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第8章
光線 9
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翌日、少し寂し気な優也さんに見送られた。
「優也さん、それじゃ行ってくるよ」
「……うん」
「そんな寂しそうな顔しないで。あーもう一緒に連れて行きたいな」
優也さんの腰をキュッと抱きしめてやると、少し背伸びをして、俺の肩にぎこちなく手をまわして来た。ほんとにこの人のこんなたどたどしい仕草が初々しいんだよな。本当に可愛い。
その細い顎をそっと掴んで上を向かせてキスを落とした。少し半開きになった唇が色っぽい。
「ん……Kaiくん、気を付けて」
「大丈夫。ちゃんと帰って来るから」
「……うん」
「俺のこと信じて。絶対一人にさせない」
「……うん」
どこか不安げな迷子の子猫のような潤んだ目をしている優也さんの濡れた唇に、もう一度熱いキスをした。早く抱きたいその躰。だが、どこかそういう行為を怯えているような優也さんに対して、俺はまだキス以上のことが出来ないでいた。
優也さんはまだ何も知らないんだ。ゆっくりゆっくりだ。落ち着け。優也さんは俺より年上だし、彼のプライドを傷つけるようなことがあっては駄目だ。
それにしても今朝はひどく名残惜しい別れだった。早く優也さんをこの腕の中に抱きしめたい。そんな湧き上がる想いを、飛行機の中で悶々と持て余すことになった。
****
飛行機がニューヨークへ近づけば近づくほど、洋の元へカイとして向かっていることを強く感じていた。
俺の勘、予感というのだろうか。それが正しければ、今ニューヨークに洋が来ている。慌ただしい出発だったので、日本に連絡して洋の所在を確かめる暇はなかったが、何故かそう確信していた。
俺はニューヨークに着いてすぐに仕事先のホテルへ向かい、フロントへと駆け寄った。洋がここにいるか、いないか。ソウルで俺が働くホテルと提携しているため融通が利くからこそ、まずそれを確認したかった。
「サイガヨウ、この名でチェックインしている男性はいますか」
「あっSHINさん、お待ちしていました。人をお探しですか、少々お待ちください」
「あぁすぐに知らべてくれ、もしいるのなら部屋番号も」
「えっとですね、あぁこの方は数日間滞在中ですね。サイガヨウさん……えっと2408号室です」
「そうか分かった。ちょっと行ってくる」
やっぱりそうだ!予感は的中した!
数日前聞こえた空耳のような声は、やはりヨウ隊長の声だった。
洋は今、俺の助けが必要なのか。
導かれるように2408号室、洋のもとへ俺が確実に向かっているのがその証拠だ。本当にヨウ隊長あなたはすごい人だ。
それにしても心臓がバクバクしてくる。なにか今にも洋に危機がせまっているような緊迫した状況を感じた。
「ああっ、くそっ!」
慌ててエレベーター乗ろう思ったが、目の前で閉まってしまった。閉まりかけの扉の先には、黒人と東洋人が乗っているのがちらっと見えた。なんだかますます嫌な予感が広がって来る。もしかしたら時間がないんじゃないか。早くしないと! しかし、どのエレベーター機も一斉に上階へと向かっている。
「ったく、こんな時に」
エレベーターホールで待機していると、先ほどのエレベーターが十階で緊急停止してしまった。赤く点滅している非常ボタンに背筋が凍る思いだ。
まさか……何が起きた?
もしかして……洋に関わることかもしれないと思うとぞっとした。
「駄目だ!」
咄嗟に俺は走り出していた。
躰が勝手に動いたというのだろうか……階段を一気に駆け上ると、十階の廊下には女性の悲鳴が鳴り響いていた。でかい図体の黒人と東洋人がもみ合っているて、その一人は日本人のようだった。
「……洋じゃないのか」
一瞬ほっとした。だが早く助けないと、あの日本人は何か必死に黒人の行く手をとめようとしている。加勢に入ると黒人の手から客室のキーが零れ落ちた。
部屋番号は『2408』!!
これは洋の宿泊している部屋番号じゃないか!
状況がうまく把握できないが、咄嗟に日本人の男性に叫んでいた。
「君は早くここから逃げろ!あとは俺が!早く行って……助けてやってくれ!」
「優也さん、それじゃ行ってくるよ」
「……うん」
「そんな寂しそうな顔しないで。あーもう一緒に連れて行きたいな」
優也さんの腰をキュッと抱きしめてやると、少し背伸びをして、俺の肩にぎこちなく手をまわして来た。ほんとにこの人のこんなたどたどしい仕草が初々しいんだよな。本当に可愛い。
その細い顎をそっと掴んで上を向かせてキスを落とした。少し半開きになった唇が色っぽい。
「ん……Kaiくん、気を付けて」
「大丈夫。ちゃんと帰って来るから」
「……うん」
「俺のこと信じて。絶対一人にさせない」
「……うん」
どこか不安げな迷子の子猫のような潤んだ目をしている優也さんの濡れた唇に、もう一度熱いキスをした。早く抱きたいその躰。だが、どこかそういう行為を怯えているような優也さんに対して、俺はまだキス以上のことが出来ないでいた。
優也さんはまだ何も知らないんだ。ゆっくりゆっくりだ。落ち着け。優也さんは俺より年上だし、彼のプライドを傷つけるようなことがあっては駄目だ。
それにしても今朝はひどく名残惜しい別れだった。早く優也さんをこの腕の中に抱きしめたい。そんな湧き上がる想いを、飛行機の中で悶々と持て余すことになった。
****
飛行機がニューヨークへ近づけば近づくほど、洋の元へカイとして向かっていることを強く感じていた。
俺の勘、予感というのだろうか。それが正しければ、今ニューヨークに洋が来ている。慌ただしい出発だったので、日本に連絡して洋の所在を確かめる暇はなかったが、何故かそう確信していた。
俺はニューヨークに着いてすぐに仕事先のホテルへ向かい、フロントへと駆け寄った。洋がここにいるか、いないか。ソウルで俺が働くホテルと提携しているため融通が利くからこそ、まずそれを確認したかった。
「サイガヨウ、この名でチェックインしている男性はいますか」
「あっSHINさん、お待ちしていました。人をお探しですか、少々お待ちください」
「あぁすぐに知らべてくれ、もしいるのなら部屋番号も」
「えっとですね、あぁこの方は数日間滞在中ですね。サイガヨウさん……えっと2408号室です」
「そうか分かった。ちょっと行ってくる」
やっぱりそうだ!予感は的中した!
数日前聞こえた空耳のような声は、やはりヨウ隊長の声だった。
洋は今、俺の助けが必要なのか。
導かれるように2408号室、洋のもとへ俺が確実に向かっているのがその証拠だ。本当にヨウ隊長あなたはすごい人だ。
それにしても心臓がバクバクしてくる。なにか今にも洋に危機がせまっているような緊迫した状況を感じた。
「ああっ、くそっ!」
慌ててエレベーター乗ろう思ったが、目の前で閉まってしまった。閉まりかけの扉の先には、黒人と東洋人が乗っているのがちらっと見えた。なんだかますます嫌な予感が広がって来る。もしかしたら時間がないんじゃないか。早くしないと! しかし、どのエレベーター機も一斉に上階へと向かっている。
「ったく、こんな時に」
エレベーターホールで待機していると、先ほどのエレベーターが十階で緊急停止してしまった。赤く点滅している非常ボタンに背筋が凍る思いだ。
まさか……何が起きた?
もしかして……洋に関わることかもしれないと思うとぞっとした。
「駄目だ!」
咄嗟に俺は走り出していた。
躰が勝手に動いたというのだろうか……階段を一気に駆け上ると、十階の廊下には女性の悲鳴が鳴り響いていた。でかい図体の黒人と東洋人がもみ合っているて、その一人は日本人のようだった。
「……洋じゃないのか」
一瞬ほっとした。だが早く助けないと、あの日本人は何か必死に黒人の行く手をとめようとしている。加勢に入ると黒人の手から客室のキーが零れ落ちた。
部屋番号は『2408』!!
これは洋の宿泊している部屋番号じゃないか!
状況がうまく把握できないが、咄嗟に日本人の男性に叫んでいた。
「君は早くここから逃げろ!あとは俺が!早く行って……助けてやってくれ!」
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