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第8章
光線 5
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眼が暗闇に慣れて来るのに、そう時間はかからなかった。同時に窓際のソファに洋がいるのが分かった。まだぼんやりとしか分からないが、そこに横たわっているのが洋だ。
そして驚いたことに、ソファの傍にまるで洋を護衛しているかのように一人の男が立っていた。何故かそいつは、この世の人間ではないような、異様な雰囲気を醸し出していた。
「おいっ」
目を凝らしてみると、その人物は、洋ではない洋だった。
顔が洋によく似ていた。
一体誰だ?俺は悪い夢をみているのか。こんな時に……こんな状況で?
「お前は一体……誰だ?」
その男は異様な姿をしていた。昔の武将のような鎧姿に剣を握りしめて、殺気立っている。そして重く冷たい声が響いた。
「お前はここに来るべき人間じゃない。帰れ! 洋に近づくな! 」
「なっなんだと? 」
言われた意味が分からなかった。それよりもソファに横たわっている洋の様子が気になる。
何かその姿勢に違和感を感じたからだ。両腕が不自然に後ろにまわっているのは、まさか腕を後ろ手で結わかれているのか。
それに……あぁなんてことだ!
洋の姿は、目を覆いたくなるような悲惨な状況になっていた。着衣に大きく乱れがあったのだ。まさか……もう犯られちまったのか!
「五月蠅い! どけ! 」
俺は一目散に洋のもとへ駆けつけた。
ソファに横たわり気を失っている洋の躰を傾けると、案の定……手首を後ろで縛られ下半身はズボンを足首まで降ろされていた。さらに着ているシャツのボタンはすべて切り取られていた。
「おいっおい! 大丈夫か? 」
「お前……後悔するぞ。知らない方がいいことを知ることになる。俺が待っているのは違う奴だったのに、何故お前が先に来た? 」
洋を揺さぶっていると、再び頭上から冷たい声が鳴り響き、その度に頭が割れるように痛くなる。
そんなこと知るか? それより洋のこの状況だ!
「おいっしっかりしろ! 目を覚ませ!」
後ろ手に縛られていた縄を急いで解いてやると、繊細な白い手首が擦れて血が滲んでいた。それは必死に抵抗した痕だった。それから細い肩を揺さぶって、頬を叩いて覚醒させようとした。
「うっ……」
小さな吐息とその長い睫毛が微かに揺れた。ぞくりとする光景だった。
理性が揺らぎそうになる。いや駄目だ。そんな場合じゃない。俺は……俺は……
「あっ……」
「気が付いたか。しっかりしろ!」
「えっ……あっ……あああ!!!!うわぁ!やめてくれっ」
洋と俺の視線が交差したその瞬間に、洋の悲鳴が部屋に鳴り響いた。
俺の顔を信じられないといった表情で見た後、洋は必死に俺から逃げようともがき出した。
「嫌だ! 嫌だっ! 近寄るなっ!」
興奮して必死に手を振りかざして、俺から逃げようとしている。
「おいっ! どうしたんだ? 大丈夫か。 俺だ。 分からないのか」
「嫌っ……もう絶対に嫌だ、二度とあなたには抱かれたくない。なんで今更……また……こんなの信じられないっ。離してくれ!」
「おい? 一体誰のことを言ってる?」
暴れる洋の顔を両手で抑え込み俺の方を向かせると、洋の目からは途端に大粒の涙が零れてきた。
「嘘つきだ。もう……いや……」
もしかして誰かと混乱しているのか。
「おい? しっかりしろ。ちゃんと俺の顔を見ろ」
顎を掴んで俺の方を向かせると、洋の虚ろな怯えた瞳と正面から向き合った。
「ひっ……あぁぁっお願い。やめて……もう触れないで……あの日を繰り返すのですか…どうして……また」
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、弱弱しい抵抗を繰り返す。精神的ショックが酷いのだろうか。
「おいっ……いい加減にしろ!」
肩を強く揺すると、洋は一層怯えたように躰を小刻みに震わせた。
「義父さん……」
洋によって発せられた致命的な一言によって、俺は雷に打たれたように動けなくなった。
「やめて下さい……義父さん……もう、俺を抱かないで…もう二度としないっていったじゃないか…」
「えっ! なんだって? 今なんて言った?」
聞き間違いならいいのに……
洋を必死に揺さぶると、洋の方もその手から逃れようと必死にまた抵抗を再開した。揉み合っているうちに、俺の腕に無数のひっかき傷が出来ていくが、そんな痛みは届かない。
俺の思考もすっかり停止してしまった。
「お前……今なんて言った? 義父さんって、まさか」
まさか俺の父親のことなのか? この状況で洋のこのパニック……俺の父親が洋を犯したのか。そんなはずない……いや…だが……
洋の横に跪いて呆然としていると、部屋に明かりが突如差し込み、誰かが入って来た。
「洋っ! 大丈夫か! しっかりしろ!」
部屋に駆け込んできたのは、廊下で俺を助けてくれた男性だった。そして洋の躰にすかさず毛布をかけ、そのまま抱きかかえた。興奮している洋に覆いかぶさるように、落ち着かすように抱きとめていた。
「洋、安心しろ。もう大丈夫だ」
「あっ……なんでここに?」
「お前に呼ばれたんだよ…」
そして驚いたことに、ソファの傍にまるで洋を護衛しているかのように一人の男が立っていた。何故かそいつは、この世の人間ではないような、異様な雰囲気を醸し出していた。
「おいっ」
目を凝らしてみると、その人物は、洋ではない洋だった。
顔が洋によく似ていた。
一体誰だ?俺は悪い夢をみているのか。こんな時に……こんな状況で?
「お前は一体……誰だ?」
その男は異様な姿をしていた。昔の武将のような鎧姿に剣を握りしめて、殺気立っている。そして重く冷たい声が響いた。
「お前はここに来るべき人間じゃない。帰れ! 洋に近づくな! 」
「なっなんだと? 」
言われた意味が分からなかった。それよりもソファに横たわっている洋の様子が気になる。
何かその姿勢に違和感を感じたからだ。両腕が不自然に後ろにまわっているのは、まさか腕を後ろ手で結わかれているのか。
それに……あぁなんてことだ!
洋の姿は、目を覆いたくなるような悲惨な状況になっていた。着衣に大きく乱れがあったのだ。まさか……もう犯られちまったのか!
「五月蠅い! どけ! 」
俺は一目散に洋のもとへ駆けつけた。
ソファに横たわり気を失っている洋の躰を傾けると、案の定……手首を後ろで縛られ下半身はズボンを足首まで降ろされていた。さらに着ているシャツのボタンはすべて切り取られていた。
「おいっおい! 大丈夫か? 」
「お前……後悔するぞ。知らない方がいいことを知ることになる。俺が待っているのは違う奴だったのに、何故お前が先に来た? 」
洋を揺さぶっていると、再び頭上から冷たい声が鳴り響き、その度に頭が割れるように痛くなる。
そんなこと知るか? それより洋のこの状況だ!
「おいっしっかりしろ! 目を覚ませ!」
後ろ手に縛られていた縄を急いで解いてやると、繊細な白い手首が擦れて血が滲んでいた。それは必死に抵抗した痕だった。それから細い肩を揺さぶって、頬を叩いて覚醒させようとした。
「うっ……」
小さな吐息とその長い睫毛が微かに揺れた。ぞくりとする光景だった。
理性が揺らぎそうになる。いや駄目だ。そんな場合じゃない。俺は……俺は……
「あっ……」
「気が付いたか。しっかりしろ!」
「えっ……あっ……あああ!!!!うわぁ!やめてくれっ」
洋と俺の視線が交差したその瞬間に、洋の悲鳴が部屋に鳴り響いた。
俺の顔を信じられないといった表情で見た後、洋は必死に俺から逃げようともがき出した。
「嫌だ! 嫌だっ! 近寄るなっ!」
興奮して必死に手を振りかざして、俺から逃げようとしている。
「おいっ! どうしたんだ? 大丈夫か。 俺だ。 分からないのか」
「嫌っ……もう絶対に嫌だ、二度とあなたには抱かれたくない。なんで今更……また……こんなの信じられないっ。離してくれ!」
「おい? 一体誰のことを言ってる?」
暴れる洋の顔を両手で抑え込み俺の方を向かせると、洋の目からは途端に大粒の涙が零れてきた。
「嘘つきだ。もう……いや……」
もしかして誰かと混乱しているのか。
「おい? しっかりしろ。ちゃんと俺の顔を見ろ」
顎を掴んで俺の方を向かせると、洋の虚ろな怯えた瞳と正面から向き合った。
「ひっ……あぁぁっお願い。やめて……もう触れないで……あの日を繰り返すのですか…どうして……また」
ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら、弱弱しい抵抗を繰り返す。精神的ショックが酷いのだろうか。
「おいっ……いい加減にしろ!」
肩を強く揺すると、洋は一層怯えたように躰を小刻みに震わせた。
「義父さん……」
洋によって発せられた致命的な一言によって、俺は雷に打たれたように動けなくなった。
「やめて下さい……義父さん……もう、俺を抱かないで…もう二度としないっていったじゃないか…」
「えっ! なんだって? 今なんて言った?」
聞き間違いならいいのに……
洋を必死に揺さぶると、洋の方もその手から逃れようと必死にまた抵抗を再開した。揉み合っているうちに、俺の腕に無数のひっかき傷が出来ていくが、そんな痛みは届かない。
俺の思考もすっかり停止してしまった。
「お前……今なんて言った? 義父さんって、まさか」
まさか俺の父親のことなのか? この状況で洋のこのパニック……俺の父親が洋を犯したのか。そんなはずない……いや…だが……
洋の横に跪いて呆然としていると、部屋に明かりが突如差し込み、誰かが入って来た。
「洋っ! 大丈夫か! しっかりしろ!」
部屋に駆け込んできたのは、廊下で俺を助けてくれた男性だった。そして洋の躰にすかさず毛布をかけ、そのまま抱きかかえた。興奮している洋に覆いかぶさるように、落ち着かすように抱きとめていた。
「洋、安心しろ。もう大丈夫だ」
「あっ……なんでここに?」
「お前に呼ばれたんだよ…」
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