなしに平然としている。陸さん……どうして? 何故そんな風にしていられる?
「だが……」
「俺のことは後でいい」
「そうだ、洋、用事って一体なんだ? わざわざニューヨークまで来るくらいなんだから、大切なことだろう? 私はあれから気になって眠れなかったよ。もしかしてこっちに戻って来るのか。あの男と別れたのか。父さんとまた暮らしてくれるのか」
ここまで来て、まだ義父はそんな希望を持っているのか……呆れると同時に、これから話すことへの不安を覚えた。義父の精神状態はどこかおかしい、危うい。
「……いや、そうじゃないんです。むしろその逆です」
「洋? それじゃあ一体ここに何をしに? 」
落胆している父に一通の封書を差し出した。
「義父さんこれを見て下さい」
「なんだね、これは?」
「……それは、養子離縁届けです」
「洋? 一体お前自分が何を言っているのか分かっているのか」
「義父さん、お願いします。俺…丈の戸籍に入りたい。だからお願いです。養子の離縁を認めてください。書類に判を押してください。」
「なっ……なんてことを。洋っお前という子は、そんな恐ろしいことを考えていたのか。あいつと行かせてやっただけじゃ物足りないのか! くそっこんな書類っ」
「あっやめてください!」
「五月蠅い!」
「おいっ! もういい加減にしろっ!」
義父が俺の渡した書類を勢いよく破ろうとしたその瞬間、突然それまで黙って隣に座っていた陸さんが立ち上がり、義父のことを車椅子が倒れる程、強く殴った。
「うわっつ!」
ドスンと音がして、義父が車椅子ごと床に倒れた。
「きっ君、何をするんだ? 私はこんな躰なんだぞ! 弱者への暴力が許されると思っているのか」
「ふざけるな! 何が弱者だよ! 今のは、かつてあなたに力づくで犯されてしまった洋の分だ。それからこれは……」
そう言いながら、もう一発立て続けに義父を殴った。
「これはあんたに捨てられた息子の分だ!」
「陸さん!」
義父は殴られた頬を押さえながら信じられないといった目で、陸さんのことを見上げていた。
「え……君は……まさか……陸なのか……」
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