重なる月

志生帆 海

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第8章

光線 4

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 大柄な男性を殴りつけた衝撃でエレベーターが大きく横揺れして、そのまま10階で停まってしまった。そして緊急停止のため、ドアがそこで開いてしまった。

 相手は体格も体力も俺よりはるかに上の外人なので、やはり一撃では済まなかったようだ。
すぐにユラリと起き上がって来て、今度は逆に殴られそうになる。

「Don't be ridiculous!」(てめぇふざけるな!)

 くそっ!まずいな。
 俺は身の危険を感じ、エレベーターからホテルの廊下に逃げる。

「Drop dead!」(くたばれ!)

 今度は激しく殴られ、俺の方が廊下の壁に吹っ飛んでしまった。その衝撃音で、客室から人が出て来て悲鳴をあげた。

「What are you staring at !?」(何見てんだ?)

 廊下に倒れこんだまま黒人の男に馬乗りにされ、再び腹を激しく殴られる。

「うっ!」
「Oh my god!」(なんてこと!)
「Please come early!」(早く来て!)

 女性の悲鳴が聞こえ、それから誰かを呼ぶ声も聞こえた。

 くそっ、こいつを洋のもとへ行かすわけには行かない。

 ガバッと渾身の力を込めて、起き上がり今度は俺が殴り掛かる。もみくちゃになっていると、突然誰かが間に入って来た。殴られる寸前のパンチを手で受け止め、俺を庇ってくれた。

 どうやら加勢してくれたようだ。助かった!俺一人じゃ無理だった。

「What is it, you? Come on, make your move. I'll take you all on at once.」
(なんだお前?いいぜ、まとめて相手してやるぜ、かかってこい!)

「君、早くここから逃げて。あとは俺が!」

 加勢してくれた男性は強かった。強い奴だった。闘いに慣れているようで、あっという間に優勢になっていった。

 だが……

「さぁ早く行って!」

 もう一度促され覚悟を決めた。

「ありがとう! すまない! この部屋に早く行かないといけないんだ! あいつを助けないと」

 足元に落ちていたルームキーを拾い上げて、助けてくれた相手に見せてから、俺は一気に階段を駆け上がった。

「分かった! 早く行ってくれ! 」

 そんな声が背後から聞こえた。

 階段を駆け上がり、はぁはぁと息を切らして後ろを振り返ると、しーんと静まり返っていた。もう追いかけて来る気配はなくほっとした。さっきの男性が捕えてくれたのだろうか。

 ここが2408号室か。

 深呼吸して、息を整えた。
 この部屋の中には、洋がいる。
 何事もなかったことを祈る。

 でも既に……辰起に危害を加えられてしまったのではないか。そう思うと足元から震えがあがってきてしまうが、意を決して鍵を開けた。

 部屋は暗闇に包まれていた。
 深い深い沼の底のような黒一色の世界。

「洋……いるのか」
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